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Vol.30 グラニータの冷たい夏

グラニータの冷たい夏L’Estate Fresca della Granita

暑い夏はこれに限る!Senza Granita non si puo sopravivere !!

イタリアの夏のデザートと言えばジェラート! を思い浮かべる人は多いと思うけれど、実はそうでもないと私は思っている。イタリア人は一年中、寒くたってジェラートをなめながら歩いているし、レストランのデザートメニューからジェラートが姿を消すことは一年中ないからだ。むしろあのリッチでクリーミーな味わいは(シャーベット系ジェラートは別)あまり暑くないときのほうがおいしい、と私は思うのだが、案外同じ思いのイタリア人も多いのかもしれない。もちろん暑い陽気になれば冷たいものが食べたくなるわけで、ジェラートの売り上げもさぞかし上がるだろうけれど…、いや、待てよ。イタリアが暑くなる頃にだけ、ジェラテリアやバールに登場する、冷たくておいしいものがある。そう、グラニータだ。もしかして夏のジェラートは、グラニータに主役の座(なんの?)を明け渡しているのではないだろうか?
グラニータとは、ご存じ、イタリア版かき氷、のようなもの。水、砂糖、フルーツ果汁、またはリキュール、コーヒーなどで作ったシロップをかき混ぜながら凍らせることで小さな氷の粒が残り、そのざらざらする舌触りが独特で、おいしい。グラニータという名前もまさに“粒々の”“顆粒状の”という意味のイタリア語Granulosoから。レストランで提供されることはあまりないけれど、夏のイタリアを歩けば、街のあちこちで、四角くて透明な箱状のものにはいったドロドロの液体が、どろーりどろーりとまわっているのを誰でも目にするはず。なんだかこんなふうに書いていると、ちっとも暑い夏に食べたい感じがしないか。
グラニータの発祥はシチリア。もともとシチリアのお金持ちたちには、エトナ山などに降り積もった雪をかき集め、山奥の洞窟などに作らせた石の容器に保存させておくという習慣があったそうだ。夏になるとその雪は少し溶け、氷の塊になっていたから、それを削ってフルーツ果汁やハチミツをかけて食べ、暑さを凌ぐという贅沢をしていたわけだ。あら、それって日本のかき氷そのものじゃない。イタリアではこれがグラニータやソルベット、そしてジェラートへと変化していくけれど、日本は原始的なかき氷の風情を今も楽しんでいるというわけですね。ちなみにイタリアでも19世紀初頭まで「グラッタケッカ・ロマーナ」としていわゆるかき氷が残っていたらしい。グラッタは削る、ケッカはまだ冷蔵庫の無かった時代に食品を冷やすために使われていた氷の塊のこと。
さてシチリア。9世紀頃上陸してきたサラセン人(イスラム帝国のアラブ人)たちは、アラブの伝統的な冷たい飲み物「シャルバート」を作るのに、エトナ山の雪に目をつけた。フルーツ果汁や花の香りをつけた水に甘みを加えた彼らの飲み物を冷やすために、エトナの雪に塩を加えて利用することを思いついたのだ。そう、皆さん覚えていますか、理科の実験でやったよね、氷に塩を加えると温度がさらに下がるって。こうしてエトナ山の雪は冷菓の材料から冷凍剤へとなっていったのだ。
1600年代になると、とあるシチリア人が現在の形に近いグラニータやジェラートを発明。で、その孫のフランチェスコ・プロコーペという人が、パリへ渡りジェラート屋を開業した。彼のグラニータは爆発的人気を博する。かのルイ14世も大変お気に召して、ヴェルサイユ宮殿までプロコーペさんを招待したとか。こうしてジェラートとグラニータがヨーロッパ全土に広まっていった。ちなみに1687年創業のプロコーペさんの店「Café Procope」は今でもパリ6区のrue de l’Ancienne Comedìeにあって、立派なカフェ&レストランとして営業している。
トリノやミラノあたりの北部の街中では、グラニータは赤とか緑の強烈な色が付けられ、バールの一角でぐるぐる回る機械に入れられて、ちょっとチープな印象なのに、実はジェラートの親としてこんなに壮大な歴史を持っていたのである。もちろん素材にこだわり、伝統レシピにこだわる昨今の傾向で、グラニータもシチリアオリジナルのレモンで作ったもの、アーモンドやピスタチオのもの、コーヒー味のものなどが北部でも食べられるようになってきた。紙やプラスティックでできたコップに入れてもらって、先がスプーン状になったストローでグラニータを食べながら歩くと、灼熱のイタリアの夏も、快適に過ごせるというわけだ。

灼熱といえば、トリノなんか比にならない、焦げるほどの暑さのシチリアでは、街のあちこちに、ビーチのそこここに、グラニータの屋台がある。シチリアレモンの皮を使ったもの、名物のアーモンドの粒粒が入ったもの、そして最近ではビール風味なんてのも登場しているとか。そうそう、朝っぱらからものすごく暑いシチリアでは、グラニータをブリオッシュと呼ばれるご当地独特のパン(いわゆるフランスのブリオッシュとはちょっと違う)にはさんで朝ご飯に食べるのが伝統スタイルだそう。パンにはさめるということは、わりと水分の少ないグラニータなわけで、なるほど調べてみるとシチリアでは場所によってグラニータの凍らせ加減、水分加減がいろいろと違うのだそうだ。残念ながら私は何度シチリアへ行ってもグラニータパンを食べ損ねているので、これから行く人がいたら、ぜひ挑戦して感想をお聞かせください。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住