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Vol.52 イタリア焼き菓子の魅力

イタリア焼き菓子の魅力
Il fascino dei dolci pasticceri da forno





ビターアーモンドが香るアマレッティ

Amaretti con pieno profumo di mandorle amare



アマレットというお菓子がある。でも日本でよく知られているアマレットは、たぶん同名のリキュールのほう。ウィキペディア日本語版にも、「アマレットとは杏などの仁(種の中にある小さな実のようなもの)を使ったイタリアのリキュール」と書いてある。甘くて、ほんの少しだけ苦味もあって、杏仁豆腐を思わせるよい香りがするリキュールだ。ミラノのあるロンバルディア州はサロンノという土地で作られる「アマレット・ディ・サロンノ」が特に有名だ。


同じ名前だけれどお菓子のアマレットは、ロンバルディアやリグーリア、ピエモンテといった北の各地で作られる。スイートアーモンドとビターアーモンドの粉、卵白、砂糖などを材料にしたビスケットで、セッコ(乾いた)タイプとモルビド(ソフト)タイプがある。セッコタイプはカリカリっと軽い口当たりが気持ちよく、ソフトタイプはしっとりとして生ビスケットといった味わい。どちらもビターアーモンドの独特の香りが効いていてクセになるお味。かつてメディチ家のカテリーナ妃がフランスのアンリ二世にお嫁入りした時に持ち込み、それがあのマカロンになっていったともいわれている。ちなみに日本ではアマレッティ、と複数形で呼んでリキュールと区別しているようだ。というわけで、以後ここでは私もアマレッティと言うことにします。






さっきも書いたように、アマレッティはイタリアの各地で作られていて、みんな「オラが村のがオリジナルだ!」と譲らない。たとえばリキュールと同じサロンノのアマレッティ。1718年にミラノの大司教がサロンノ村を訪れた際に、それを記念してある夫婦が作って捧げたものと言われている。一方、我がピエモンテにはモンバルッツォのアマレッティ・モルビディ(柔らかいアマレッティ)というのがあって、これはサヴォイア王家のお抱え菓子職人モリオンドさんが発明した。今でもモンバルッツォ村の「モリオンドのアマレット」としてとても人気がある。こちらも1700年代の発明ということだ。





おや? そうなるとルネサンス期のフィレンツェのお姫様だったカテリーナ・メディチさんよりもずっと後。マカロンの元になったというのは眉唾か、それとももっと前に、別のどこかでアマレッティはすでに産まれていたのか? ということでもっと調べてみると、こんな説も。


「アマレッティはおそらくアラビア人が発明し、それが地中海沿岸沿いのシチリアからイタリアに広まったものと思われる。その後スペインやフランスに伝道師たちにより伝えられた」。なるほど。アーモンドの名産地であるシチリアで作られていたという説にはとても説得力がある。グルメな歴史は世界の歴史や貿易事情、気候などに深くつながっていて、調べてみるととても面白い。 


さて前述したように、アマレッティの味の最大の特徴はビターアーモンドの風味がきいていることである。お菓子や料理の材料として「アーモンド」と言う時には普通はスイートアーモンドを指している。ビターアーモンドはその名の通り、もっと苦みがあって特徴的な香りがする。どんな香りかと言うと、やっぱり杏仁豆腐の香りというのが一番わかりやすいと思う。杏仁豆腐の材料である杏仁(リキュールのアマレットの原材料でもある)と、香りや成分が近いのだからあたりまえだ。




日本ではこのビターアーモンドや杏仁に含まれるシアンという成分が毒性があるということで、輸入に規制がかかるそうだ。美味しいアマレッティほどビターアーモンドの含有量が多いので規制にひっかかる。だから美味しいアマレッティが食べたければ、ぜひイタリアまでいらっしゃいませ、ということになってしまうのは残念なような、嬉しいような。


それにしてもイタリアの焼き菓子類は本当に種類が豊富で美味しい。毎日毎日おやつにクッキーを食べて幸せだなんて、日本にいた頃は想像もできなかった。そんなわけで、まだまだ書いていない焼き菓子達がいっぱいある。今後もどうぞお楽しみに❤





 文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住