夏のコーヒー
Il caffe d' estateカフェ・シェケラートか、クレーマ・カフェか?
Caffe Shakerato o Crema Caffe?
地球温暖化のせいかどうかは知らないけれど、北イタリアの夏も最近は暑さがどんどん増している気がする。18年前に私が暮らし始めた頃は、どんなに暑い日でも日陰はすっきり、夕方になれば肌寒いぐらい気温は下がって、夜遊びには、はおりものなしでは出かけられなかったほど。ところが最近のイタリアはムシムシする日も多く、熱帯夜のような夜もけっこう多い。それでももちろん、日本よりはずっとカラッとして過ごしやすい夏ではあるのだが。
と、日本の夏に慣れた私は涼しい顔をしているが、さわやかな夏を懐かしがるイタリア人たちは、暑い暑いとやたら大げさだ。クーラーを設置しまくる人(今まではクーラーなんか必要ない程度の暑さだった)、裸のような格好で歩き回る人、プールだ海だと仕事に手がつかない人がこの季節急増する。
そんなイタリア人たちが、まだバカンスには行けないけれどちょっと涼しくなりたいなあ、という時に街のバールで飲むのが「カフェ・シェケラート」だ。
この、イタリア語のようなイタリア語でないような不思議な言葉は、「シェイクしたカフェ」という造語らしい。淹れたてのエスプレッソと氷をシェーカーに入れ、シャカシャカシャカ~とバールマンが作ってくれるそれは、アイスコーヒーよりもちょっとクリーミーでエスプレッソの旨味もあり、かつ冷たいという、とてもおいしい夏の飲み物だ。イタリアには缶入りアイスコーヒーはもちろん、喫茶店のアイスコーヒーも、カフェのアイスカフェオレも存在しないので、冷たいコーヒー類を飲みたい私たち日本人にとっても、とても嬉しくありがたい存在だ。
エスプレッソと氷をください、と頼む手もあるが、それよりも手っ取り早いカフェ・シェケラートである。ただし正統派のそれは砂糖とリキュールがたっぷり入れてあるので、日本人の味覚にはちょっと甘過ぎで、かつアルコール分もけっこうある。だから私はいつも「砂糖もリキュールも、何も入れないでね」とお願いすることにしている。すると、キリリと冷たいエスプレッソコーヒー=カフェ・シェケラートにありつけるのだ。
こんな粋でオシャレな飲み物がイタリアにはあるのだが、最近は「クレーマ・カフェ」といって冷たくてクリーミーで甘いコーヒーが大人気。コーヒーとお砂糖と牛乳、または生クリームを撹拌しながら冷やしてクリーム状にしたもので、グラニータよりもクリーミーでまろやか。ジェラートよりもふんわりと軽く泡状の液体で、冷たくて甘くて、少なめの量でサーブされるというのも大人に人気の秘密かもしれない。
カフェ・シェケラート派の私は、コーヒーを飲みたい時というよりも何か甘くて冷たいものが食べたいなあ、でもジェラートはちょっとトゥーマッチだなあ、という時に、クレーマ・カフェが飲み(食べ?)たくなる。ここ最近の人気だからすべてのバールに必ずあるメニューではないが、かなり頻繁に、あちこちのバールで見かけるようになった。チョコレートパウダーやカカオビーンズをトッピングしたリ、生クリームを加えたりと、オリジナルなメニューを競っているようだ。でも私の好みとしてはやっぱりシンプルに、すっきりと冷たく、さらりとクリーミーでほんのり苦甘いのが美味しいと思う。日差しの強いイタリアの夏を涼しくおいしく過ごす一杯だ。
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住