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Vol.24 ポレンタ! ポレンタ!ポレンタ!!

ポレンタ! ポレンタ!!Polenta ! Polenta! Polenta!!

みんなこんなにポレンタが好き!Che polentone che siamo!

12月に入り、寒さも本格的になってくると、無性に食べたくなるものがある。それはパネットーネでもクリスマスのご馳走でもない。ポレンタだ。
ポレンタとは、ご存じのようにトウモロコシを粉に挽いたものを、水やだし汁などでドロドロに煮た食べ物。古代ローマ時代にあった「プルテス」なるものがオリジナルだという、由緒ある料理である。粥状にゆるく炊いたものに肉の煮込みやミートソース状の物をかけて、またはチーズを溶かしこんで食べる。固めに煮て固まったものを切り分けて、それをバターで表面カリカリ、中フワフワに焼いて、肉や魚料理の付け合わせにしたりもする。味もカロリーもヘビー級の食べ物であることから、一応冬の食べ物ということになっている。
しかし寒くなってポレンタが食べたくなるなんて、私も立派なポレントーネになってきたものだと感慨にふける今日この頃。ポレントーネとは、貧しかった北イタリア人たちがポレンタばかりを食べるのを見て、南イタリア人が馬鹿にして呼んでいた蔑称だとか。一方の北イタリア人たちは、パスタばかり食べる南イタリア人をマッケローニと呼んでいたそうだ。まあどちらも過去のお話で、今ではイタリア全国民がマッケローニになり、一方ポレンタは若干劣勢だ。煮込むのに最低でも40分はかかるという面倒くささとか(現代では3分でできるインスタントもあるにはあるけれど、やっぱり本格派の味にはかなわない)、でんぷん質とタンパク質ばかりが多くなりがちな、ちょっとヘルシーじゃないところなどが現代人に敬遠される理由だと思う。
でも、あのトローリふんわり口の中に広がるかすかに甘いトウモロコシの味に、しょっぱいサルシッチャのトマト煮込みとかゴルゴンゾーラのコクのある塩味とかイノシシ肉のジューシーなシチューなんかが絡まりあう時には、ええーい、ヘルシーなんかクソくらえ! と開き直っても余りある魅力がある。もちろんこんなふうに思っているのは私だけではない。普段は常にダイエットを心がけるイタリア某大企業の幹部A氏は「ポレンタパーティー、やる? やる?」と彼の妻である私の親友に毎晩のように迫っているらしいし、ピエモンテ人であることを誇りにしているインテリ家族のE家の人々は、毎年のように「ポレンタな日曜日」に私を招待してくれる。ポレンタな日曜日とは、ポレンタしか食べない日曜日のこと。一杯目はチーズをかけて、2杯目は煮込みで、3杯目は素ポレンタで、という具合にずっとポレンタを食べ続けるのだから、並大抵の胃袋伸縮力では太刀打ちできない。
古臭いとかヘルシーじゃないとか言いながら、実はこんなにポレンタは愛されているので、ポレンタのお菓子というのもイタリアには存在する。有名なのが「ポレンタ・エ・オゼイ」というベルガモの郷土菓子。ポレンタに「オゼイ」=野生の小鳥料理を添えたものがあるのだが、それに見立ててポレンタをスポンジで、小鳥をチョコレートで作ったかわいらしいお菓子だ。
一方家庭菓子で私が好きなのは、ポレンタを砂糖とレモンの皮を入れた牛乳で煮て、冷えて固まったところを一口大に切り分けてから揚げたもの。その名もポレンタ・フリッタ。ベネト出身の我が家のおばあちゃんがよく作ってくれる冬のおやつだ。外はカリッと揚がって、中はふわふわとクリームのように口の中でとける。強烈な個性とか際立ったおいしさ、美しさはないけれど、一つ、また一つ、そして今日も明日も食べたくなるような、イタリア菓子そのものの魅力がいっぱいなのだ。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住