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Vol.15 日曜日の過ごし方

日曜日の過ごし方Come trascorrere una domenica

お菓子を持って行くわ!Ti porto io i pasticcini!

冬は雪山、夏は海、とヴァカンスするために生きているといっても過言ではないイタリア人ではあるけれど、それでも彼らが一番好きな週末の過ごし方といえば、「友人」または「親戚」同士誰かの家に集まって食事をすること、ではないかと思う。ちょっと前までは家でするのが常識だったクリスマスディナーなんかも外食にする人が増えているとはいえ、気のおけない人たちだけで食べて騒いでくつろげる「おうちごはんが一番」と考えるのは日本人だけではないというわけだ。そうそう、イタリア人という人達はたいてい自分の家の中を驚くほどきれいにしているので、いつお客さんが来たってだいじょーぶ。公共の場所ではあまり気を使わないのだけれど。その点、日本人と正反対なのである。
では、食事に招待された時、イタリア人たちはどうするか。ただ飯はいくら友人同士、親戚同士といってもNG。親しき仲にも礼儀ありと考えるのはイタリア人も同様で、何か手土産を持って行くのが常識。で、イタリアでよく使われる手といえば、
  1. 準備されている食べ物やワインの邪魔をしない、何にでもあいそうな無難なワイン、もしくは文句のつけようのないすごいワインをお土産にする。料理に合わせて主人がワインもそろえている可能性がある場合は、シャンパンやデザートワイン、または食後のリキュールなど、そこまではなかなか手が回りそうもない一本を。
  2. 前菜やおつまみなど、もう一品増えても構わないようなもので、○○のおみやげ、とか××の自家製など話題を提供してくれるような食べ物。
  3. 食後のデザートも終わった後で、だらだらとつまみながら楽しめるお菓子類。お腹には軽く、目に魅惑的なものが喜ばれる。イタリアのレストランでデザートの後、コーヒーと一緒にサービスされる「ピッコラ・パスティッチェリア」Piccola Pasticceria(フランス語でいうプチガトー)に相当するもの。
以上3つの作戦だ。
トリノは、スイーツの都ともいわれるほど、おいしいお菓子屋さんがたくさんある。イタリアを統一したサヴォイア家がトリノを居城としており、王政が廃止されたときに王様のお菓子職人が街に出たことで発達したという。その辺は、ルイ王朝とパリの食の発達と事情が似ていなくもない。
この数あるお菓子屋さんだが、イタリアで唯一といっていいぐらい、日曜日に店を開けている職種である。なぜかというと、そう、日曜日のお昼に食事におよばれした人たちが、お土産用のお菓子を買いにくるからだ。というわけで、イタリアのお菓子屋さんは月曜が休みなことが多い。旅行した時のご参考まで。
 圧倒的に人気なのは「パスティッチーニ」Pasticcini(小さなお菓子たち)といって、プチシューやプチタルトの類、ビスケットやチョコレートボンボンだ。最初に食べる人数を言うと、店の人が「これぐらい?」なんていって、金色にコーティングされた紙のお盆をみせてくれる。あ、そうね、それぐらいで、とか、いえ、もうちょっと小さめで、などと言ってサイズを決めたら、ショーケースの中に並んでいるお菓子たちを指さして注文する。このスタイルはイタリア全国的に同じだと思うけれど、トリノではこのプチシューやプチタルトがことのほか小さく、おいしいので有名だ。
トリノ方言で「ビニョーレ」と呼ばれるこのお菓子たちは、王家のお后やお姫様たちが、お口をお汚しにならないようにと、一口サイズが考案されたのだという。それにしても、サヴォイア家の女性たちはずいぶんお口が小さかったのかな、王宮広場にある老舗『バラッティ・エ・ミラノ』なんかでは一つが親指の先ほども小さい。このサイズで、アルプスでとれるおいしい生クリームが詰まったもの、ピンクや黄色に色づけられたフォンダンでコーティングしてあるもの、フンギポルチーニの形をしてチョコレートクリームが詰めてあるものなど様々なプチシューがあって、目にも舌にも楽しいのである。トリノの老舗お菓子屋さんの多くがカフェも兼ねているから、コーヒーを飲みに入って、思わず「ビニョーレ」も2つ3つ食べてしまった、そんなトリネーゼはとても多い。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住