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Vol.9 イタリアの秋のご馳走

イタリアの秋のご馳走La Bonta’ d’Italia in Autunno

栗の王様と、栗のお菓子の王様と。Il re delle castagne e il re dei dolci di castagna.

世界に名だたる白トリュフを筆頭に、フンギ・ポルチーニなどのキノコ類、ぶどうにイチジクに柿に、Novelloノヴェッロと呼ばれるできたてホヤホヤのワインなどなど、秋のイタリアも日本同様、味覚の秋、食欲の秋なのである。
そんな中でも、お菓子を愛する私たちが忘れちゃならないのが、栗。
イタリアの栗は大きく分けて2種類ある。カスターニャと呼ばれるものは日本にもあるいわゆる栗で、9月の後半から10月、11月にかけて、市場の果物屋台や町の果物屋さんに、あの艶々と、丸くて愛らしい姿が並ぶ。それを買ってきて、手っ取り早く食べたい時は茹で栗に。いやあ、栗はやっぱり香ばしくないと、という人はオーブンに入れてアロースト、つまり焼き栗に。焼く前に一つ一つナイフで切れ目を入れておき、白ワインをふりかけて焼くアローストは、茹でるよりちょっと手間がかかるけれど、香ばしさと甘さが一段と引き立って、やめられない止まらないおいしさだ。日本よりも寒くなるのがずっと早いイタリアで、ローストした栗を食べながら赤ワインを飲み、おしゃべりしたりビデオを見るのは秋の夜長の素敵な過ごし方。
焼き栗といえば、秋になるとイタリアの各都市、各町の通りを賑わすのが焼き栗の屋台だ。日本の石焼芋に似て、熱した炭で焼かれた栗が小さな紙袋に入れて売られている。素材の栗にこだわった美味しい焼き栗屋さん、一つ一つの殻に切れ目を入れた上、殻を捨てるための空の袋もくれる気の利いたおじさん、妙に威勢のいいお兄さんなど様々な焼き栗屋さんが町のあちこちで煙を立てている風景は、晩秋のイタリアになくてはならない風物詩。煤で手がどんなに汚れても、買わずに通り過ぎることなんかできないのである。
その他、栗=カスターニャを使ったお菓子、料理はいろいろあって、トスカーナがオリジナルといわれるカスタニャッチョというケーキのようなもの、栗の粉で作るポレンタ、乾燥栗、ハチミツ漬けの栗etc…と秋は栗尽くし。でもそんな栗料理、栗菓子の中の王様として君臨するのは、なんと言ってもマロングラッセだ、と私は思う。
マロングラッセは冒頭に書いた2種類ある栗のもう一種類、マローネという栗から作られる。マローネはイガの中に一粒しか実ができないのが特徴で、カスターニャよりずっと実が大きくて香りが強い。トスカーナやボローニャに名産のマローネがあるが、私の住むピエモンテのマローネは、かつてフランスの食材辞典「ラ・ルース」に、「マロングラッセを作るのに最適な最高品質」と評されたほどで、だからトリノのマロングラッセはとても美味しいので有名だ。老舗のお菓子屋さんはこの季節競うようにマロングラッセを作りショーウィンドウに並べるが、どこもリキュールなどを入れずに作るのがトリノ風。マロン自体の香りが高いので、他のもので香りを補う必要がないというわけだ。
そんなわけでトリノの人はマロングラッセが大好き。マロングラッセを使ったお菓子も大変な人気で、一番人気はマロングラッセ入りのジェラート。マロングラッセが出回る季節にしかない限定版な上に、ちょっと高級志向のジェラート屋さんにしかないことが、より食べたい感をくすぐる。
そして一番人気がジェラートなら、マロングラッセを使ったお菓子の王様はやはりこれ、モンテ・ビアンコである。イタリア語でモン・ブランを意味するモンテ・ビアンコは、イタリアとフランスをまたがるヨーロッパアルプス最高峰の名前。フランス風のモン・ブランはメレンゲの上にマロンクリームを絞り出して粉糖をふって山の雪を演出するのに対して、イタリアのモンテ・ビアンコはマロンクリームの周りや上にメレンゲをこれでもか、と山盛りにして豪雪(?)を再現。どっちがおいしいか、食べ比べる機会があったりしたら幸せなのに。
食べ比べと言えば、シーキューブから発売されたばかりの「トルタ・ディ・マローネ」や「渋皮栗とキャラメルのムース」「渋皮栗とプリンのドルチェ」もイタリアの秋満載な上に、日本人の繊細な仕事が目に浮かぶような美しいケーキ。イタリアのマロン菓子と一緒に全部並べて食べ比べてみたい。天高く馬肥ゆる秋、ダイエットは一時中止してね。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住