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Vol.42 南イタリアの夏のご馳走

南イタリアの夏のご馳走

Sfizi del Sud d'Italia

コラトゥーラ・ディ・アリーチのスパゲッティ

Spaghetti alla colatura di alici
今頃のイタリアは一年で一番気持ちよくて楽しい季節。

強烈な夏の太陽がありながら、でもまだ空気には春のフレッシュさが残っていてすっきりさわやか。

一年で一番日が長くなって夜の9時過ぎまで明るいから、テラスで冷えたワインを飲みながらゆっくりとアペリティーヴォを楽しんだり、夜遊びを兼ねて夕食に出かけたり。

ところが今年は異常気象なのか、この原稿を書いている6月某日現在も、雨が続いて肌寒い日が多い。なんでも50年ぶりの寒さ、というか暑くならなさ加減だそうだ。 

やって来ない夏を恋偲ぶせいか、ここのところ毎日のように南イタリアご飯ばかりを食べている。

極上のモッツァレラに熟れ熟れのナポリ産プチトマトとか(真夏の熱い太陽がないとトマトはよく熟れないけれど、プチトマトは比較的一年中おいしい)。

ジャガイモとタコとカッペリのサラダとか。カッペリとはイタリア語のケッパーのことで、シチリアの離島パンテレリアあたりが名産。同名の植物のつぼみを塩漬けにしたものだ。
だから、南イタリア料理と言うとついあちこちにケッパーを入れたくなってしまう私。

そうそう、よく熟れたトマトをたっぷり刻み、ケッパーも刻み、ニンニクと塩とオリーブオイルで調味したら、茹でたて熱々のスパゲッティにあえると、極ウマ夏のパスタ「スパゲッティ・アル・ペスト・パンテスコ」(パンテレリア風ペーストのスパゲッティ)のでき上がりだ。

ちなみにこのパンテレリアという島は、もともとはアフリカだったのだけれど、地殻変動によって陸から離れ、現在はイタリアの領地となっている。

っていうぐらいアフリカに近いので、太陽の強さは半端じゃない。

その太陽が育ててくれるケッパーは極上に美味しくて、イタリアでは塩漬けにして料理に使う。大粒のケッパーはピクルスになってワインのおつまみとしても活躍したり。

さてケッパーがちょっとクセのあるシチリアの旨味だとしたら、日本人にはとても馴染みやすい、だけどこれぞ南イタリア! な味が「コラトゥーラ・ディ・アリーチェ」。

地中海名産の脂肪分の少ないアンチョビ(片口イワシ)を塩漬けにし、そこから上がってくる液体から不純物をとりのぞいたもので、日本の「しょっつる」やタイの「ナムプラー」ベトナムの「ニョクマム」にとてもよく似た調味料の一種だ。

ナポリの東南約40キロ、アマルフィ海岸にある、小さいけれどマグロ漁で有名な漁村チェターラで昔から作られている。


ボウルに刻んだ生のニンニク、パセリ、オリーブオイル、そしてこのコラトゥーラを入れて混ぜておき、そこに茹でたてのスパゲッティをドバッと入れ、ワシワシッとかき混ぜて食べるというのが、伝統的かつ代表的なコラトゥーラの使い方だそうだ。

さすが漁師の町の伝統食材。海の男の料理だ。    

取材でアマルフィ海岸に行き、かの地の超高級ホテル「ホテル・カルーゾ」に泊まるという豪華体験をしたことがあった。

その時、ホテル・カルーゾのレストランで、「なにか地元の、普通じゃない、美味しいものが食べたい」とお願いしたところ、シェフが作ってくれたのがやっぱりコラトゥーラのスパゲッティであった。
ただしこちらはニンニクを低温に温めたオリーブオイルで香りを出しておき、そこへ茹でたてのスパゲッティとコラトゥーラをさっとあわせ、皿に盛ったらチーズの代わりにレモンの皮を目の前ですり下ろしてくれるという、似て非なるものだった。

ニンニクとコラトゥーラの味があわさったソースをしっとりと吸ったスパゲッティはことのほか美味しくて、鮮やかなレモンの色と香りも忘れられない記憶となった。

アマルフィの美しい景色も海の色、そしてコラトゥーラのスパゲッティとレモンの香りを、夏が来るたびに大切に思い出している。

文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住