本当に甘いものが好き!Siamo veramente golosi!
本当に甘いものが好き!Siamo veramente golosi!
イタリア人のお菓子生活について2年も連載させていただいておいて、何を今さらなんだが、イタリア人てほんとうに甘いものが好きだなあ、と何かにつけて思う。
1月の後半から2月の頭にかけて、ヨーロッパ全体がシベリアの寒気団に覆われ、とても寒い日が続いた。日中でもマイナス気温。家にいても外を歩いていても、温かいものを身体に入れたくなる。 そんな時、イタリア人の甘党たちはチョコラータ・カルダを飲む(甘党と言っても甘いものが苦手というイタリア人を私は見たことがないし、酒飲み≠甘党という常識も聞いたことがない)。食べると言った方がいいぐらい濃度のあるチョコラータ・カルダ(ホット・チョコレート)は、真っ黒でドロドロで熱々。フーフー言いながらスプーンですくって飲めば、熱い液体がお腹に流れ込み、身体の芯から温まる。でもこれが甘い! とても美味しいけれど、どの店でもティーカップにたっぷり入って出てくるそれは、半分も飲んだら(食べたら)お腹いっぱい、最後の方は冷めて甘味も増すようで飲みきれないことが多い。
ところがイタリアの人たちは、そこに涼しい顔をして砂糖を入れる。ツワモノになると、チョコラータ・カルダ・コン・パンナといって、泡立てた生クリーム(砂糖入り!)添えのチョコラータに、更に砂糖をドカドカ入れて嬉しそうに飲んでいる。しかも生クリームの量だって半端じゃなく、大抵チョコレートの上にのって出てくるそれはチョコレートがまったく見えないぐらいの量なのだ。
砂糖をいっぱい入れるといえば、コーヒー(エスプレッソ)にどれぐらい砂糖を入れますか? と友人知人のイタリア人たちに聞きこみ調査をしたことがあった。入れない、という人はほぼ皆無。健康上、砂糖の使用を制限している場合を除いて、コーヒーに砂糖を入れないというイタリア人はゼロ。では入れる人はどれぐらい? 一番多かった回答はスプーンに2杯~3倍!! しかも忘れちゃならないのは、彼らイタリア人たちは、一日に何回もエスプレッソを飲み、そのたびに同じように砂糖を入れている、ということだ。
聞き込み調査をした中で、砂糖7杯という人がいた。それって飽和状態にならないのですか? と質問したら、そう、溶けずにカップの底に残っているコーヒー味の砂糖をすくって食べるのがうまいんだよ、と嬉しそうにほほ笑んだ。 これだけ砂糖が好きだから、お茶にも当然砂糖を入れる。紅茶はいいとしても、最近のヘルシーブームでイタリア人にも人気の緑茶や番茶、中国茶などにも入れようとするので驚く。 驚くといえば、スプレムータ・ダランチャ(その場で絞ってくれるオレンジジュース)にも砂糖を入れる人が多い。嘘だと思ったらイタリアのバールに入って、スプレムータを頼んでみてください。絶対砂糖がついてくるから。
こんなふうにイタリアの人たちは飲み物に限らず、食後には何か必ず甘いものがないと満足しないし、ダイエットだと言ってランチを抜く代わりにジェラートを食べる女性を私は何人も知っている(結局成功しているようには見えない)。街にはこんなにあって経営が成り立つの? とこちらが心配になるほどお菓子屋さんにジェラテリア、チョコレート専門店などなど「甘いもの関連ショップ」がひしめき合っている。
ところが、イタリアと日本の、国民一人当たりの砂糖の消費量を調べたてみると、意外なことに、若干イタリアのほうが多いものの、日本とさほど変わりがなくてびっくりする。 こんなに砂糖を年柄年中摂取している彼らが、デリケートなスイーツを好む日本人と砂糖の消費量が同じだなんておかしいぞ? とよくよく考えてみると、日本人は料理にもかなり砂糖を使うがイタリア料理では砂糖は全くと言っていいほど使用しない。つまりイタリア人たちは、純粋にお菓子としてだけ砂糖を食べ、飲み物に砂糖をドカドカ入れて、日本人と同じぐらいの量を消費しているというわけだ。
彼らは「甘いものを欲するのは、アフェット(愛情)が足りないから」とよく言う。ということは、私から見たら彼らはこぞって愛情欠乏症に違いない。だから夫婦は一日に何度も電話をしあい、恋人同士は歩きながらキスしあい、背丈が同じぐらいの母と子も(息子も!)手をつないで歩いて、常に愛情を確かめ合っているのだろうか? そして、それでもまだ足りなくて、甘いものを食べまくるイタリアの人たち。たしかに甘くておいしいお菓子や飲み物は、それだけで嫌なことを忘れさせ、幸せな気分にさせてくれる。甘いものを好むのは、イタリア人たちの幸せに生きるための処世術なのかもしれない。
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住