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Vol.33 デザートワインの甘くて苦い思い出

デザートワインの甘くて苦い思い出

Un ricordo dolce e amaro del vino Moscato
デザートワイン
秋だ、収穫に行こう!!
E' autunno. Andiamo a vendemiare!!
夏の厳しい暑さもようやく陰りを見せ始めた今日この頃、みなさまいかがお過ごしですか。 それにしても今年の夏は暑かった。イタリアでは今年の記録的な暑さのおかげで、 ワイン用のブドウが例年になくぐんぐん育ち、収穫のタイミングがずいぶん早まったそうだ。
生産量、消費量ともに常にフランスと抜きつ抜かれつして世界一の座を争っているイタリアでは、 人々の暮らし、食生活のいたるところにワインが深く関わっている。だからブドウの収穫が早まったとか、ブドウのできが良いとか悪いとか、量が多いの少ないの、といった話題が頻繁にテレビや新聞に、そして人々の口に上る。
ピエモンテの丘陵地帯では、今年は早いところでは8月中旬から、遅いところでも今、まさにブドウの収穫真っ盛りだ。大きなワイン会社も小さなブドウ農家も、それぞれの畑のブドウが熟すと家族総出はもちろん、臨時の労働者にご近所さんまでかり出して、一斉に収穫に取りかかる。そんな様子を見ていたら、私がイタリアに来たばかりの頃(な、なんと17年前!)の懐かしい笑い話を思い出した。
ブドウ畑収穫したブドウ
それは料理の修業にきていた日本人のシェフばかりで、あるワイン農家の収穫を手伝いに行った(行かされた?)ときのことだ。
ピエモンテのワイン畑は、コッリーナといってけっこう急勾配の丘陵地帯にある。それが水はけや陽当たり具合を良くするのでワイン畑に最適と言われる所以なのだが、収穫するのはとても辛い。急な坂道を上がったり下がったりしながらチョッキン、チョッキンとブドウを一房づつハサミで切っていくのだから、いくら17年前の若かりし私でも、足はガクガク、腰はボロボロになるのであった。おまけに暑いし。疲れた私たちはだんだん投げやりになり、仕事も雑になっていったのは言うまでもない。それでもどんどん進んで行くと、なんだか腐ったような房ばかりがぶら下がっている畝に到着した。「なんだ、これ、腐ってるんじゃん?」「ゲー、カビが生えてるみたい、気持ちわりー」えーい、こんなのこうしてやる、えーい、えーいと取ったブドウの房を地面に落とし、足で踏みつけたりしていた(ごめんなさいー。でも、腐った房は収穫のカゴに入れないこと、という説明も受けていたのだ)。そのとき仲間の一人が走ってやってきた。「みなさーん、それは腐ってるんじゃなくて、貴腐菌がついているんです。ほらほら、ソーテルヌとかと同じように、甘くておいしいデザートワインのためのブドウなんです!」
そう、それはピエモンテで、そして全イタリアで愛されているデザートワイン「モスカート・ダスティ」のためのモスカートという品種のブドウだったのだ。貴腐菌という菌をぶどうにつけて、いわゆる「腐った」状態にして水分を抜き、糖度を上げるという仕組みなのだが、そんなこととはつゆ知らない間抜けな私たちを手伝いに使ったばっかりに、あの年の、あの農家の収穫量はほんの少し下がってしまったかもしれない。ごめんなさい。   こんなことを思い出しながら、秋の日差しのテラスにて、冷えたモスカート・ダスティをおやつに飲んだ。デザートワインとして有名だけれど、甘く、香り高く、そしてアルコール度数は低いので、午後の飲み物としても最適。そうそう、私はこのモスカートにゼラチンを加えてゼリーを作る。緩めに固め、スプーンでくずしたら、赤いフルーツやミントの葉も添えてフルートグラスに盛りつける。おしゃれなデザート&ワインの一杯はいかが?
インサラータ・ディ・パスタ
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住