クリスマスのもう一つの楽しみ
Un altro gioia di Nataleパンドーロが大好き!
Adoro i pandori!通りという通りのイルミネーションはキラキラ輝き、店という店のショーウィンドウにはサンタやトナカイが陽気に並んで、クリスマスまでカウントダウン状態のイタリアはもう、わくわく、わくわく。
というふうに、楽しいだけなら幸せなのだが、そうとばかりも言っていられないのが大人の本音。
プレゼントを買いに繰り出す人が中心街に集中するから交通渋滞はいつもの5倍増しぐらいになり、駐車するのも至難の技、店にたどり着いたら着いたでレジは大行列、包装担当の店員は鈍くて下手クソときた日にはイライラ、ストレスは増すばかり。
クリスマスプレゼントは恋人や家族にだけ買えばいい日本とは訳が違い、イタリアでは(そしてたぶん全ヨーロッパ的に)友人知人親戚家族郎党はもちろん、会社の同僚&上司から、かかりつけのお医者さんに習い事の先生にまで、プレゼントを用意しなければならない。日本のお歳暮にも近い感覚といったらわかりやすいだろうか。とにかく大変なのである。
そんなときには買い物なんかさっさと諦めて(そして後でもっと慌てることになるかもしれないけど)、 家に帰っておいしいケーキとお茶のおやつタイムに限る。
この時期のおいしいおやつといえば、私的にはやはりパンドーロだ。
パンドーロはご存知イタリアを代表する2大クリスマスケーキの一つ。
粉と卵、砂糖とバターの生地をたっぷり発酵させただけのシンプル過ぎるほどのケーキなのだが、スポンジケーキでもなく、 カステラでもシフォンでもない不思議なおいしさはクセになる味。フルーツの砂糖煮やレーズンのたっぷり入ったパネットーネの方が 華やかで有名だけれど、実は「私はパンドーロの方が好き」という人が私の知る限りとても多い。
シンプル・イズ・ベストということか。
パンドーロはロメオとジュリエットで有名なヴェローナの発祥。
1200年代から存在する地元のクリスマス菓子「ナダリン」がオリジナルだとか、 海運国としてブイブイ言わせていたヴェネツィア共和国の、金箔を貼り付けた成金お菓子「Pan de oro」(パン・デ・オーロ=金のパン)が パンドーロと変化したものだとか、様々な説がある。
でも現在のパンドーロを完成したのは、ドメニコ・メレガッティというヴェローナの お菓子屋さん。もともと地元の女性達がイブの夜に集まり、25日のクリスマスの正餐(昼食)にそなえて牛乳と粉とイーストで デザートの生地を作るという伝統があった。
これに卵やバターを加えておいしく、リッチに改良したのがドメニコさんというわけだ。 十時間以上発酵させたり、行程も複雑になったレシピは、もはやマンマ達が手作りするものではなく、プロに任せて買うのを楽しみにするものとなった。
こうして1894年10月14日に特許を受けて以来、「メレガッティ」といえばパンドーロの代名詞のようにイタリア中で愛されている。
もちろん現在では、たくさんの製菓会社や街のパスティッチェリアがクリスマスシーズンになればそれぞれのパンドーロを売って、味を競っている。
トリノの老舗パスティッチェリア「G」のスペシャリテ「ヌーヴォラ」は、 自家製パンドーロの表面全体にバタークリームを塗り、その上から粉糖を ふりかけたもの。
「雲」という意味のその名にふさわしく、 ふわふわと軽い食感、そして舌の上ですっと溶ける甘いクリームは、 シンプルなパンドーロのご馳走バージョンだ。
もちろん今のシーズンだけの限定商品。
季節の野菜や果物が生き生きして美味しいように、 季節のお菓子がそれぞれにあって楽しい、おいしい。 これもまた、イタリアの魅力なのである。
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住