イタリアのチーズの話Il racconto del formaggio d’Italia
チーズの王様パルミジャーノ・レッジャーノIl Parmigiano Reggiano,re del formaggio
イタリアのチーズといえば、まずは何をおいてもパルミジャーノ・レッジャーノだ。ゴルゴンゾーラやモッツァレッラも大好きだけど、パルミジャーノがなかったら一日も暮らせないわと悶えるイタリア人(特に北イタリア)の姿は簡単に想像ができる。それは単なるチーズの域を超えた国民食というか、日本人にとっての醤油というか、とにかくありとあらゆる場面で食べられ、ありとあらゆる料理に使われるのが、パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズなのだ。
ちなみにパルミジャーノ・レッジャーノとは、北イタリアはエミリア・ロマーニャ州パルマを中心とする地域で作られる、牛乳のチーズ。パルマと、レッジョ・エミリアが主な生産地だから、「パルミジャーノ」「レッジャーノ」という名前なわけだ。大きな型が特徴的で、厚さ18センチ前後、重さ40キロ近くもあるパルミジャーノを丸ごとショーウィンドウに飾る店やレストランを、日本でも見かけることがあるのではないだろうか。これまたちなみに、ほぼ同じ製法だが、ミラノのあるロンバルディア州やトリノのあるピエモンテ州で作られているグラナ・パダーノというチーズは、ほんの少し値段が安く、でも味はほぼ同じという庶民派の人気モノだ。
さて、イタリア人は生まれてから死ぬまでに、いったいどれぐらいパルミジャーノを食べまくるのか。まずは生まれてすぐに、イタリア人たちはパルミジャーノの洗礼を受ける。マンマたちは、歯が生えかけの赤ちゃんに歯固めとしてパルミジャーノの皮の固い部分を持たせるのだ。なにしろ固くて噛み切ることはできないが、カジカジしているうちに、あのほんのり甘く、しょっぱいチーズの味が口の中に溶けだして赤ちゃん幸せ! 塩分過多がちょっと心配になるけれど、カルシウムはたっぷりだ。イタリアの赤ん坊たちは、こうしてイタリア人になっていくのである。小学校に入るころには、ママ! おやつはパルミジャーノでね! なんていう、日本人からみるとなんともグルメな、でもイタリア人としてはいたって普通の子供になっていく。スーパーマーケットのチーズコーナーには、一口大に包装されたおやつ用パルミジャーノなんていうのも売られているほどだ。
大人になったイタリア人たちは、パスタに、リゾットに、ほぼ毎日、削ったパルミジャーノチーズが欠かせないのはもちろん、例えば「アーティチョークのサラダ」や「フンギ・ポルチーニのサラダ」などのようなご馳走サラダには薄くスライスしたパルミジャーノは必須だし、肉団子やスープの隠し味には必ずと言っていいほどパルミジャーノが入っている。食前酒のお供に、食後のチーズとしても活躍するだけでなく、最近はパルミジャーノのスフレとか、パルミジャーノのジェラートなんかがデザートに登場するレストランもあったりして、ますますおいしいパルミジャーノなのである。
イタリアには300とも400ともいわれる種類のチーズがあって、どれも個性的でおいしいのだが、イタリア人がどんなふうに食べているかをちょっと書いただけでこんなに長くなってしまうなんて、パルミジャーノ・レッジャーノがチーズの王様といわれる所以かもしれない。
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住