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Vol.17 イタリア ケーキ事情

イタリア ケーキ事情Circostanza Torta

自家製ケーキが一番!La torta fatta in casa e’ la piu’ buona!

イタリアのクリスマスは、パネットーネやパンドーロといった発酵生地のケーキで祝うことは、もはや日本のイタリア菓子ファンなら誰でも知っている常識。でも、誕生日や結婚式、様々なお祝いは、どんなケーキで祝うのかは意外と知られていない。今回はそんな疑問にお答えする、イタリアのケーキ事情にまつわるお話。 
イタリア人が大好きで、晴れの日に食べるケーキのナンバー1は、フルーツがたっぷりのった「トルタ・ディ・フルッタ」とか「クロスタータ・ディ・フルッタ」と呼ばれるケーキだと思う。イタリアで「パスタ・フロッラ」と呼ばれるトルタ生地を型に敷きつめて焼いた中に、カスタードクリームをたっぷり詰め、様々なフルーツを上にのせたものだ。クロスタータと呼ばれる場合は、生のフルーツではなくて、フルーツジャムをトルタ生地に詰めただけの場合も多い。とにかく、何の変哲もないフルーツタルトなのだが、新しいもの、珍しいものを次々と追いかける日本人と違い、イタリア人は昔から知っている馴染みの味が大好き。知らない味に挑戦するぐらいなら、毎日同じものを食べているほうがいい、と思うイタリア人はことのほか多い、はずだ。その証拠に、彼らは毎日毎日、一年に300日ぐらいはトマトソースのパスタを食べている。だからトルタ生地も、カスタードクリームも、そしてフルーツも、素朴でおいしくて、しかも「いつもの味」というところがポイントなのである。しかも見た目にはカラフルで美しいから、フェスタ(パーティー、お祭り)のあるところ、トルタ・ディ・フルッタあり、という感じで目にすることがとても多い。誕生日に限らず、結婚式も、開店祝いのパーティーでも、本当に頻繁に登場する。
もちろん、スポンジケーキを重ねて生クリームでデコレーションしたケーキが登場するパーティーもあるにはあるのだが、飾り付けも味も、今一つ洗練されていないものが多い。スポンジはパサパサで、それを補うためにリキュールをたっぷり過ぎるほどきかせたシロップがびしゃびしゃに浸してあり、そこに甘すぎる生クリームがどっかりとのっている。そんな感じだから、当のイタリア人たちもその手のケーキを「あんまり好きじゃない」という人が多い。フランス語でスポンジケーキのことを「パン・ディ・ジェノワーズ」、つまりジェノヴァのパンと呼ぶのにもかかわらず、スポンジケーキはイタリアではお菓子界のメイン街道を歩いていない、だからスポンジを作る技術もレシピも、今一つ研究されていないんだなあ、という印象を受けるのは、私だけではないはずだ。
だから日本人が大好きなイチゴのショートケーキはイタリアでは見かけないし、VIPやセレブの結婚式でもない限り、タワーのようなウエディングケーキや、かわいいクロッカンブッシュなどもない。
一方、普段のおやつに食べるなら、卵と粉、砂糖とバターの生地に、たっぷりのリンゴを混ぜ込んで焼いた「トルタ・ディ・メーラ」。ふわふわと軽くて、リンゴから出た汁気がしっとりして、地味だけれどあとひくおいしさ。軽いので朝ご飯にも食べたり。それからピエモンテの人が大好きなのは、ヘーゼルナッツの粉で作る「トルタ・ディ・ノッチョーラ」。みかけはただ茶色いだけのケーキなのだが、ノッチョーラ=ヘーゼルナッツの香りが口の中に充満し、手作りっぽいもそもそした感じが、ほのぼとする。チョコレートが大好きなトリノの人たちは、ここでもチョコレートを取りだす。ドロドロに溶かしたブラックチョコレートをこのケーキにこれでもか! というほどかけて食べるのは、トリノの老舗カフェ「アル・ビチェリン」のおやつの名品だ。
イタリア料理の最大の特徴は、基本が家庭料理であり、素材を最大限に生かしてあまり手を加えないことだ。だからプロの仕事と家庭のマンマの料理を隔てる壁は、限りなく低い。プロのお菓子屋さんが作るお菓子も、フランス菓子や日本のケーキに比べて技術的にはとてもシンプルなのは、そういう理由なんじゃないだろうか(もちろん有名パティシェや高級店では、話は別)。だからといって、イタリアのお菓子がおいしさでも劣るかというとまったくそんなことはなく、逆に毎日何度でも食べたくなる魅力があるということは、このページの読者であれば、皆さんご存じのはずですね。









文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住