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Vol.20 秋のお楽しみ、フンギ・ポルチーニ

秋のお楽しみ、フンギ・ポルチーニFunghi Porcini,la gioila del’autunno.

トリフォラーティにフライ、リゾット、そして…。Trifolati,fritti,risotti ecc…

イタリアの秋の味覚といえば、なんといってもフンギ・ポルチーニFunghi Porciniだ。フンギはイタリア語でキノコという意味だから、シイタケとかシメジといった種類を指す名前に当たるのがポルチーニ。毎年9月から10月頃、市場やレストランのメニューにこのポルチーニが並ぶ頃になると「今年のはいいわね」とか「今年は雨が少なかったからいつもより遅い」などなど、話題もポルチーニ一色に染まり、おいしい時期を逃してはならんと、みんな買って買って、食べまくるのだ。
ちなみに私の住むピエモンテ州は、同じキノコの仲間の白トリュフで世界的に有名だけれど、あれはフォアグラ、キャビアと並ぶ別格のご馳走。日常の食卓とはあまりにもかけ離れ過ぎている。1キロ4000ユーロ、一人前50ユーロなんていう値段だから、シーズンだからと言ってたっぷりと堪能しまくれるのはリッチな方々だけ。そういえば私がもうちょっと若くてかわいかった頃、白トリュフの取材に行ったら、80歳を超えた白トリュフ協会の会長というおじいさんが、帰りがけ、私の手に小さな白トリュフを握らせ「今度は白トリュフ採りに連れて行ってあげよう」とウィンクした。森のダイヤとも呼ばれる白トリュフを武器に使うとは、さすがイタリア元祖チョイ悪(その頃そんな言葉はなかったけれど)、と感心したものだ。
 一方ポルチーニは、お金持ちも庶民も、グルメも、それほどグルメじゃない人も、イタリア人の誰もが大好きだ。相場は1キロ10ユーロから20ユーロほどで、他の野菜、たとえばニンジンなんかは1キロ2-3ユーロ、に比べたらちょっとした贅沢品だけど、手が出ないと言うほどでもない。
一番人気の食べ方は、やっぱりリゾットか、タリアテッレか。どちらにせよ、ポルチーニを薄くスライスしてオリーヴオイル、またはバターで炒め、仕上げにパセリを散らしたものをベースにした味付け。ちなみに、このポルチーニ炒めだけだと「Trifolatiトリフォラーティ」と言って、これも人気メニューの一つ。肉料理の付け合わせか、前菜として活躍する。
でも私の個人的な好みとしては、フリットが一番おいしいなあ。イタリアの粒の細かいパン粉をつけてカリッと揚げ、レモンをジュッと絞ってハフハフ言いながら齧ると、ポルチーニの香りたっぷりの汁がじゅわ~と口の中に広がって、それはそれはおいしいのだ。書いているだけで涎が出そうになってきた。でもフリットが好きなのは私に限った話ではないらしく、最盛期のレストランやトラットリアのメニューには、セコンドとして「Porcini Frittiポルチーニ・フリッティ」を掲げている店は少なくない。セコンドとして、肉や魚を食べる代わりに山盛りのポルチーニのフライにむしゃぶりつく常連風男性一人客、なんてとても絵になるのである。
 イタリア人たちはポルチーニを食べるのも好きなら、採りに行くのも好きという人が多い。私の夫の親戚にもキノコ採りの名人がいて、季節になると彼は朝5時に起きて森へ入りポルチーニ狩りに勤しむ。そうして採れたてほやほやのポルチーニや、自家製オイル漬けのフンギ類が時々我が家にも届けられる。オイル漬けはフンギ専門店で買ったりするとなかなか高価で、クリスマスなどの贈答品に使われることも多い。それをクリスマスや新年のお祝いディナーに前菜として食べたりするのだが、生のものとは違うシコシコとした味わいはオイル漬けならではの別のおいしさがある。
こんなふうにおいしいポルチーニ料理を羅列して行ったら果てがないけれど、最後に一つだけ、どうしても言いたい一品がある。それは「トラットリア・イ・ボローニャ」で食べた「ポルチーニの笠と卵のオーブン焼き」だ。軸をはずした大きめのポルチーニの笠を軽くソテーしたら、軸をとったくぼみに卵黄をそっとのせ、オーブンで焼いたものだ。食べるときに半生の卵を崩し、流れ出した卵をポルチーニにからめながら食べる。あのおいしさは、本当に私の口の中の記憶中枢に焼きついてなくなることがない。この料理は「イ・ボローニャ」にほれ込んで15年働き続けている小林清一シェフが、ずいぶん前に作ってくれたものだ。ピエモンテ州はアスティ郊外のこの名店へ行こうと考えている人は、ポルチーニの季節を狙ってみてはいかが? 


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住