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Vol.47 幸せのコンフェット

幸せのコンフェット 

Confetto dela Felicita'


毎日食べたらだめ?

Non posso mangiarlo tutti i giorni?

前回、砂糖菓子を作る店をイタリアではコンフェッテリアと呼ぶんですよ、と書いていて気がついた。

コンフェッテリアの名前の元である「コンフェット」について書いていないじゃないか!と。

コンフェットとは現代のイタリア語ではドラジェのこと。

アーモンドを砂糖でつるつるにコーティングした、結婚式のお土産などとしてお目にかかることのある、あのお菓子だ。

コンフェットはイタリアでも日常的に食べるお菓子というよりは、結婚式や子供の洗礼式などの参会者に配られる『儀礼的な』お菓子である、と私もずっとそう思っていた。

食べればまあまあ美味しいけれど、わざわざ買うほどのこともない、と。

ところが今年の夏、とても美味しいコンフェットに、結婚式とはまったくほど遠いシチュエーションで出会ってしまった。

それは、12歳になる娘にポンペイの遺跡を見せるため、ローマからのバスツアーに参加したときのこと。

今までずっと私はツアー旅行に対して「自分で自由に旅するから楽しいのに!」と偏見を持っていたのだが、私たちがローマに滞在していた一週間、何十年ぶりとかいう異様な暑さがイタリア全土を襲っていて、そんな中、ローマからコトコト電車を乗り継ぎ、はては日陰のないポンペイ遺跡をあても知識もなくさまようのは無理!とツアーに申し込むことにしたのだった。

クーラーの効いた快適なバスに揺られ、ガイドさんの素晴らしい説明でポンペイへの知識も深め、満足した帰路、バスはいきなり高速を降り、とあるお土産物屋さんに停車した。

そう、噂のお土産ショッピング攻撃である。

ははーん、そうはいきませんよ、買いませんよ!と思いつつ、試食を薦められたお菓子につい手を伸ばしてしまう食い意地のはった私。

おいしい!

それは見た目は全く普通の、真っ白いコンフェット(ドラジェ)であった。

でもカリッと砂糖の殻を一口噛むと、中にはレモン味のホワイトチョコレートでくるまれたアーモンドが。

甘くて、かつレモンのさわやかさとアーモンドの香ばしさが口の中で混ざり合い、レモンの名産地ソレントやアマルフィの風景が蘇るような味わいである。

ツアーのお土産作戦に引っかかるのは悔しいけど、おいしいからOK、とごっそり大人買いをしてしまった私であった。

調べてみると、イタリアのアブルッツォ州スルモナというところが、現代的なコンフェットの生まれ故郷だということだ。

もともとはアラブで、苦い薬をハチミツでくるんでいたのが始まりだとか、紀元前の古代ローマではすでに結婚式等で配られていたなど諸説あるが、15世紀に西インド諸島から砂糖がもたらされた結果、このスルモナでコンフェットの生産が開始されたそうだ。

今でもスルモナのコンフェットは有名で、なんとコンフェットのミュージアムまである。

こんなにおいしいコンフェット、よく探せばスーパーにも売っているし、コンフェッテリアへ行けば普通に買うこともできる。

だが、北イタリアでは冒頭に書いたように結婚式や、洗礼式の"引き出物”に配られたのをたまに食べる、ことの方が多い。

アーモンドの実の半分ずつを砂糖で一つにくっつけて作ることから、カップルの結びつきのシンボルとされているそうだ。

結婚式や洗礼式等のパーティーのお土産に、チュールなどに美しくラッピングされて配られる。

私の住むトリノにも、ボンボニエーレ(コンフェットをラッピングしたもの)専門の店があって、結婚を控えたカップルや、洗礼式の準備に忙しい若いお母さんたちが、思い思いのラッピングを注文しに行くのだ。

面白いのは色のルールで、結婚式用には花嫁の純粋さを象徴する白、と決められている。

洗礼式は女の子ならピンク(女の幸せを願う色! 古くさい?)男の子なら水色(空のように高く素晴らしい将来を願う色!!)。

そして婚約祝いは緑、大学卒業と誕生祝いは赤、結婚5周年は紫、10周年は黄色、とだんだんどぎつい色になるあたり、あまり使われることがないのかも? 

ところで、コンフェット、コンフェットと書いていて気がついたのだが、これってこんぺいとうの語源? 調べてみると、やっぱり。

ポルトガル人が1500年代に日本に上陸した際に持ち込んだ砂糖菓子コンフェイトCONFEITO(コンフェットのポルトガル語)は、織田信長にも献上されたという説もある。

ちょうど同じ頃、メディチ家のお姫様がフランス宮廷に嫁ぐ時にコンフェットを持ち込んで広めたとも言われている。

そうしてルイ16世やナポレオンもお気に入りのお菓子となったとか。

こんなにすごい歴史もあって、しかもこんなにおいしいんだから、もっと食べないともったいないじゃない、と言い訳しながら、例のレモン風味のコンフェットをオンラインで注文する私であった。



文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住