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Vol.5 イタリアのプリン事情

イタリアのプリン事情I budini alla italiana

おハイソなカスタードプリンとピエモンテのボネCrème Caramel e Bonet piemontese

今回のテーマは「プリン」。ところがイタリアでは日本ほどプリンが市民権を得ていないというか一般的でないというか、とにかくスイーツの中の少数派である。イタリア人が毎日食べるおやつは、ビスケットやクロスタータというトルタ生地にジャムをのせて焼いたものなどが中心、つまり焼き菓子系がほとんどなのだ。
だからってプリンやババロアのようなフルフル系デザートが好きじゃないかというとそんなことは全然なく、イタリア人たちはこういうスイーツを「ドルチェ・アル・クッキアーヨ」、 “スプーン菓子”と呼んでよく食べている。その代表格はパンナコッタであり、ティラミスであり、ズッパ イングレーゼである。だけど、この手のスイーツはレストランで食べる特別なデザートであって、おうちでマンマが自作するという話はあまり聞かない。固まらなかったり、ふんわりできなかったりしたら困るということで、高度な(?)テクニックを要するお菓子は専門家に任せておいて、家で作るお菓子は「やあっ」と材料を混ぜ合わせ「ばーん」と焼くだけにしましょう、という豪快さがイタリアマンマの特権だからだ。
だからプリンもそういう「特別なデザート」の仲間で、レストランのドルチェとして、それから高級お惣菜屋さんのスイーツとして売られている。私の住むピエモンテでは、フランスに近いこともあって、英語の「プリン」(イタリア語Budino)ではなくて、フランス語風に「Crème Caramel」クレーム・カラメルと呼ばれている。
惣菜屋と日本語で言うと、庶民的なイメージだが、イタリアではお金持ちの奥さまや仕事を持つビジネスママが、ご飯を作りたくない、または作れないときに利用する高級店。生ハムで何かをくるんでゼリーがけにしたものとか、野菜を裏ごしして生クリームと混ぜて蒸したフランとか、とにかく家で簡単に作れない、ちょっと華やかなおかずが高い値段で売られている。そんな中に、一人前サイズのアルミホイルケースに入った、少し表面に焦げ目がついたプリンが必ず並んでいる。スーパーマーケットにも、日本みたいな既製品のプリンが売られてはいるがとても少数派で、種類も少なければ、お味のほうもいまいち。コンビニはもちろん、イタリアにはありません。一方日本では、イタリアの香りがするプリンが食べられる。シーキューブが5月に発売した「ブディーノ イタリアーノ」は、マスカルポーネチーズでミルクのコクをたっぷり出した「クレーマ カラメッラ」と、チョコレートとヘーゼルナッツの風味をきかせた「ジャンドゥーヤ」の2ライン。日本に里帰りしたときの楽しみがまた一つ、増えた感じである。
さて、同じプリン系でも、正真正銘イタリア生まれのプリンがある。その名は「ボネ」。私の住むピエモンテ州発祥のお菓子だが、卵と牛乳にチョコレートを加え、アマレットという杏の核を原料にして作ったビスケットを砕いて入れ、蒸し焼きにしたものだ。チョコレート味と杏仁豆腐の味がミックスされたような不思議な味で、ボネ、という変な名前は、これを発明したコックさんが、昔貴婦人がかぶっていた帽子に似た型を使ったことからついたそう。フランス語にとてもよく似たピエモンテの方言で、貴婦人の帽子ボンネットが“ボネッ”と呼ばれていたからだそうだ。














文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住