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Vol.39 トローネってどんなお菓子?

トローネってどんなお菓子?

Il torrone ,che dolce e' ?


トローネのオリジナルとは?

Quale e' l'origine di torrone?

今回はトローネというお菓子について。

高温に煮詰めたハチミツと泡立てた卵白、ナッツ類を混ぜ合わせて固めたお菓子が「トローネ」だ。

日本の人には「ヌガー」と言ったほうがわかりやすいかも。

かなり強烈に甘いものも多いけれど、いろいろなナッツの風味が香ばしくて、カリッと齧れるハードタイプも、食べやすいソフトタイプも、どちらもとてもおいしいお菓子だ。

たとえば古代ローマ時代の歴史家プリニウスという人は、当時のトリノにハチミツとヘーゼルナッツで作られたお菓子が存在したと書いている、とか。

なるほど、ピエモンテのトローネは、今でもヘーゼルナッツ入りが定番。上質なヘーゼルナッツがピエモンテの名産だからだ。

ちなみにヌガーの定義は厳密には卵白は必須ではないそうで、だからローマ時代のトリノのお菓子も、ナッツをハチミツで固めた雷オコシ状のお菓子も、ヌガーの一種ということになる。

ラテン詩人のマルコ・ヴァレリオ・マルツィアーレという人は、紀元前600年から紀元前200年頃まで勢力を誇っていたサムニウム人たちがすでにトローネと同じお菓子を作っており、それを売り歩く専門の商人までいたと書いている、とか。

それをアラブの商人達が地中海沿岸地域、特にスペインとイタリアへ持ち込み、普及させた、とか。

そして「トローネ」という名前のお菓子として正式に誕生したのは、1441年10月25日のこと、ということになっているという説もある。

場所はイタリアのクレモナ。

バイオリンのストラディバリウスが作られた場所として有名な、ミラノ近郊の町だ。

フランチェスコ・スフォルツァ(後のミラノ公)とヴィスコンティ家のお嬢様ビアンカ・マリアの婚礼の儀に、トラッツォと呼ばれていた町の鐘塔を象ったお菓子が作られた。

これが後にトローネと呼ばれるようになったというわけだ。

それで今でもクレモナでは、毎年12月にトローネ祭りというのが行われて、去年の開催時には世界一長いトローネが作られたそうだ。

こんなふうに発生説がいろいろあること自体、イタリア人がトローネ大好きな証拠だと思う。いろんな人が、いろんなふうにトローネのことを考えているんだもんね。

だからイタリア全国各地にそれぞれお国自慢のトローネがある。

イタリア食材辞典には「トローネの名産地はクレモナ(ロンバルディア州)、アルバ(ピエモンテ州)、シエナ(トスカーナ州)、ベネベント(カンパーニャ州)、アブルッツォ、カラブリアである」と書かれているが、これ以外の場所でもトローネは作られている。

そういえばイタリアに来たばかりの頃、あちこちでトローネを見かけたので、「どこのお菓子ですか?」と聞いてみると、ピエモンテの名物で、ピエモンテ生まれだと言われた。

それからある時、シチリアに行ったらトローネがまたあったので「これはどこのお菓子ですか?」と聞いてみると、シチリア名物で、シチリア生まれだと言われたのを思い出す。

私の暮らすピエモンテ州アルバのトローネは名産のヘーゼルナッツがふんだんに入っているし、シチリアのそれにはアーモンドやピスタチオが使われている。


そして金槌がないと割れないような固いトローネが伝統かと思えば柔らかいトローネ、チョコレートコーティングされたトローネ、卵白の生地の中にチョコレートを入れた黒っぽいトローネ、卵白なしの茶色いトローネなどなど、様々なバリエーションがある。

そしてイタリアはついに、トローネ好きが高じてトローネ味のジェラートまで作ってしまった。

イタリア人がそのお菓子をどれぐらい好きか、どれぐらいポピュラーかを計るには、そのお菓子味のジェラートがあるかどうかをみればわかると思うのだが、ティラミス味やカッサータ(シチリアの氷菓の一種)味のジェラートに並んで、トローネ味のジェラートも大抵のジェラート屋さんにある。

イタリア人って、ほんとうにトローネが好きなのである。

文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住