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Vol.12 クリスマスがやってきた

クリスマスがやってきたArriva Natale!

ハッピーで忙しい、クリスマス時期のイタリア人たちGli italiani felici e impegnati sotto Natale

イタリアで今頃の季節に交わす挨拶言葉の定番といえば「Buon Nataleブォン・ナターレ」、直訳するとよいクリスマスを、つまりメリー・クリスマス! ご存じの通り、イタリア人にとってのクリスマス=ナターレは、日本人にとってのお正月みたいなもので、一年の節目の大切なイヴェント。友達も仕事仲間も、クリスマス前の最後に会う機会に、Buon Nataleと言い合って挨拶を交わす。日本人が「では、よいお年を」とか「来年もよろしくお願いします」と言い合うみたいな、そんな感じ。
だけどイタリア暮らしが長くなって、耳を澄ませば少しは人々の会話が聞きとれるようになってくると、おや? 何かちょっと違うことを言っていることに気づくのだ。Buon Nataleよりも「Buone Festeブォネ・フェステ」と言っている人のほうが多いぞ。なに?
Buon Nataleは「よい」+「クリスマス」でメリー・クリスマスなのだが、Buone Festeとなると「よいの複数形」+「祝日の複数形」である。ご存じのように、イタリア語の名詞はいちいち単数形複数形、女性名詞男性名詞というのがあって、それにくっつく形容詞なんかもいちいち変化するという、大変面倒くさい言語である。
さて、祝日の複数形である。実はイタリアでは12月25日がクリスマスで国民の祝日だが、翌26日はキリスト教における最初の殉教者と言われるステファノ聖人の日ということでまた祝日、そして1月1日がカポ・ダンノ=元旦、そして1月6日が東方の三博士がキリスト礼拝にやってきた日を記念するお祭りエピファニアでまたまた祝日、とずっと祝日が続くのだ。だからこの時期、多くのイタリア人たちが「Buone Feste」と複数形で挨拶するというわけなのだ。
さて、このフェスタ=祝日の連ちゃんを、イタリア人たちはどのように過ごしているのか。11月中旬から街はクリスマスカラー一色になり、プレゼントを買い歩く人、友人同士ピッツェリアなんかでわいわい忘年会(というよりクリスマス会かな、イタリア人的には)をする人が増え、頭の中はクリスマスでいっぱいになる。
一方12月24日は、日本人がイブイブといって大事にするほどのことはなく、夕方までは仕事をこなしつつ、実は買い残したプレゼントを買いに走ったりするので浮かれている場合ではない(25日、26日はお店が全部閉まってしまうから)。夕食は翌日のフルコースのご馳走に備えて、魚介類の軽めなご馳走を食べ、厳かな瞬間0時、つまりイエス・キリストが生まれた瞬間を待つ。
そして12月25日、ナターレ当日。前日の夜は0時になるのを待ってスプマンテで乾杯したり、クリスマスミサに出かけたりして夜更かししたので、朝はゆっくり起き、軽~く朝食をすませたら、いざ、クリスマスディナーへ。基本は家族だから、独身で一人暮らしなら親元へ、結婚していたらどちらの親のほうへ行くかで結構もめるという話もよく聞くが、とにかくこれも実家へ。
日本のお母さんがお正月にお節料理を作るように、クリスマスディナーこそがイタリアマンマの晴れ舞台。ご馳走を腕によりをかけて作る。地方によって、家族によってメニューは様々なようだが、私の住むピエモンテだったらいろいろな肉を混ぜて挽いたものを詰めたアニョロッティ(ラビオリの一種)とか、去勢雄鶏に詰め物をしたものなどなど。それからこれはお正月も共通なのだが、北イタリアの人たちがこの時期よく食べるものに、「コテキーノとレンティッキエ」がある。コテキーノというのは、ブタの皮に詰めた直径5センチから10センチほどもあるソーセージで、かなり脂っこくはあるがスパイシーでなかなかおいしい。グツグツ茹でて輪切りにしたものを、炒め煮にしたレンティッキエ、つまりレンズ豆と一緒に食べる。コテキーノもレンズ豆も、お金の形を連想させるため縁起がいいということでこの時期に食べるのだとか。数の子を食べて子宝を願ったり、黒豆を食べてマメな人間になるようにと祈ったりする日本と同じでおもしろい。
最近は腕を振るうのが面倒くさいとか、時間がないお母さんも増えて、レストランでクリスマスを祝う人も増えているようだ。私がイタリアへやってきた16年前のクリスマスには、ナターレといえば、お店もレストランもみーんなクローズして街中がシーンとしていたものだが、最近はたくさんのレストランが営業している。
さてナターレが終わると、今度はみんな一斉に元旦のお祝いに向かって準備を始める。といってもイタリアでは大掃除もしないしお節料理も作らない。彼らにとっての元旦は、新しい年が始まったことを祝うというだけで宗教的な意味がない。祝日としてランクが低いのか(?)、家族で集まって厳かに祝うというよりは、友人や恋人同士で大みそかの夜に集まり、カウントダウンをしてばか騒ぎをする、そんなケースが多いようだ。過ぎ去った年の物を窓から捨てて心機一転をはかるという習慣があって、夜中に道を歩いていると窓からいろいろなものが降ってきて危ない目に遭う、というのもほんとうの話。
そんな風にイタリアの松の内(とはいわないけれど)は過ぎていくのだが、1月6日はエピファニアといって、東方の三博士が生まれたばかりのキリストを祝った日だそうで、イタリアでは子供の日のようなことになっている。前日の夜、子供たちはクリスマスツリー(1月6日まで出しておくのがイタリア式)に靴下をぶら下げておくと、べファーナという魔法使いのおばあさんがほうきに乗ってやってきて、よい子にはお菓子を、悪い子には炭を入れていくという。もちろん本物の炭をもらう子供なんかいるわけがなく、この時期のお菓子屋さんには、炭の形を模した砂糖菓子カルボーネ(炭、の意味)が必ず売られている。あらあら、靴下にプレゼントを入れてくれるのはサンタクロースと思っていたのに、ところ変わればお祭りも様々である。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.11 イタリアのクリスマス菓子

イタリアのクリスマス菓子I dolci natalizi italiani

一年中クリスマスだったらいいのに…Vorrei che sia tutto l’anno Natale

10月中旬を過ぎた頃から、イタリア各地の、街中のいたるところで、何かが何となくソワソワし始める。ひんやりと冷たくなった空気や、色づき始めた街路樹や、焼き栗屋の屋台から立ち上る煙もなにもかもが、もうすぐやってくる一年で一番大切なイヴェントを予感させるからだ。
そう、ナターレ=クリスマスはイタリア人にとって一番大切で、一番楽しいイベントだから、12月25日当日しか楽しまないのではもったいないと、10月中旬からいろいろなことがクリスマスモードに切り替わる。クリスマスツリーやイルミネーションを飾ったり、プレゼント探しに勤しむのは日本人も同じかもしれないけれど、イタリア人ならではの、この時期ならではの楽しみは、これじゃないかと思うことがある。それはクリスマス菓子を約2ヵ月間、堪能しまくることだ。 
イタリアのクリスマス菓子で一番有名なのはご存じパネットーネ。伝統料理や伝統菓子といったものが少ないミラノの数少ない伝統ケーキで、たっぷりと発酵させた粉と卵、砂糖などで作った生地にドライフルーツやナッツ類をふんだんに入れて焼きあげたもの。背の低いコック帽のような、ドーム型をしたそのケーキは、ミラノなら一年中、その他の都市でも10月を過ぎた頃からお菓子屋さんに姿を現す。初乳を飲んだばかりの子牛の腸から取り出した菌で作る、独特の「パネットーネ菌」で発酵させるせいで、本物は何ヶ月経ってもしっとりしたままだ。これをイタリアの人たちは朝食に、おやつに、約2ヵ月間毎日これを食べ続ける。いったい、平均的なイタリア人家庭ではワンシーズンに何個ぐらい消費するのだろうか、いつか調査してみたいと思うのだが、とにかくそう思わせるぐらい食べまくる。高級菓子店の手作りのものなら、お歳暮ならぬ年末のプレゼントとしても交わされるので、平均消費数はさらに上昇するのだ。
パネットーネと並ぶ二大クリスマス菓子のもう一つはパンドーロ。パネットーネが「大きなパン」なら、こちらは「黄金のパン」という意味。発祥はロメオとジュリエットで有名なヴェローナだそうで、パネットーネよりも軽めの生地を焼いただけの、シンプルなタイプ。食べるときに振りかける粉砂糖がケーキの湿気で固まったところを食べるのがおいしい、と思うのは私だけだろうか。まわりを見ていると、どうもこっちのほうが実は好き、という人が多いのは、やはり長期戦(なにしろ2ヵ月間ですから)だからシンプルなほうが飽きない、ということだろうか。
ところが、こんな原稿を書いていると、イタリアのクリスマス菓子はそればっかりじゃないよ!  という怒りの声が聞こえてきそうなほど、実はイタリア各地にそれぞれのクリスマス菓子がある。パネットーネほど日本で知られていないかもしれないが、わりと有名なところでシエナのパンフォルテとか、アルト・アディジェのツェルテンなどがある。そういうお菓子に共通しているのが、ドライフルーツをふんだんに入れてあることだ。そういえばドイツのシュトーレンやイギリスのクリスマスプディングにもドライフルーツは定番。ドライフルーツは水分を凝縮することで果物の栄養価が高まり(ビタミンCだけは失われるが)保存性も高まるので、ヨーロッパでは昔からクリスマスのご馳走には欠かせないものだったのだ。アプリコット、レーズンなどのオーソドックスなものから、最近はマンゴーやらパイナップルなどエキゾチックフルーツ系もクリスマスのテーブルに登場する。ご馳走をフルコースでいただき、ケーキも満喫した後、だらだらとテーブルでなごみながらドライフルーツをつまむのだ。ずっと食べ続けているのは、日本のお正月みたいな感じだ。そんなわけで、クリスマス菓子にドライフルーツが使われるようになったのじゃないかな、と推察する私。
でも今回私がご紹介したい、イタリアのクリスマス菓子はドライフルーツとは全く関係ない「ストゥルフォリ」というお菓子だ。ナポリ地方のクリスマス菓子で、すりおろしたレモンの皮で風味をつけ、小さく丸めた小麦粉の生地を油で揚げる。揚がった小さなお団子を、はちみつに絡めて山のように積み上げ、カラースプレーなどでデコレーションした素朴だけど、明るくて元気のあるお菓子。ギリシャが発祥の地と言われ、似たお菓子がカラブリア州では「チチラータ」、ウンブリア州では「チチェルキアータ」と呼ばれている。お皿に取り分けるというより、みんなで手を出してはつまみ、口に入れてはまたつまむというふうに食べていると、やめられない止まらないおいしさだ。いつかシーキューブで日本にも紹介してほしいなあと思う、私のお気に入りのクリスマス菓子なのである。 


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.10 イタリアのチーズの話

イタリアのチーズの話Il racconto del formaggio d’Italia

チーズの王様パルミジャーノ・レッジャーノIl Parmigiano Reggiano,re del formaggio

イタリアのチーズといえば、まずは何をおいてもパルミジャーノ・レッジャーノだ。ゴルゴンゾーラやモッツァレッラも大好きだけど、パルミジャーノがなかったら一日も暮らせないわと悶えるイタリア人(特に北イタリア)の姿は簡単に想像ができる。それは単なるチーズの域を超えた国民食というか、日本人にとっての醤油というか、とにかくありとあらゆる場面で食べられ、ありとあらゆる料理に使われるのが、パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズなのだ。
ちなみにパルミジャーノ・レッジャーノとは、北イタリアはエミリア・ロマーニャ州パルマを中心とする地域で作られる、牛乳のチーズ。パルマと、レッジョ・エミリアが主な生産地だから、「パルミジャーノ」「レッジャーノ」という名前なわけだ。大きな型が特徴的で、厚さ18センチ前後、重さ40キロ近くもあるパルミジャーノを丸ごとショーウィンドウに飾る店やレストランを、日本でも見かけることがあるのではないだろうか。これまたちなみに、ほぼ同じ製法だが、ミラノのあるロンバルディア州やトリノのあるピエモンテ州で作られているグラナ・パダーノというチーズは、ほんの少し値段が安く、でも味はほぼ同じという庶民派の人気モノだ。
さて、イタリア人は生まれてから死ぬまでに、いったいどれぐらいパルミジャーノを食べまくるのか。まずは生まれてすぐに、イタリア人たちはパルミジャーノの洗礼を受ける。マンマたちは、歯が生えかけの赤ちゃんに歯固めとしてパルミジャーノの皮の固い部分を持たせるのだ。なにしろ固くて噛み切ることはできないが、カジカジしているうちに、あのほんのり甘く、しょっぱいチーズの味が口の中に溶けだして赤ちゃん幸せ! 塩分過多がちょっと心配になるけれど、カルシウムはたっぷりだ。イタリアの赤ん坊たちは、こうしてイタリア人になっていくのである。小学校に入るころには、ママ! おやつはパルミジャーノでね! なんていう、日本人からみるとなんともグルメな、でもイタリア人としてはいたって普通の子供になっていく。スーパーマーケットのチーズコーナーには、一口大に包装されたおやつ用パルミジャーノなんていうのも売られているほどだ。
大人になったイタリア人たちは、パスタに、リゾットに、ほぼ毎日、削ったパルミジャーノチーズが欠かせないのはもちろん、例えば「アーティチョークのサラダ」や「フンギ・ポルチーニのサラダ」などのようなご馳走サラダには薄くスライスしたパルミジャーノは必須だし、肉団子やスープの隠し味には必ずと言っていいほどパルミジャーノが入っている。食前酒のお供に、食後のチーズとしても活躍するだけでなく、最近はパルミジャーノのスフレとか、パルミジャーノのジェラートなんかがデザートに登場するレストランもあったりして、ますますおいしいパルミジャーノなのである。
イタリアには300とも400ともいわれる種類のチーズがあって、どれも個性的でおいしいのだが、イタリア人がどんなふうに食べているかをちょっと書いただけでこんなに長くなってしまうなんて、パルミジャーノ・レッジャーノがチーズの王様といわれる所以かもしれない。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.9 イタリアの秋のご馳走

イタリアの秋のご馳走La Bonta’ d’Italia in Autunno

栗の王様と、栗のお菓子の王様と。Il re delle castagne e il re dei dolci di castagna.

世界に名だたる白トリュフを筆頭に、フンギ・ポルチーニなどのキノコ類、ぶどうにイチジクに柿に、Novelloノヴェッロと呼ばれるできたてホヤホヤのワインなどなど、秋のイタリアも日本同様、味覚の秋、食欲の秋なのである。
そんな中でも、お菓子を愛する私たちが忘れちゃならないのが、栗。
イタリアの栗は大きく分けて2種類ある。カスターニャと呼ばれるものは日本にもあるいわゆる栗で、9月の後半から10月、11月にかけて、市場の果物屋台や町の果物屋さんに、あの艶々と、丸くて愛らしい姿が並ぶ。それを買ってきて、手っ取り早く食べたい時は茹で栗に。いやあ、栗はやっぱり香ばしくないと、という人はオーブンに入れてアロースト、つまり焼き栗に。焼く前に一つ一つナイフで切れ目を入れておき、白ワインをふりかけて焼くアローストは、茹でるよりちょっと手間がかかるけれど、香ばしさと甘さが一段と引き立って、やめられない止まらないおいしさだ。日本よりも寒くなるのがずっと早いイタリアで、ローストした栗を食べながら赤ワインを飲み、おしゃべりしたりビデオを見るのは秋の夜長の素敵な過ごし方。
焼き栗といえば、秋になるとイタリアの各都市、各町の通りを賑わすのが焼き栗の屋台だ。日本の石焼芋に似て、熱した炭で焼かれた栗が小さな紙袋に入れて売られている。素材の栗にこだわった美味しい焼き栗屋さん、一つ一つの殻に切れ目を入れた上、殻を捨てるための空の袋もくれる気の利いたおじさん、妙に威勢のいいお兄さんなど様々な焼き栗屋さんが町のあちこちで煙を立てている風景は、晩秋のイタリアになくてはならない風物詩。煤で手がどんなに汚れても、買わずに通り過ぎることなんかできないのである。
その他、栗=カスターニャを使ったお菓子、料理はいろいろあって、トスカーナがオリジナルといわれるカスタニャッチョというケーキのようなもの、栗の粉で作るポレンタ、乾燥栗、ハチミツ漬けの栗etc…と秋は栗尽くし。でもそんな栗料理、栗菓子の中の王様として君臨するのは、なんと言ってもマロングラッセだ、と私は思う。
マロングラッセは冒頭に書いた2種類ある栗のもう一種類、マローネという栗から作られる。マローネはイガの中に一粒しか実ができないのが特徴で、カスターニャよりずっと実が大きくて香りが強い。トスカーナやボローニャに名産のマローネがあるが、私の住むピエモンテのマローネは、かつてフランスの食材辞典「ラ・ルース」に、「マロングラッセを作るのに最適な最高品質」と評されたほどで、だからトリノのマロングラッセはとても美味しいので有名だ。老舗のお菓子屋さんはこの季節競うようにマロングラッセを作りショーウィンドウに並べるが、どこもリキュールなどを入れずに作るのがトリノ風。マロン自体の香りが高いので、他のもので香りを補う必要がないというわけだ。
そんなわけでトリノの人はマロングラッセが大好き。マロングラッセを使ったお菓子も大変な人気で、一番人気はマロングラッセ入りのジェラート。マロングラッセが出回る季節にしかない限定版な上に、ちょっと高級志向のジェラート屋さんにしかないことが、より食べたい感をくすぐる。
そして一番人気がジェラートなら、マロングラッセを使ったお菓子の王様はやはりこれ、モンテ・ビアンコである。イタリア語でモン・ブランを意味するモンテ・ビアンコは、イタリアとフランスをまたがるヨーロッパアルプス最高峰の名前。フランス風のモン・ブランはメレンゲの上にマロンクリームを絞り出して粉糖をふって山の雪を演出するのに対して、イタリアのモンテ・ビアンコはマロンクリームの周りや上にメレンゲをこれでもか、と山盛りにして豪雪(?)を再現。どっちがおいしいか、食べ比べる機会があったりしたら幸せなのに。
食べ比べと言えば、シーキューブから発売されたばかりの「トルタ・ディ・マローネ」や「渋皮栗とキャラメルのムース」「渋皮栗とプリンのドルチェ」もイタリアの秋満載な上に、日本人の繊細な仕事が目に浮かぶような美しいケーキ。イタリアのマロン菓子と一緒に全部並べて食べ比べてみたい。天高く馬肥ゆる秋、ダイエットは一時中止してね。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.8 イタリア式誕生日の過ごし方

イタリア式誕生日の過ごし方Festa di Compleanno alla Italiana

タンティ・アグーリー・アー・テー!Tanti auguri a te!

イタリア人の誕生日の過ごし方で、一番特徴的だな、と思うのが、パーティーをした場合に主役が、つまり誕生日を祝ってもらう側が祝う側におごるというシステムだ。えー? 誕生日なのになんで自分でおごらないといけないのさー、とイタリア初心者だったころの私は、その理不尽さによく腹を立てたものだ。しかし日が経つにつれ、おや、このシステム、よく考えてみるとそんなに変じゃないかも、と考える余裕ができた。変じゃないというのは、家で誕生パーティーを開いた場合を考えてみればよくわかる。本人、または家族がご馳走を用意して、友人知人を招待する。これは全然あたりまえで、イタリアではそれが外食の場合でも適用されるというだけのことなのだ。だけどやっぱり、レストランやピッツェリアで誕生会をして、自分のお財布が軽くなると言うのはいかがなものかなあ、と思ってしまうのは私だけであろうか? いくらプレゼントをもらえるといっても、自分の好きなものを必ずしももらえるわけでもないしなあ。すみません、ケチで。
さて、この原稿の締め切り数日前に、イタリア人の、大人の誕生パーティーに呼ばれる機会があった。ラッキー、これで原稿の取材ができるし、写真は撮れるしということで、さっそく行ってみた。
当人は50歳男性。主催者はその奥さん。いい大人だから毎年パーティーをしているわけではないけれど、50歳という人生の節目だから、ちょっとパーティーなんかしてみようか、と企画されたらしい。招待客は約30名。学生時代の友達、幼なじみ、仕事仲間とその子供たちなど、いろいろな人たちが雑多に集まった中に、兄弟や従兄弟、そして年取ったお母さんもしっかり参加しているところは、いかにもイタリアな感じ。もちろん料理上手な奥さん手作りのおつまみの数々に混ざって、マンマ手作りのサラミやお惣菜が並んでいたのは言うまでもない。
パーティー開始時間は土曜日の夕方6時。イタリアの夏は日没が午後9時ぐらいととても遅いので、6時はまだまだ宵の口。夕食は出さないけど、気の利いたおつまみとビールやワインを飲んで食事前のひと時を楽しく過ごしましょう、というスタイルが「リンフレスコ」とか「アペリティーヴォ」と呼ばれ、カジュアルなパーティースタイルとしてとてもポピュラーなのだ。といっても、実はだらだらと食べ続け、お酒を飲み続け、その日はそれで夕食も兼ねておしまい、という場合がとても多い。
誕生パーティーでもそれは同じ。とはいえ、ケーキにキャンドルをともしてハッピーバースデーの歌のイタリア語版「タンティ・アグーリー・アー・テー」を合唱するのはいくつになっても忘れない。ケーキなしで年をとるなんてありえないのだ。だから何かの理由で、自宅にせよ、レストランでにせよ、誕生パーティーができない時には、イタリア人は自分でケーキを持っていってみんなにふるまい、自分の誕生日をアピールする。小学生なら学校へ、大人ならオフィスでと、誕生日はイタリア人すべてがケーキでお祝いしたいのだ。今年はあなたも、シーキューブのバースデーケーキ「フェリチタ」(幸せ、の意味)や「チェルキオ」(輪という意味)をオフィスで配って、イタリア風バースデーを広めてみませんか。















文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.7 イタリア人とバカンス

イタリア人とバカンスGli Italiani e la loro vacanza

バカンスに行く日が待ちきれない!Non vedo l’ora di partire!

「イタリア人にとってバカンスとは」。
それは命の次に大事なもの、といっても過言ではないと思う。いや違うよ、命の次は家族だよ、そうじゃない、財産だ、などと反論する人もいるかもしれないので、じゃあ、こう言ったらどうだろう。
「イタリア人はバカンスを過ごすために生き、仕事をしている」。
 ナターレ(クリスマス)とお正月が終わって、1月から4月初旬までの寒い時期は一応まじめに働くイタリア人(もちろんその間にカルネバーレ=謝肉祭やパスクワ=復活祭の休みなどなどが入るのであるが)も、4月後半、完全に冬が去って太陽が顔を出す日が多くなると、みんないっせいにソワソワしだす。今年のバカンスはいつも通り海の別荘へ行こうかしら、それとも今年は山の避暑地のホテルでおしゃれに過ごしてみようかしら、いや、いっそ海外旅行? とイタリア人たちが旅行雑誌やカタログを前にして悩むのは日本のOLと同じ。問題はその程度と期間である。イタリア人の場合、7月、8月のバカンスを4月から夢見、悩み、準備にいそしみ、ずっとずっとソワソワし続ける。 
4月後半、バカンスのアウトラインを決めたら、5月はその準備に忙しく走り回る。海へ行くなら新しい水着にサングラスにとバカンス用品の品定めはもちろん、バカンス初日からかっこよく水着で決めるためには「日焼け」が最重要課題の一つ。そう、イタリア人の辞書には美白という言葉は存在しない。いかに美しく日焼けしているかが、いかに長くゴージャスなバカンスを過ごしたかのバロメーターとされているので、みんな躍起になって日焼けに精を出す。実際にはあまりゴージャスなバカンスじゃなくても日焼けさえしていれば「ふり」ができる。そう、見栄っぱりなイタリア人たちは、バカンス自慢も大好き。だから日焼けサロンは不景気知らずだし、サロンへ行きたくない人は太陽の出ているほうへ常に顔を向けて日焼けを志す。イタリア人とはひまわりのような人種なのである。
そして6月、イタリア人たちのソワソワ度は最高潮に達し、オフィスも公共機関もその機能の半分ぐらいは麻痺してしまう。何年か前の6月のある日、私はある企業にある取材を申し込もうと電話をかけた。すると広報担当の男性がこう答えた。「取材はお受けできると思いますが、詳しい日程などは9月になってから決めましょう」!! またある女友達は、6月の中旬に妊娠が発覚したので産婦人科医に電話をしてみたところ「お大事にして、9月に来てくださいね」!!!
イタリア人たちがこれほどまでに、人生をかけて楽しみにするバカンスの期間はどれぐらいかというと、最低でも1週間、普通は2週間から1ヶ月。中ランク以上ぐらいの家庭の主婦あたりは、6月に入って子供の学校が休みに入ったとたんに海の別荘へ行き、まるまる3ヶ月バカンス、などというツワモノもいる。この場合、夫は8月の一ヶ月だけ家族に合流するとか、海の別荘から別のバカンス地へ出かけるとか、そんな感じである。
しかしこんなツワモノたちも、日本人が思うほどバカンスに大金をかけているわけでもない。多くのイタリア人は親から引き継いだ別荘を海か山に持っているのだが、その別荘は日本人がイメージする「別荘豪邸」とは全然違う。海辺に建っている1DKマンションなんていう場合が多い。都会の自宅が海のマンションに変わっただけで、食事は毎日家で作って食べ、毎日ビーチで遊んでいるだけだからそんなにお金はかからない。移動はどんなに渋滞してもマイカーの場合がほとんどなので交通費も控えめだし。もちろんホテルや、海外へ行けば話しは別だ。
長い長いバカンスを終えたイタリア人たちは、9月、各々がバカンスの土産話と写真を持って自慢大会に集う。かくして9月のピッツェリアは、低予算で友人とバカンス報告会をしたいイタリア人たちで、いつにも増して賑わうのである。














文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.6 ジェラートの季節がやってきた!

ジェラートの季節がやってきた!Arriva la stagione del gelato!

イタリア風ジェラートの楽しみ方Come si gode il gelato alla Italiana?

今年のヨーロッパは春の到来が遅くて、つい最近まで冬の様な寒さが続いた。と思ったら、ここ最近、春を飛び越していきなり夏のようなお天気。暑い! イタリアの夏といえば、海、バカンス、そしてジェラートである…と思っているのは寒いのが苦手な私だけで、イタリア人たちは春も秋も冬も、一年中ジェラートを食べる。寒かろうが雨が降ろうが、道を歩けばジェラートをなめながら歩く人に必ず出会う。子供も大人も、おじいさんもビジネスマンも、ジェラートが大好きだ。
ジェラートにもいろいろバリエーションがあって、乳脂肪分の高いクリーム系、つまりバニラとかチョコレート、ピスタチオ、チョコチップなどがいわゆる正統派ジェラート。一方、乳脂肪を含まず、フルーツベースの味のものはソルベットといって、暑い夏にはこちらも人気である。そういえば最近シーキューブから、買った時は常温で、おうちで 凍らせて楽しめるという「ソルベット」が発売になった。これで日本の暑い夏も楽しくおいしく過ごせそうである。
ジェラートの原型が生まれたのはローマ時代だという説がある。だが、その以前にも砕いた氷とフルーツを混ぜ合わせたものを食べていたり、聖書にも山羊のミルクに雪を混ぜて食べ、飲んだという記述があったりして、人間とジェラートのおつきあいは想像以上に長いのである。しかし、冷蔵庫もなかった時代にたいしたものだ。人類の食欲は不可能も可能にするのである。
そんな欲張り人類が生み出した最高においしいジェラートが、現代ではイタリアの各都市、各町で食べられる。とはいえ、材料にこだわり、製法にこだわったジェラートはひときわおいしい。ここ数年、イタリアでは高品質ジェラートブームが起きていて、自社の農場で栽培したフルーツと牛乳だけで作られるジェラートが自慢の店とか、様々なカカオの産地や含有率の違うチョコレートフレーバーだけの店などには、いつも行列ができている。
先日、娘を学校に迎えに行った帰り、暑いからジェラートでも食べようかということになった。いつもは9歳の娘が残すのに備えて私の分は買わないのだが、その日は私もジェラートを買った。なぜなら、先日通りかかったその有名ジェラート店には、イタリアではちょっと珍しいキャメルフレーバーがあったりして、気になっていたからなのだ。
「小さなコーンを二つ。一つ目はチョコレート味だけ。ちょっと少なめに盛ってください」。これは娘用だ。「もう一つのほうは、キャラメルとオレンジクリーム」。グランマルニエの風味をつけたオレンジの皮が入ったバニラ、というのにも惹かれたので、この2つのフレーバーを自分用に頼んだ。イタリアでは普通、一番小さなコーンまたはカップが2ユーロぐらいで、2種類のジェラートを入れてくれる。一番小さいといっても、日本でいうビッグサイズぐらいである。
ああ、おいしいねえ、と食べたものの、一番食べたかったキャラメル風味がちょっとしかのっていない。ちょっとがっかりだなあ、と私が言うと娘がこう言った。
「ママ、もしかして、キャラメルを先に頼んだんでしょう?」そうですけど、なにか? と私が問い返すと、娘はこう説明してくれた。
「イタリアではね、2種類頼むとき、後に言ったフレーバーを先に入れるから、コーンの下の方までたっぷり詰まって、先に言った方は後で上にちょこんとのるだけなんだよ」。
なるほど、人の心理として今聞いたばかりのことから仕事にとりかかるということか! 一方頼む方は、より食べたい味を先に言うのが人の情。そこをぐっとこらえて、食べたい味をそっと後で言う。これがイタリアでジェラートを楽しむ極意だったのである。わが娘とはいえ、さすがパパをイタリア人に持つ地元っ子、あっぱれ!














文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.5 イタリアのプリン事情

イタリアのプリン事情I budini alla italiana

おハイソなカスタードプリンとピエモンテのボネCrème Caramel e Bonet piemontese

今回のテーマは「プリン」。ところがイタリアでは日本ほどプリンが市民権を得ていないというか一般的でないというか、とにかくスイーツの中の少数派である。イタリア人が毎日食べるおやつは、ビスケットやクロスタータというトルタ生地にジャムをのせて焼いたものなどが中心、つまり焼き菓子系がほとんどなのだ。
だからってプリンやババロアのようなフルフル系デザートが好きじゃないかというとそんなことは全然なく、イタリア人たちはこういうスイーツを「ドルチェ・アル・クッキアーヨ」、 “スプーン菓子”と呼んでよく食べている。その代表格はパンナコッタであり、ティラミスであり、ズッパ イングレーゼである。だけど、この手のスイーツはレストランで食べる特別なデザートであって、おうちでマンマが自作するという話はあまり聞かない。固まらなかったり、ふんわりできなかったりしたら困るということで、高度な(?)テクニックを要するお菓子は専門家に任せておいて、家で作るお菓子は「やあっ」と材料を混ぜ合わせ「ばーん」と焼くだけにしましょう、という豪快さがイタリアマンマの特権だからだ。
だからプリンもそういう「特別なデザート」の仲間で、レストランのドルチェとして、それから高級お惣菜屋さんのスイーツとして売られている。私の住むピエモンテでは、フランスに近いこともあって、英語の「プリン」(イタリア語Budino)ではなくて、フランス語風に「Crème Caramel」クレーム・カラメルと呼ばれている。
惣菜屋と日本語で言うと、庶民的なイメージだが、イタリアではお金持ちの奥さまや仕事を持つビジネスママが、ご飯を作りたくない、または作れないときに利用する高級店。生ハムで何かをくるんでゼリーがけにしたものとか、野菜を裏ごしして生クリームと混ぜて蒸したフランとか、とにかく家で簡単に作れない、ちょっと華やかなおかずが高い値段で売られている。そんな中に、一人前サイズのアルミホイルケースに入った、少し表面に焦げ目がついたプリンが必ず並んでいる。スーパーマーケットにも、日本みたいな既製品のプリンが売られてはいるがとても少数派で、種類も少なければ、お味のほうもいまいち。コンビニはもちろん、イタリアにはありません。一方日本では、イタリアの香りがするプリンが食べられる。シーキューブが5月に発売した「ブディーノ イタリアーノ」は、マスカルポーネチーズでミルクのコクをたっぷり出した「クレーマ カラメッラ」と、チョコレートとヘーゼルナッツの風味をきかせた「ジャンドゥーヤ」の2ライン。日本に里帰りしたときの楽しみがまた一つ、増えた感じである。
さて、同じプリン系でも、正真正銘イタリア生まれのプリンがある。その名は「ボネ」。私の住むピエモンテ州発祥のお菓子だが、卵と牛乳にチョコレートを加え、アマレットという杏の核を原料にして作ったビスケットを砕いて入れ、蒸し焼きにしたものだ。チョコレート味と杏仁豆腐の味がミックスされたような不思議な味で、ボネ、という変な名前は、これを発明したコックさんが、昔貴婦人がかぶっていた帽子に似た型を使ったことからついたそう。フランス語にとてもよく似たピエモンテの方言で、貴婦人の帽子ボンネットが“ボネッ”と呼ばれていたからだそうだ。














文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.4 イタリア人とバール

イタリア人とバールL’italiani e i loro Bar

「エスプレッソを一杯」Un Caffe、Per Favore!

最近日本でもイタリアのバールがブームなようで、おしゃれな店の作りと本場顔負けのおいしいエスプレッソやカプチーノが飲めるお店も増えている。バールである以上、コーヒーがおいしいことが最優先事項なのは日本もイタリアも同じだが、イタリア人にとってのバールには、おしゃれ度よりももっと大事なことがある。それは自分の家や職場から至近で便利な場所にあり、お店の人間がSimpaticiシンパティチ(感じがよくフレンドリーという意味のイタリア語)で、そしてお値段がリーズナブル、ということだ。 なぜなら彼らは一日に何度も何度もバールを利用するからだ。
まずは朝食に。最近ではイタリアもヘルシーブームで、朝食にはフルーツやヨーグルトやシリアルを食べましょう!と盛んに提唱されているが、大半のイタリア人にとっての朝食とは「エスプレッソのカフェインで覚醒し、ビスケットや甘いパンで血糖値を上げ目覚める」という位置づけ。家では朝食を取らずに、仕事場へ行く途中のバールですますというイタリア人はとても多い。だからたいていのバールは朝の7時から開いている。目を覚ますだけでは物足りない、という人はカプチーノを飲む。
さて、朝食の後は午前のおやつタイムだ。朝食が軽くて小腹の空いたイタリア人たちは、ブリオッシュと呼ばれる、見かけはクロワッサンに似たジャムやチョコレートクリーム入り菓子パンや、コルネットというパイ生地のようなものを筒状にした中にクリーム類を詰めたものを食べ、エスプレッソを飲む。それはそれでおいしいのだけど、どこへ行ってもだいたい同じようなお菓子しかない。老舗の菓子屋さんが併設しているバールやカフェにはちょっと気の利いた菓子パンやトルタがあるのだけれど、そんな店は街に何軒もないので、シーキューブの、あのドライフルーツを使った 「ティンタ フルッタ」や、「ピアット フルッタ」みたいなお菓子があれば人気店になること間違いなしなのになあ。
そしておやつの後も、ランチに、午後のおやつに、夕食前のアペリティーボ(食前酒)に、そしてただ単にコーヒーを飲むためだけにイタリア人は一日中バールを利用する。多い人になると一日5回も6回7回もバールに寄ってエスプレッソをぐいっと立ち飲みし、ちょっとおしゃべりをして出て行く人もいる。感じがよくてフレンドリーな店員がいること、というのがイタリア人にとって行きつけバールの必須条件になるのは、三度の飯とカフェよりも好きかもしれないおしゃべりをするため、そういうことなのだ。
ところで、イタリア人にとってカフェ(コーヒー)といえばエスプレッソのことなので、わざわざエスプレッソをください、とは誰も言わない。エスプレッソ・ペルファボーレ、なんて頼み方をしたらもぐりなのがバレバレだ。「ウン・カッフェ・ペルファボーレ」、イタリア人がチャオの次にもっとも使うと思われるこのワンフレーズが言えたら、あなたも今日からイタリアの玄人である。













文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.3 復活祭とチョコレート

復活祭とチョコレートPasqua e l’uovo di Pasqua

春の訪れと共にやってくる幸せな休日La festa che arriva insieme alla primavera

3月はクリスマスの次にイタリアでお菓子が売れる季節だ。なぜならイタリア人にとってクリスマスの次に大切な祭日「復活祭」がやってくるからだ。
復活祭、イタリア語ではパスクワという。なぜ復活祭かというと、十字架にかけられて死んだイエスの復活を祝う日だから、だそうだ。復活祭がいつかというのは、「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日」と決められていて毎年、日にちが変更するので、ややこしくて覚えられないのだが、だいたい3月後半から4月中旬までの一日。長いヨーロッパの冬がようやく終わり、春の一日をご馳走を食べながら家族で過ごすのだ。
キリストが人類の罪のために自らを犠牲にしたことを象徴するアニェッロ(子羊)、生命や復活のシンボルである卵を使ったご馳走がテーブルに並ぶ。子羊はローストに、卵の方はゆで卵をまるごと、サラミやチーズと一緒にパンに埋め込んだ「カザティエッロ」とか、半割にしたゆで卵の黄身を取りのぞき、その黄身に思い思いのものを混ぜ、再び元の窪みに詰めた「ウォーボ・ソード・リピエーノ」などなど。
デザートにはコロンバ。鳩という意味のこのケーキは、クリスマスに食べるパネットーネと生地も味もほとんど同じなのだが、平和を象徴する鳩の形をしていておめでたいということで、イタリアのパスクワには欠かせない。好きな人はパネットーネの時と同じく、パスクワの何日も前から朝食に、おやつに食べて楽しむ。やっぱりパネットーネと同じように、パスティッチェリアの上質なコロンバは、この時期の贈答品やプレゼントとしても活躍する。
しかし、パスクワのプレゼントの主役といえば、やっぱり卵型のチョコレートだ。この時期、トリノのパスティッチェリアでは、チョコレート職人たちが腕によりをかけて作った美しいチョコレートの卵たちがショーウィンドウを飾る。手のひらサイズのものから高さ1メートルぐらいはありそうな大きなものまで、砂糖細工で飾られた美しいチョコレートたちだ。この美しいチョコレートの中には、「ソルプレーザ」といって、なにかプレゼントが入っているのが決まり。最初から入れてある既製品もあるが、ちょっとお金に余裕のある人なら、たとえば恋人にプレゼントするための指輪を買ってチョコレート屋さんへ行き、その指輪を中に入れたチョコレート卵を作ってもらうという仕組み。パスクワの正餐のテーブルで、高級ショコラティエのチョコレートを割ってみたら素敵な指輪がでてきてうっとり、そんなラブラブなパスクワを過ごす人もいるだろう。
さて、復活祭の翌日は「パスクエッタ」、直訳すると小さなパスクワ、といって友達や親戚等、好きな人たちで集まってピクニックやバーベキューなどをするというのがイタリアの習慣。春の一日をアウトドアで楽しく過ごす。この日で冬は終わり、イタリア人のハートは一気に夏のバカンスへ向けてエンジン始動するのである。














文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.2 2月、カーニバルで熱くなる


2月、カーニバルで熱くなるSCATENIAMO IN CARNEVALE A FEBBRAIO

オレンジ投げ合戦が見もののイヴレアは必見DA NON PERDERE LA BATTAGLIA D’ARANCIA D’’IVREA

12月にナターレ(クリスマス)、そしてカポダンノ(正月)という一年のビッグイベントを終えたイタリアは、年明けから4月までの間にエピファニア(主顕節)、カルネバーレ(謝肉祭)、フェスタ・デラ・ドンナ(女性の日)、そしてパスクワ(復活祭)と全国規模のお祭りが目白押しだ。だいたいみんな宗教イベントなのだが、それぞれのイベントにそれぞれの伝統菓子や伝統料理があって楽しい。ただし調子に乗ってすき放題食べていると、春の訪れと共に厳しいダイエットをする羽目になる。
 そんな一連のイベントの中でも、やっぱり一番賑やかで派手なのがカルネバーレだ。ところで英語で「カーニバル」というと、日本人はなんとなく“踊り狂って練り歩くパレード”をイメージしていませんか。100%間違いではないけれど、それが全てでもない。本来カトリックには復活祭の46日前(四旬節)から断食をする習わしがあり、じゃあその「肉食断ち」の前に、ご馳走いっぱい食べとこうよ、仮装なんかもして騒いじゃおうよ、ということで生まれたのがカーニバルなのだ。なるほど、イタリア語でカルネバーレというのは、もともとラテン語の「Carneカルネ=肉 Valeバーレ=さらば」から来ているそうだ。
さて、イタリアのカルネバーレのお祭りは、各都市で個性的なイベントが繰り広げられる。共通しているのは歴史装束の仮装行列だが、まず有名なのはヴェネチアのカルネバーレだ。怪しげな仮面と仮装をした人々と街の様子はテレビなどでもよく紹介されている。それから派手な山車が呼び物のトスカーナ州ヴィアレッジョのカルネバーレも、今やヨーロッパ三大カルネバーレなんて呼ばれるようになった。
一方ピエモンテ州北部の街イヴレアのカルネバーレは、オレンジ投げ合戦で盛り上がる。昔の装束に身を包んだ街の人たちが貴族チームと庶民チームに分かれて500トンものオレンジをぶつけ合う戦いは、観戦している観光客をも興奮の渦に包み込む熱い熱いイベントだ。終わった後は街中がオレンジの香りに包まれ、人も石畳もオレンジまみれ。オレンジと言えば、シーキューブでもオレンジを使ったケーキを発売している。ケーキを投げ合うわけにはいかないが、オレンジのケーキを食べながら、イタリアのカーニバルの話で盛り上がるのもいいかも。
イタリアのカーニバルで食べるお菓子は、揚げ菓子がメイン。ミラノ周辺ではキアッケレ、トリノあたりではブジエと呼ばれる小麦粉の生地を薄く伸ばして揚げて砂糖をまぶしたものや、フリッテッレと呼ばれる揚げ衣にフルーツを混ぜ込んだものやクリームを詰めたものなど、どっしりとしたものが多い。断食する前に、できるだけご馳走を食べたいという食いしん坊な欲望は、敬虔なクリスチャンもそうでない人も、みな平等にあるようだ。














文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.1 イタリアのバレンタインデー

イタリアのバレンタインデーGiorno di San Valentino alla Italiana

男性から女性へ、イタリア流プレゼント術。I regali romantici degli innamorati.

イタリアのバレンタインデーは、別名「Festa degli innamoratiフェスタ・デッリ・インナモラーティ=恋人たちの日」とも呼ばれているけれど、日本のように女性が告白する日、とか女性が周囲の男性に日頃の感謝を表す(?)日という認識はなく、恋人たちが互いの愛を確認し合う日、ということになっている。
由来はローマ帝国時代に遡る。妻や子供が故郷に待っていると、兵士たちの士気が著しく低下したことから、兵士の結婚が禁じられた。その禁を犯し、キリスト教司祭のヴァレンティヌス(バレンタイン)は秘密裏に兵士を結婚させていた。が、ある時、それがばれて捉えられ、処刑されてしまう。それが2月14日だったことから、聖ヴァレンティヌスの日=セント・バレンタイン・デーになったという説が一般的だ。
さて、現代の恋人たち(夫婦も含む)はバレンタインデーにプレゼントという手段を使って愛を確認し合うのだが、女が強く、男が尽くす国イタリアでは、プレゼントはもっぱら男性から女性へ、というケースがほとんどだ。
プレゼントは基本的になんでもありだが、代表的なのはやっぱり花。20代以下の若い女の子たちは「エー、花? ダサー」などと不埒なことを言って、物や食べ物のほうを喜ぶ花より団子傾向なのは日本と同じだけれど、大人の女性なら花をもらって悪い気はしない。で、どんな花が人気かといえば、やっぱりバラ。バレンタインだけに、愛と情熱を表す真っ赤なバラがダントツ人気だけれど、大事なのは色よりも渡し方だ。
イタリアでは日頃から、ピザ屋やトラットリアなどお手軽系の飲食店で食事をしていると、店に勝手に入ってきては、カップルのテーブルへ赤いバラの花を売り歩く外国人を見かけるのだが、その手の人から一輪買って「君の美しさとは比べモノにならないけれど♡」なーんて言うのは、いくらイタリアでもセンスの古ーいチョイ悪オヤジだけ。普通のまっとうなセンスのある男女であれば、センスのいい花屋さんでセンスのいいバラのブーケ、ということになる。そんな時は送る人の好きな色で統一したり、ブーケの中にチョコレートや指輪を潜ませる、なんて技を使ったり。そういえば、シーキューブのバレンタインテーマも今年はバラだとか。
ところでイタリアではバレンタインに女性側からプレゼントをしないということに加えて、日本と大きく違う点がもう一つある。それは既婚男性でも妻にちゃんとプレゼントをするということ。その陰に愛人がいようがそんなことは別問題。仕事帰りに妻のお気に入りのプレゼント、または花束を抱えて帰宅するというのが、やっぱりアモーレの国イタリアの正しい男性なのである。ある友人の話では、その日は仕事を休んで妻に尽くすというツワモノもいるという。そこまでされたいかどうかは別として、やっぱりイタリアだなあ、と感心してしまう2月14日なのでした。














文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住