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Vol.12 クリスマスがやってきた

クリスマスがやってきたArriva Natale!

ハッピーで忙しい、クリスマス時期のイタリア人たちGli italiani felici e impegnati sotto Natale

イタリアで今頃の季節に交わす挨拶言葉の定番といえば「Buon Nataleブォン・ナターレ」、直訳するとよいクリスマスを、つまりメリー・クリスマス! ご存じの通り、イタリア人にとってのクリスマス=ナターレは、日本人にとってのお正月みたいなもので、一年の節目の大切なイヴェント。友達も仕事仲間も、クリスマス前の最後に会う機会に、Buon Nataleと言い合って挨拶を交わす。日本人が「では、よいお年を」とか「来年もよろしくお願いします」と言い合うみたいな、そんな感じ。
だけどイタリア暮らしが長くなって、耳を澄ませば少しは人々の会話が聞きとれるようになってくると、おや? 何かちょっと違うことを言っていることに気づくのだ。Buon Nataleよりも「Buone Festeブォネ・フェステ」と言っている人のほうが多いぞ。なに?
Buon Nataleは「よい」+「クリスマス」でメリー・クリスマスなのだが、Buone Festeとなると「よいの複数形」+「祝日の複数形」である。ご存じのように、イタリア語の名詞はいちいち単数形複数形、女性名詞男性名詞というのがあって、それにくっつく形容詞なんかもいちいち変化するという、大変面倒くさい言語である。
さて、祝日の複数形である。実はイタリアでは12月25日がクリスマスで国民の祝日だが、翌26日はキリスト教における最初の殉教者と言われるステファノ聖人の日ということでまた祝日、そして1月1日がカポ・ダンノ=元旦、そして1月6日が東方の三博士がキリスト礼拝にやってきた日を記念するお祭りエピファニアでまたまた祝日、とずっと祝日が続くのだ。だからこの時期、多くのイタリア人たちが「Buone Feste」と複数形で挨拶するというわけなのだ。
さて、このフェスタ=祝日の連ちゃんを、イタリア人たちはどのように過ごしているのか。11月中旬から街はクリスマスカラー一色になり、プレゼントを買い歩く人、友人同士ピッツェリアなんかでわいわい忘年会(というよりクリスマス会かな、イタリア人的には)をする人が増え、頭の中はクリスマスでいっぱいになる。
一方12月24日は、日本人がイブイブといって大事にするほどのことはなく、夕方までは仕事をこなしつつ、実は買い残したプレゼントを買いに走ったりするので浮かれている場合ではない(25日、26日はお店が全部閉まってしまうから)。夕食は翌日のフルコースのご馳走に備えて、魚介類の軽めなご馳走を食べ、厳かな瞬間0時、つまりイエス・キリストが生まれた瞬間を待つ。
そして12月25日、ナターレ当日。前日の夜は0時になるのを待ってスプマンテで乾杯したり、クリスマスミサに出かけたりして夜更かししたので、朝はゆっくり起き、軽~く朝食をすませたら、いざ、クリスマスディナーへ。基本は家族だから、独身で一人暮らしなら親元へ、結婚していたらどちらの親のほうへ行くかで結構もめるという話もよく聞くが、とにかくこれも実家へ。
日本のお母さんがお正月にお節料理を作るように、クリスマスディナーこそがイタリアマンマの晴れ舞台。ご馳走を腕によりをかけて作る。地方によって、家族によってメニューは様々なようだが、私の住むピエモンテだったらいろいろな肉を混ぜて挽いたものを詰めたアニョロッティ(ラビオリの一種)とか、去勢雄鶏に詰め物をしたものなどなど。それからこれはお正月も共通なのだが、北イタリアの人たちがこの時期よく食べるものに、「コテキーノとレンティッキエ」がある。コテキーノというのは、ブタの皮に詰めた直径5センチから10センチほどもあるソーセージで、かなり脂っこくはあるがスパイシーでなかなかおいしい。グツグツ茹でて輪切りにしたものを、炒め煮にしたレンティッキエ、つまりレンズ豆と一緒に食べる。コテキーノもレンズ豆も、お金の形を連想させるため縁起がいいということでこの時期に食べるのだとか。数の子を食べて子宝を願ったり、黒豆を食べてマメな人間になるようにと祈ったりする日本と同じでおもしろい。
最近は腕を振るうのが面倒くさいとか、時間がないお母さんも増えて、レストランでクリスマスを祝う人も増えているようだ。私がイタリアへやってきた16年前のクリスマスには、ナターレといえば、お店もレストランもみーんなクローズして街中がシーンとしていたものだが、最近はたくさんのレストランが営業している。
さてナターレが終わると、今度はみんな一斉に元旦のお祝いに向かって準備を始める。といってもイタリアでは大掃除もしないしお節料理も作らない。彼らにとっての元旦は、新しい年が始まったことを祝うというだけで宗教的な意味がない。祝日としてランクが低いのか(?)、家族で集まって厳かに祝うというよりは、友人や恋人同士で大みそかの夜に集まり、カウントダウンをしてばか騒ぎをする、そんなケースが多いようだ。過ぎ去った年の物を窓から捨てて心機一転をはかるという習慣があって、夜中に道を歩いていると窓からいろいろなものが降ってきて危ない目に遭う、というのもほんとうの話。
そんな風にイタリアの松の内(とはいわないけれど)は過ぎていくのだが、1月6日はエピファニアといって、東方の三博士が生まれたばかりのキリストを祝った日だそうで、イタリアでは子供の日のようなことになっている。前日の夜、子供たちはクリスマスツリー(1月6日まで出しておくのがイタリア式)に靴下をぶら下げておくと、べファーナという魔法使いのおばあさんがほうきに乗ってやってきて、よい子にはお菓子を、悪い子には炭を入れていくという。もちろん本物の炭をもらう子供なんかいるわけがなく、この時期のお菓子屋さんには、炭の形を模した砂糖菓子カルボーネ(炭、の意味)が必ず売られている。あらあら、靴下にプレゼントを入れてくれるのはサンタクロースと思っていたのに、ところ変わればお祭りも様々である。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住