チーズの話・再び
Ancora il racconto del formaggioリコッタチーズ、おすすめです。
Raccomandatissima la ricotta最近、私と娘はリコッタチーズにはまっている。
リコッタはほんのりとミルクの味がして、ふんわりと柔らかい。
口の中がやさしくなるその食感は、できたてのお豆腐を食べている感じにも近い。
でも最近はそのまま食べるよりも、朝パンに塗って食べるのが一番のお気に入りだ。
娘はジャンドゥイオット味のスプレッドチョコレートとリコッタを、私は森のハチミツとリコッタを、パンに塗って食べる。
クリーミーなのにしつこくなく、一緒に塗るチョコやハチミツの味を引きたてつつ柔らかくしてくれて、それはそれはおいしい。
私はオレンジのジャムとの組み合わせも大好きで、特にオレンジの皮がゴロゴロ入ったマーマーレードとは最高の組み合わせだと思う。
クリーミーなのにしつこくないというその秘密は、リコッタの作られ方にある。
チーズを作る際、乳にレンネットというチーズ界のニガリのようなものを入れると、チーズになる部分と乳清と呼ばれる水分に分かれる。
この乳清を再度加熱して固めたものがリコッタだ。名前も Ri=再び cotta=加熱した、だからリコッタと言う。
そんなわけでイタリアでは、リコッタは厳密にはチーズのカテゴリーには分類されない。チーズの副産物というわけだ。
チーズを作った残りから生まれるだけに、リコッタには乳脂肪分やカロリーがとても少ない。
牛かヤギか羊かなど、原材料がどんなお乳かによって多少差があるが、牛乳のリコッタなら100gのカロリーが136kcal程度、総脂肪分は8g。みんなが大好きなモッツァレッラチーズはカロリー243kcal、総脂肪分16.1g、マスカルポーネチーズに至ってはエネルギー453kcalに総脂肪分は47g。
うっかり食べ過ぎると大変だが、リコッタなら安心。しかもタンパク質は100g中12gとなかなか優秀。
低カロリー高タンパクの、ダイエットにも最適なチーズとも言えそうだ。
リコッタ協会の回し者でもなんでもないが、愛してやまないリコッタを日本の人にももっと食べてほしいと思う私は、周りを見回してみた。
すると、イタリアの料理界、お菓子界にはリコッタが至る所で活躍していることに、今更ながら驚いた。
たとえばラビオリやトルテッリーニといった詰め物入りのパスタの中身は、リコッタ入りが王道。ほうれん草とリコッタ、エルベッタ(葉野菜の一種)とリコッタといった組み合わせはとてもポピュラーだ。
それからトルタ・サラータといって野菜やお米等をベースにした甘くないケーキは、前菜やセコンド料理によく使われるが、ここにもリコッタがたっぷり入っている。
たとえばズッキーニやにんじん、ペペローニを塩味で炒めたものとリコッタ、卵を混ぜて、パイ生地を敷いた型に流し込んで焼けば、おいしい野菜ケーキのできあがり。
キッシュにちょっと似た作り方だけど、生クリームでなくてリコッタなのでとてもヘルシーというわけだ。
お菓子に使われるリコッタで有名なものと言えば、何をおいてもまずはカンノーリ。
カリッと揚げた筒状の皮の中に、リコッタで作ったクリームをたっぷり詰めていただくシチリアを代表するお菓子だ。
映画『ゴッドファーザー』の中で、怖いマフィアたちもカンノーリには弱い、というようなシーンがあったっけ。それからナポリの伝統ケーキ・パスティエーラもある。
こちらはビスケット生地にリコッタベースのクリームを詰めて焼いたケーキだ。
他にもリコッタを使っているお菓子はたくさんあるが、中でも私の大のお気に入りが「リコッタ・アル・フォルノ」だ。
これは、実はお菓子のカテゴリーには入らないかもしれなくて、売っているのもお菓子屋さんではなくてチーズ屋さんなのだが、甘みとレモンの風味をつけてオーブンで焼いた(アル・フォルノ)その味は、まぎれもなくチーズケーキの味。
レモンの風味が効いていて美味しい上に、カロリーを気にすること無く食べれるリコッタであるというのが嬉しい限り。
イタリアの人たちが、デザートとしてちょっぴり食後に食べるのに対して、私はどかっと大きく切って、午後のお茶と一緒にケーキとして楽しむことにしている。
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住