イタリアのビスケットたち
Biscotti italiani見かけは悪いけどおいしいよ
Brutti ma buoni
ピエモンテの名物焼き菓子の一つに「ブルッテイ・マ・ブォーニ」というのがある。
イタリア語で「Brutti ma buoni 見かけは悪いけど、めちゃめちゃおいしいよ」という意味のビスコッティ(ビスケット)だ。
メレンゲ生地にアーモンド、またはヘーゼルナッツを混ぜ込んで鍋で沸騰させたら、スプーンでさっとすくって天板にドカッ、ドカッとのせて焼いたというような風貌。
確かに美しくはないけれど、口に入れるとナッツの香ばしさとメレンゲの甘さが口の中で混ざりあって、ああ、おいしい。
メレンゲ生地を沸騰させちゃうの? と一瞬思うのだが、これがオリジナルな作り方で、2回火を入れることから「ビスコッティ」→ビス=2回、コッティ=加熱した という名前になったというわけだ。
ちなみにトスカーナにもトスカーナ地元菓子「ブルッテイ・ブォーニ」というのがある。
これはサヴォイア家がイタリアを統一した後、トリノからフィレンツェに遷都した時にサヴォイア家のお菓子職人たちがトスカーナに広めたものだそう。
トスカーナヴァージョンには小麦粉に刻みアーモンド、干しぶどう等が入っているのが特徴で、メレンゲっぽいピエモンテヴァージョンとはずいぶん口当たりが違うけれど、これもまた、とてもおいしい。
考えてみるとイタリアのお菓子は、大なり小なり「ブルッティ・マ・ブォーニ」なものがほとんど。 見かけは無骨でシンプルすぎるぐらいシンプルだけど、もう一個食べたい、またもう一個、と後を引くおいしさと言うか、毎日食べたいおいしさと言うか。
フレンチの、宝石のように美しいお菓子たちに比べると見た目が劣るせいか、日本ではなかなか広まらないようだけど、どうぞ日本のみなさん、イタリアの焼き菓子のおいしさをもっと知ってほしいなあ。
最近私がはまっている「トルチェッティ」は、細長くした生地をクルリとねじって馬蹄型にしたようなビスケットの一種。
イタリアの焼き菓子にしては珍しくバターがたっぷり入っているので、かじるとパリパリと砕けて、ちょっとパイ生地にも似た口当たりがやめられないおいしいさ。
イタリアなのにバターを使うのは、やっぱり発祥がフランスに近いピエモンテだからかな。
昔々、ピエモンテあたりの山間の村では各家庭にはオーブンがなくて、 村に一つ共同のパン焼き窯があったそうな。
パンを焼く順番を待つ間に、誰かが余ったパン生地に砂糖かハチミツをまぶして オーブンの入り口付近にちょこっと入れてみたのが最初という。それがいつ頃からかバターが入るようになった。
そしてサヴォイア家のお妃で、ピッツァに名前を冠されて有名になったマルゲリータ女王の大のお気に入りにまでなったとか。
山間の村のパン焼き窯から生まれたと言えば、「パスタ・ディ・メリガ」も私の大のお気に入りだ。
ピエモンテの農村は昔貧しくて、寒さも厳しかったので小麦粉が穫れず、お菓子はもっぱらそば粉やライ麦、からす麦など、 現代ならヘルシー?と褒められるところだけど、当時としては貧しい限りの材料で作られていた 。
時代が移ってポレンタの時代になり、トウモロコシの粉がたくさん生産されるようになると、 お菓子もトウモロコシの粉で作られるようになった。
その一つがトウモロコシ粉のビスケット「パスタ・ディ・メリガ」だ。 食べるたびに、プツプツとトウモロコシ粉の粒が舌に触ってとても楽しい、おいしいお菓子だ。
最近のイタリアでは、ケーキデザインだなんて言って、カップケーキやマフィン等にやたらと派手な色使いでデコレーションしたり、カラフルなケーキなどが遅ればせながら流行し始めている。
でもそんな見かけにだまされないで、昔ながらの本当においしいお菓子をいつまでも大事にしていくのがイタリア、と私はいつも思っている。
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住
イタリア語で「Brutti ma buoni 見かけは悪いけど、めちゃめちゃおいしいよ」という意味のビスコッティ(ビスケット)だ。
メレンゲ生地にアーモンド、またはヘーゼルナッツを混ぜ込んで鍋で沸騰させたら、スプーンでさっとすくって天板にドカッ、ドカッとのせて焼いたというような風貌。
確かに美しくはないけれど、口に入れるとナッツの香ばしさとメレンゲの甘さが口の中で混ざりあって、ああ、おいしい。
メレンゲ生地を沸騰させちゃうの? と一瞬思うのだが、これがオリジナルな作り方で、2回火を入れることから「ビスコッティ」→ビス=2回、コッティ=加熱した という名前になったというわけだ。
ちなみにトスカーナにもトスカーナ地元菓子「ブルッテイ・ブォーニ」というのがある。
これはサヴォイア家がイタリアを統一した後、トリノからフィレンツェに遷都した時にサヴォイア家のお菓子職人たちがトスカーナに広めたものだそう。
トスカーナヴァージョンには小麦粉に刻みアーモンド、干しぶどう等が入っているのが特徴で、メレンゲっぽいピエモンテヴァージョンとはずいぶん口当たりが違うけれど、これもまた、とてもおいしい。
考えてみるとイタリアのお菓子は、大なり小なり「ブルッティ・マ・ブォーニ」なものがほとんど。 見かけは無骨でシンプルすぎるぐらいシンプルだけど、もう一個食べたい、またもう一個、と後を引くおいしさと言うか、毎日食べたいおいしさと言うか。
フレンチの、宝石のように美しいお菓子たちに比べると見た目が劣るせいか、日本ではなかなか広まらないようだけど、どうぞ日本のみなさん、イタリアの焼き菓子のおいしさをもっと知ってほしいなあ。
最近私がはまっている「トルチェッティ」は、細長くした生地をクルリとねじって馬蹄型にしたようなビスケットの一種。
イタリアの焼き菓子にしては珍しくバターがたっぷり入っているので、かじるとパリパリと砕けて、ちょっとパイ生地にも似た口当たりがやめられないおいしいさ。
イタリアなのにバターを使うのは、やっぱり発祥がフランスに近いピエモンテだからかな。
昔々、ピエモンテあたりの山間の村では各家庭にはオーブンがなくて、 村に一つ共同のパン焼き窯があったそうな。
パンを焼く順番を待つ間に、誰かが余ったパン生地に砂糖かハチミツをまぶして オーブンの入り口付近にちょこっと入れてみたのが最初という。それがいつ頃からかバターが入るようになった。
そしてサヴォイア家のお妃で、ピッツァに名前を冠されて有名になったマルゲリータ女王の大のお気に入りにまでなったとか。
山間の村のパン焼き窯から生まれたと言えば、「パスタ・ディ・メリガ」も私の大のお気に入りだ。
ピエモンテの農村は昔貧しくて、寒さも厳しかったので小麦粉が穫れず、お菓子はもっぱらそば粉やライ麦、からす麦など、 現代ならヘルシー?と褒められるところだけど、当時としては貧しい限りの材料で作られていた 。
時代が移ってポレンタの時代になり、トウモロコシの粉がたくさん生産されるようになると、 お菓子もトウモロコシの粉で作られるようになった。
その一つがトウモロコシ粉のビスケット「パスタ・ディ・メリガ」だ。 食べるたびに、プツプツとトウモロコシ粉の粒が舌に触ってとても楽しい、おいしいお菓子だ。
最近のイタリアでは、ケーキデザインだなんて言って、カップケーキやマフィン等にやたらと派手な色使いでデコレーションしたり、カラフルなケーキなどが遅ればせながら流行し始めている。
でもそんな見かけにだまされないで、昔ながらの本当においしいお菓子をいつまでも大事にしていくのがイタリア、と私はいつも思っている。
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住