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Vol.46 トリノの素敵なキャンディ屋さん

トリノの素敵なキャンディ屋さん

Passeggiare in Torino e' il momento dolce e felice


トリノ散歩は甘くて幸せ

Passeggiare in Torino e' il momento dolce e felice

トリノの街中には合計11キロに渡ると言われる屋根付きの歩道があって、それはイタリアを統一した王様が、散歩好きな女王様のために、雨が降っても散歩ができるように作ったと言われている。

女王様も美しいお菓子屋さんのショーウィンドウを眺め歩いて、お腹を鳴らしていたんだろうか?と、思わせるほど美しいショーウィンドウを誇る、 老舗のお菓子屋さんたちがあちこちにある。

お菓子屋さんと一口に言ってもPasticceriaパスティッチェリアとConfetteriaコンフェッテリア、cioccolateriaチョコラテリアなどに分類されている。

 パスティッチェリアとは粉もののお菓子、ケーキやトルタ、ビスケット、プチフールからチョコレートにフルーツの砂糖漬けなど甘味全般を扱う店ということのようで、 一方コンフェッテリアというと、砂糖菓子、つまりアーモンドの砂糖がけとかマロングラッセ、そしてキャンディ類を売る店と限定されている。

チョコラテリアはチョコレートショップだ。 もちろんいろいろ兼ねているお店もあるので、そういうお店にいくと目移りしてしかたがない。




どのお店も思い思いの、カラフルな、素敵で楽しいショーウィンドウで目を楽しませてくれるが、私が特に好きなのはトリノの老舗中の老舗『ストラッタ』。 

1836年の創業で、磨き込まれた木のカウンターや棚に、ミモザを模した砂糖粒、 紫のスミレやピンクのバラの砂糖がけなどなど、宝石のように美しいキャンディーが並べてあって、ため息がでるようなおいしさ、いえいえ、美しさだ。 中でも特に私が気に入っているのは、「Rosolioロゾーリオ」と呼ばれる小さな小さな砂糖の玉。

 砂糖でできた外側はとてももろくて、口に入れて軽く噛むとシャクっと壊れ、中からシロップがあふれ出る。 花の香り、フルーツの味などあってとても美味しいし、どれを口に入れようか、悩むのもまた楽しい。

こんなふうに様々な色と形のキャンディーの中から、今日はどれにしようかな、と悩みながら選ぶのも楽しければ、小さな袋に入れてもらって買って帰ったキャンディを、 お気に入りのキャンディーケースに移し替えるのも優雅な気分。 

コンビニや駅のキヨスクで買ったキャンディを、電車の中でガリガリ食べていたOL時代(私にもそんな時代がありました)も、それはそれで楽しく、おいしかったけれど。


このお店ができた1836年頃と言えば、イタリアがまだイタリアとして統一されておらず、 トリノには王様や貴族たちがたくさんいた時代。

 あの店は王様御用達」とか「あのキャンディは女王様のお気に入り」なんて噂を聞いて、他の貴族の女性たちが真似をして流行になった、なんてこともあったに違いない。

 現代人がセレブと同じものを買ったり着たりしたいのと、きっと同じだよね。

11世紀頃に、十字軍が東方からサトウキビの塊を持って帰ったのが、キャンディの原型であると言われている。

 だからイタリア語のキャンディ「Caramellaカラメッラ」はラテン語の「Canna mela」、ハチミツのチューブ、という意味の言葉から来ているそうだ。

 17,18世紀頃には砂糖の精製技術が向上しキャンディが産まれるのだが、それでも初期のキャンディは今のように誰でも食べられるお手軽な甘味ではなく、 高貴な人にしか手の届かない高価な、大切なものだったのだそうだ。 

だからトリノの老舗にも、王侯貴族たち限れた人たちしか買いに行けなかったに違いない。

それから何世紀もたった今、キャンディは誰でも気軽に楽しめる存在になった。
 コンビニのないイタリアでも、スーパーマーケットへ行けばカジュアルなパッケージに包まれたキャンディたちを気軽に手にすることができる一方で、 街中に散在する高級キャンディー店へ行けば、宝石のように美しいキャンディを女王様のように手に入れることもできる。

 そんなトリノはとても素敵だな、と私は思っている。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住