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Vol.19 イタリア人とピッツァ

イタリア人とピッツァGli italiani e loro pizze

イタリア式ピッツァの食べ方Come si mangia la pizza in Italia

7月中旬から8月のイタリアは、バカンス大本番中。長く(最低でも2週間ほど)留守にする前に一度みんなで会っておこうよ、と友人、親戚、職場の同僚たちがこぞって街に繰り出す。こんなご時世ということもあり、高くて肩のこるレストランよりも、お手軽な食事処が大人気。イタリアのお手軽食事の代表といえば、そう、ピッツァだ。
ピッツァはご存じの通り、南イタリアはナポリの発祥と言われているけれど、実は今日本で流行しているふちがモチモチと膨らんだナポリ風のピッツァばかりがイタリアのピッツァではないのだ。全国各地に、その土地風のピッツァがあって、たとえば10年ほど前まで日本で主流だった薄くてパリパリのピッツァはローマ風のピッツァ。もっと昔の日本にあったパンピザのようにフカフカのピッツァは、リグーリア地方のフォカッチャ・ロッサだ。どこかのコックさんが、そういった土地土地で修業をして、出会ったピッツァを「本場イタリアのピッツァだよ」と持ち帰り、再現し、日本中に広まったんだろう。ちなみにナポリから遠く離れたトリノでも、本物のナポリ風ピッツァが流行し始めたのはほんの15年前程度だそうだから、イタリアの情報伝達スピードがいかにのろいのか、はたまた日本のそれが恐ろしく早いのか。
そんなわけで、最近の日本では、イタリアと遜色のない美味しいピッツァが食べられる。イタリアで修業をした日本人のピザ職人たちが、本場に負けない仕事をしてくれる。しかし、日本とイタリアで、ピッツァを食べるときの決定的な違いがある。それはなにか?
イタリア人たちは、あの大きなピッツァを、各自が一人一枚注文し、一人で抱えて食べる。これが、何人かでいろいろな種類を取ってワケワケする日本人との、大きな違いである。
「そうね、ヨーロッパの人たちはテーブルマナーにうるさいから、シェアをするのは行儀の悪いことなのよねー」などとうなずいている、そこのあなた。チッチッチ、それは、ちょっと違うんだなあー。
私の見る限り、食事中にテーブルを立たないとか、くちゃくちゃ音をさせないなど、最低限のことを守ったら、あまりうるさいことは言わないのがイタリア人だ。しかもカジュアルなピッツェリアで、シェアをするのは行儀が悪いだなんて、気取る必要もあまりない。
じゃあ、なぜ彼らがシェアするのを嫌がるのかといえば「自分の食べたい味を思いっきり堪能したいから」なのだと思う。これはB型という血液を持ち、イタリアで16年も平気で暮らせている私が言うのだから、かなり信憑性があると思う。だってB型人間はあるものが気にいったら、ずっと同じものを食べ続ける凝り性なところがあるからだ。少なくとも私と、そして全員B型の私の家族はみんな同じ性癖を持っている。で、イタリア人の多くはB型。そう考えると、彼らが一年に330日ぐらいトマトソース味のパスタやリゾットを食べ続け、ティラミスがおいしいとなったら、何十年でもずっと人気ドルチェの王座に輝き続けられる、その説明がつくではないか。だからピッツァも、「今夜はマルゲリータが食べたい」と思ったら、他の味は受け付けず、マルゲリータだけを堪能したい、そう考えるのがイタリア人なのだ。
というわけで、イタリアファンとして、本当にイタリアっぽくふるまうのなら、「ボナセーラ」の発音を磨いた後は、胃を拡張させ、ピッツァ一枚を食べきる消化力を身につける必要がありそう、かな?


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住