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Vol.26 本当に甘いものが好き!

本当に甘いものが好き!Siamo veramente golosi!

本当に甘いものが好き!Siamo veramente golosi!

イタリア人のお菓子生活について2年も連載させていただいておいて、何を今さらなんだが、イタリア人てほんとうに甘いものが好きだなあ、と何かにつけて思う。
1月の後半から2月の頭にかけて、ヨーロッパ全体がシベリアの寒気団に覆われ、とても寒い日が続いた。日中でもマイナス気温。家にいても外を歩いていても、温かいものを身体に入れたくなる。 そんな時、イタリア人の甘党たちはチョコラータ・カルダを飲む(甘党と言っても甘いものが苦手というイタリア人を私は見たことがないし、酒飲み≠甘党という常識も聞いたことがない)。食べると言った方がいいぐらい濃度のあるチョコラータ・カルダ(ホット・チョコレート)は、真っ黒でドロドロで熱々。フーフー言いながらスプーンですくって飲めば、熱い液体がお腹に流れ込み、身体の芯から温まる。でもこれが甘い! とても美味しいけれど、どの店でもティーカップにたっぷり入って出てくるそれは、半分も飲んだら(食べたら)お腹いっぱい、最後の方は冷めて甘味も増すようで飲みきれないことが多い。
ところがイタリアの人たちは、そこに涼しい顔をして砂糖を入れる。ツワモノになると、チョコラータ・カルダ・コン・パンナといって、泡立てた生クリーム(砂糖入り!)添えのチョコラータに、更に砂糖をドカドカ入れて嬉しそうに飲んでいる。しかも生クリームの量だって半端じゃなく、大抵チョコレートの上にのって出てくるそれはチョコレートがまったく見えないぐらいの量なのだ。
砂糖をいっぱい入れるといえば、コーヒー(エスプレッソ)にどれぐらい砂糖を入れますか? と友人知人のイタリア人たちに聞きこみ調査をしたことがあった。入れない、という人はほぼ皆無。健康上、砂糖の使用を制限している場合を除いて、コーヒーに砂糖を入れないというイタリア人はゼロ。では入れる人はどれぐらい? 一番多かった回答はスプーンに2杯~3倍!! しかも忘れちゃならないのは、彼らイタリア人たちは、一日に何回もエスプレッソを飲み、そのたびに同じように砂糖を入れている、ということだ。
聞き込み調査をした中で、砂糖7杯という人がいた。それって飽和状態にならないのですか? と質問したら、そう、溶けずにカップの底に残っているコーヒー味の砂糖をすくって食べるのがうまいんだよ、と嬉しそうにほほ笑んだ。 これだけ砂糖が好きだから、お茶にも当然砂糖を入れる。紅茶はいいとしても、最近のヘルシーブームでイタリア人にも人気の緑茶や番茶、中国茶などにも入れようとするので驚く。 驚くといえば、スプレムータ・ダランチャ(その場で絞ってくれるオレンジジュース)にも砂糖を入れる人が多い。嘘だと思ったらイタリアのバールに入って、スプレムータを頼んでみてください。絶対砂糖がついてくるから。
こんなふうにイタリアの人たちは飲み物に限らず、食後には何か必ず甘いものがないと満足しないし、ダイエットだと言ってランチを抜く代わりにジェラートを食べる女性を私は何人も知っている(結局成功しているようには見えない)。街にはこんなにあって経営が成り立つの? とこちらが心配になるほどお菓子屋さんにジェラテリア、チョコレート専門店などなど「甘いもの関連ショップ」がひしめき合っている。
ところが、イタリアと日本の、国民一人当たりの砂糖の消費量を調べたてみると、意外なことに、若干イタリアのほうが多いものの、日本とさほど変わりがなくてびっくりする。 こんなに砂糖を年柄年中摂取している彼らが、デリケートなスイーツを好む日本人と砂糖の消費量が同じだなんておかしいぞ? とよくよく考えてみると、日本人は料理にもかなり砂糖を使うがイタリア料理では砂糖は全くと言っていいほど使用しない。つまりイタリア人たちは、純粋にお菓子としてだけ砂糖を食べ、飲み物に砂糖をドカドカ入れて、日本人と同じぐらいの量を消費しているというわけだ。
彼らは「甘いものを欲するのは、アフェット(愛情)が足りないから」とよく言う。ということは、私から見たら彼らはこぞって愛情欠乏症に違いない。だから夫婦は一日に何度も電話をしあい、恋人同士は歩きながらキスしあい、背丈が同じぐらいの母と子も(息子も!)手をつないで歩いて、常に愛情を確かめ合っているのだろうか? そして、それでもまだ足りなくて、甘いものを食べまくるイタリアの人たち。たしかに甘くておいしいお菓子や飲み物は、それだけで嫌なことを忘れさせ、幸せな気分にさせてくれる。甘いものを好むのは、イタリア人たちの幸せに生きるための処世術なのかもしれない。










文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.25 イタリアの甘い風邪処方

イタリアの甘い風邪処方Dolci Ricetta Italiane per il raffreddore

マンマの処方が一番!La migliore ricetta e’ quella della mia mamma

ヨーロッパの石作りの建物は、夏は涼しくて気持ちがいいが、冬はシンシンと足元から冷気が上がってくるようで、身体全身がとても冷える。私が住んでいるトリノなどは、気温自体は真冬の東京とそれほど違いがないようだが、魚と野菜でできた薄っぺらい身体の日本人にはその冷気がこたえる。それで、私はひんぱんに風邪をひいている。
もちろん肉と脂肪とチーズとパスタでできあがった、あつい(幅もあついし、体温を熱い)身体のイタリア人だって風邪をひく。彼らは我慢ということを知らないので、ちょっと頭が痛いとか、熱があると言っては大げさに騒ぐ。すぐに市販薬に頼ってしまうのは現代人の悪い癖だが、そんな彼らも、大好きなマンマの甘い甘い風邪処方が大好きだ。
代表的なイタリアの天然風邪予防といえば、オレンジジュース。ジュースになって売っているやつじゃなく、飲む直前にお母さんが絞ってくれる「スプレムータ・ダランチャ」(オレンジを絞ったもの)はビタミンCたっぷりで、風邪予防に最適だ。日本人が冬中こたつで(?)ミカンを食べるように、イタリア人は毎日毎日このスプレムータを飲む。おしゃれ~に見えるかもしれないけれど、イタリアではオレンジのほうがミカンより安いし、どこにでも売っているので普通のことなのである。八百屋さんへ行ってオレンジをください、というと「食べる用? それとも絞る用?」と聞かれるぐらい。甘酸っぱい味と、オレンジの香りが部屋中に漂って、それだけでも元気が湧いてくる。
しかしいくらオレンジをたくさん飲んでも、あれ? 喉が痛いぞ、なんかゾクゾクするぞ、なんて時もある。そんな時は、「サルビア&レモン」だ。サルビアとはハーブの一種、セージのことだ。煮込み料理や肉を焼いたりする時、イタリアでは日常的に使うハーブだから、お庭やベランダや冷蔵庫にわりと普通に常備されている。で、このセージの葉を2,3枚とレモン汁、はちみつをティーカップに入れ熱いお湯を注げば、サルビアレモンのできあがりだ。セージには強力な殺菌作用があるので風邪菌を退治し、レモンのビタミンCで抵抗力を高めようということだろう。その上身体がポカポカと温まって、いい香り。とてもおいしいので、風邪をひいていなくても私は時々作っては楽しんでいる。
もっと強烈に身体をポカポカさせて元気をつけちゃおう! 風邪なんかやっつけちゃおう! という時には「ヴィン・ブルレ」の登場だ。赤ワインにシナモンやクローブなどのスパイスと、オレンジやレモン、りんごを加え、砂糖も入れて煮込み、熱々を飲むというものだ。味はサングリアのあったかバージョンといった感じ。フランスでも「ヴァン・ショー」(ホットワイン)という名前で同じようなレシピがあるらしいが、北イタリアのこの辺ではヴィン・ブルレ=焦がしたワインと呼ばれ昔から親しまれている。風邪予防はもちろん、スキー場や冬のアウトドアイベントなどにも欠かせない存在。
それでもやっぱり具合が悪くなっちゃったよ、という時には薬を飲んでおとなしく寝ているに限る。そしてそんな時、マンマが作ってくれるイタリア式おかゆが、なかなかおいしい。「リーゾ・ボッリート」(茹でたご飯)また「リーゾ・イン・ビアンコ」(白いご飯)と呼ばれるこの料理は、イタリア米をパスタと同じように茹で、水気を切ったら極上のオリーブオイルとパルミジャーノチーズをたっぷり削りかけていただくというもの。実はこれを私が初めて食べたのは、イタリアに来て初めて風邪をひいたとき、ホームステイ先でのことだった。その家のお母さんがわざわざ作ってくれたのだが、熱があってフラフラ、かつイタリア暮らし初心者の日本人の胃には、たっぷりのオイルやチーズは正直言って、オエッというものだった。梅干をそえた白い日本のお粥が食べたいよー、と母の顔を思い浮かべ、涙を浮かべたものだ。しかし後日、健康体でリーゾ・イン・ビアンコを食べてみると、なんだ、病人に食べさせるのはもったいないじゃないか、というおいしさ。エクストラバージンオリーブオイルの青い香りとピリっとした風味が、チーズとお米の甘みとからみあう。もちろんイタリア人たちは、病気の時にもこれを食べる。消化に優しい上に、オイルやチーズの甘みが身体に元気をつけてくれるというわけらしい。
こんなふうにイタリア人は、甘い風邪処方が大好き。そういえば、市販薬もみんな子供の薬みたいに甘い味がつけてあるのも、そのせいだろうか??


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.24 ポレンタ! ポレンタ!ポレンタ!!

ポレンタ! ポレンタ!!Polenta ! Polenta! Polenta!!

みんなこんなにポレンタが好き!Che polentone che siamo!

12月に入り、寒さも本格的になってくると、無性に食べたくなるものがある。それはパネットーネでもクリスマスのご馳走でもない。ポレンタだ。
ポレンタとは、ご存じのようにトウモロコシを粉に挽いたものを、水やだし汁などでドロドロに煮た食べ物。古代ローマ時代にあった「プルテス」なるものがオリジナルだという、由緒ある料理である。粥状にゆるく炊いたものに肉の煮込みやミートソース状の物をかけて、またはチーズを溶かしこんで食べる。固めに煮て固まったものを切り分けて、それをバターで表面カリカリ、中フワフワに焼いて、肉や魚料理の付け合わせにしたりもする。味もカロリーもヘビー級の食べ物であることから、一応冬の食べ物ということになっている。
しかし寒くなってポレンタが食べたくなるなんて、私も立派なポレントーネになってきたものだと感慨にふける今日この頃。ポレントーネとは、貧しかった北イタリア人たちがポレンタばかりを食べるのを見て、南イタリア人が馬鹿にして呼んでいた蔑称だとか。一方の北イタリア人たちは、パスタばかり食べる南イタリア人をマッケローニと呼んでいたそうだ。まあどちらも過去のお話で、今ではイタリア全国民がマッケローニになり、一方ポレンタは若干劣勢だ。煮込むのに最低でも40分はかかるという面倒くささとか(現代では3分でできるインスタントもあるにはあるけれど、やっぱり本格派の味にはかなわない)、でんぷん質とタンパク質ばかりが多くなりがちな、ちょっとヘルシーじゃないところなどが現代人に敬遠される理由だと思う。
でも、あのトローリふんわり口の中に広がるかすかに甘いトウモロコシの味に、しょっぱいサルシッチャのトマト煮込みとかゴルゴンゾーラのコクのある塩味とかイノシシ肉のジューシーなシチューなんかが絡まりあう時には、ええーい、ヘルシーなんかクソくらえ! と開き直っても余りある魅力がある。もちろんこんなふうに思っているのは私だけではない。普段は常にダイエットを心がけるイタリア某大企業の幹部A氏は「ポレンタパーティー、やる? やる?」と彼の妻である私の親友に毎晩のように迫っているらしいし、ピエモンテ人であることを誇りにしているインテリ家族のE家の人々は、毎年のように「ポレンタな日曜日」に私を招待してくれる。ポレンタな日曜日とは、ポレンタしか食べない日曜日のこと。一杯目はチーズをかけて、2杯目は煮込みで、3杯目は素ポレンタで、という具合にずっとポレンタを食べ続けるのだから、並大抵の胃袋伸縮力では太刀打ちできない。
古臭いとかヘルシーじゃないとか言いながら、実はこんなにポレンタは愛されているので、ポレンタのお菓子というのもイタリアには存在する。有名なのが「ポレンタ・エ・オゼイ」というベルガモの郷土菓子。ポレンタに「オゼイ」=野生の小鳥料理を添えたものがあるのだが、それに見立ててポレンタをスポンジで、小鳥をチョコレートで作ったかわいらしいお菓子だ。
一方家庭菓子で私が好きなのは、ポレンタを砂糖とレモンの皮を入れた牛乳で煮て、冷えて固まったところを一口大に切り分けてから揚げたもの。その名もポレンタ・フリッタ。ベネト出身の我が家のおばあちゃんがよく作ってくれる冬のおやつだ。外はカリッと揚がって、中はふわふわとクリームのように口の中でとける。強烈な個性とか際立ったおいしさ、美しさはないけれど、一つ、また一つ、そして今日も明日も食べたくなるような、イタリア菓子そのものの魅力がいっぱいなのだ。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.23 白トリュフのお話

白トリュフのお話Racconto dei tartufo biancho

森のダイヤモンドDiamante del bosco

北イタリアでは毎年、9月の中盤から10月にかけて雨がシトシト降り続いて気温がぐっと下がり、夏のバカンス気分は一気に吹き飛ばされる。ったく雨ばっかり降ってうっとうしい! とロマンを解さない私などは思ってしまうのだが、あるイタリア人のソムリエ氏などは「雨に濡れそぼった枯葉の香り」と、ワインの表現に使っていたっけ。さすが、ロマンの国、イタリアである。
ところが今年は、そんなロマンチックな(?)秋の雨がほとんど降らず、暑い夏のような気候が10月初旬まで続いた。寒いのが嫌いな私はラッキー❤と楽しく過ごしていたのだが、ところがどっこい、実はアンラッキーの始まりであった。
そう、食いしん坊にとってアンラッキーなお天気、つまり雨が降るべき時に降らなかったせいで、秋のめぐみのキノコ類が全く不作だったのだ。イタリアのキノコといえば、まずポルチーニだけれど、例年ならもう、リゾットにフライに炒めもの、そして生でサラダにと飽きるほど食べているところを、今年は数え切れるほどしか食べられなかった。市場に買いに行ってもなかなか見かけないし、レストランへ行ってもメニューにのっていないのだ。
一方キノコの王様、トリュフにいたっては、たったの2回しか食べていない。出回っている量が圧倒的に少ないから、あっても質がよくないかとても高い。だから食べる機会がぐっと少なくなってしまったというわけだ。
ちなみにトリュフのことをキノコ、キノコとさっきから言っているが、実は形状も生え方もキノコとは全然違う。トリュフは丸い芋状のものが、木の根元などの地下に生える。それをイタリアでは犬に発見させて「ここ掘れワンワン」と言わせるのだが、種ではなくて菌糸から発生するから、学問的にはキノコの一種である、ということになっているらしい。
さて、そのトリュフ、スイーツ界でもお馴染のチョコレートの一種でもある。形がキノコのトリュフに似ているところから、こう呼ばれるようになったというのはご存じの通り。では本家キノコのトリュフはというと、大まかに言って白と黒の2種類がある。黒はフランスのぺリゴールなどが産地として有名で、高級フランス料理のソースに、風味づけにといろいろなところで活躍している。
いっぽう白トリュフはというと、世界でもとれるところがとても限られていて、その限られた産地の中でも我がピエモンテ州アルバ産のものが最高品質である、ということになっている。しかも白トリュフは生で食べることが真情で保存も利かない、人工栽培もできないということで、特に希少なものとして値段も恐ろしく高い。だいたい相場が1キロ3000ユーロ~4000ユーロ。一人前10g食べるとしたって、一人前4000円前後? 溶かしバターを絡めた細打ち卵麺「タリオリーニ」や「カルネ・クルーダ」と呼ばれるピエモンテ風牛肉のタルタル、それから卵のココットなどに薄く削って、その独特の香りを楽しむ。好きな人にとってはこの香りがたまらなくて、料理もぐっとおいしくなるというわけだ。
こんなに高価なので、森のダイヤモンドなんて呼ばれて宝物のように扱われる。レストランでも、お客の前へトリュフとともにやってきて、目の前で削ってくれるのはほとんどオーナーだけ。バイトのウエイター君に触らせて、トリュフを一かけポケットに入れられてはかなわん、ということらしい。
森のダイヤモンドだから、女性を口説くときにも大変活躍するらしい。媚薬効果があるという話もあるが、それは化学的に証明されたわけではなく、「私のために(森の)ダイヤを(食事として)プレゼントしてくれたのね❤」と女性がうっとりすることから、媚薬と言われるようになった、という説もある。
ある時、京都の超一流料亭の料理長を、アルバの街へご案内したことがある。トリノで晩さん会をするためにいらしたのだが、大仕事が終わったので、ちょっとだけピエモンテ観光、ということだった。その料理長が、老舗の白トリュフ専門店で大きな大きな白トリュフの塊を購入された。なんでも、京都へ持ち帰られ、口の中でとろけるようにおいしいことで知られる茶碗蒸しに削って、お出ししたのだとか。
うーん、食べてみたい。白トリュフのシーズン真っ最中のアルバから京都へ飛んでいきたいと思ったのを今も覚えている。卵やクリーム状のものと白トリュフがことのほか相性がいいのはわかっていたが、まさか茶碗蒸しとは。さすが、天才料理人である。媚薬効果抜群に違いないあんな料理を作る人は、やっぱりモテモテなんだろうか。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.22 保存食の季節 ②

保存食の季節 ②La stagione della conserva 2

オイル漬けの野菜たちVari Verdure  Sott’olio

イタリアは地味が豊かで、気候や地形がバラエティーに富んでいるから、野菜などの農作物も、各地それぞれに個性的でおいしいものがある。そのおいしさを旬が過ぎた後にも味わいたい、農作物のバラエティーが寂しくなる冬の間も食卓を豊かにしたい、そんな思いから生まれるのが野菜の保存食だ。
ほとんどの野菜は茹でて、焼いて、または生のまま、オイルや酢に浸けて保存するというスタイルが基本。そんな中で今回ご紹介するのは、他とはちょっと毛色の違う品々。味の方も飛びぬけておいしい、と私の独断と偏見で選んだ「イタリア一おいしい」野菜の保存食たちだ。
その一番バッターは、なんといっても「プチピーマンのアンチョビとケッパー詰め オイル漬け」。一見プチトマトに見える小さな赤いピーマンが、8月後半から9月にかけて市場に出回る。そのピーマンのヘタを取り、種をくり抜いたら、酢を混ぜた水に数時間浸けておく。酢を混ぜた水で煮る、というレシピもあるようだが、私が教わった方法は浸けるだけのやりかたで、このほうがシャキシャキとした歯ごたえが残るから、日本人の好みにあうと思う。
漬かったピーマンを酢液から出したら水気をよく切り、中にアンチョビとケッパーを詰める。アンチョビはできれば塩漬けのアンチョビを洗って、手開きしたもの。油焼けしていない生のような食感と、発酵食品のうまみが塩辛みたいにおいしいアンチョビだ。そしてケッパーも酢漬けではなく、塩漬けをさっと洗ったものを使う。野菜をオイルに漬けるだけといったシンプルな調理だからこそ、材料の良しあしで、できあがりの味が大きく変わってくるのだ。
これを熱湯消毒した保存瓶に並び入れ、ピーマン全部にかぶるまでオリーヴオイルを注ぎ入れる。オリーヴオイルもできればエキストラヴァージンがいいのだけれど、かなりたっぷり必要だから、高くついてしまうのが欠点だ。
高くつくし、手間はかかるけど、これほどワインとパンが進むおつまみもなかなかないだろうと、私はいろいろな人に胸を張ってお勧めしている。酸味のある料理はワインとの組み合わせは難しいとソムリエの先生は言うけれど、あまり難しいことは考えず、おいしいのでよしとする。もともとは南イタリアから北イタリアへ、出稼ぎの人と共にやってきたというプチピーマンは、基本的に辛味はないのだけれど、時々辛いのに当たることがある。そんな時、辛いもの好きの日本人としては当たりくじを引いたようで、ちょっと嬉しくもあったりする楽しい一品だ。
私のお勧め野菜の保存食二番目は、ピエモンテ名物アンティパストのレギュラーでもある、その名も「アンティパスト」。ニンジン、たまねぎ、セロリ、カラーピーマン、インゲンなどをトマトでグツグツ煮込んで、酢と砂糖で味つけしたものを作る。ここまでだとラタトゥイユの庶民派バージョンみたいな感じなのだが、これを保存瓶に入れておき、食べる時にはここへツナを加えて食べるのだ。言ってみれば、山の保存食と海の保存食を持ち寄って、一緒にしてみたらおいしかったというような、そんな一品。ちなみに現代でこそツナ缶は大量生産品がどこにでも出回っているけれど、海のないトリノやミラノでは、かつて海辺の町と物々交換して得ていた貴重品であった。だから秋の豊穣と、遠くからやってきた海の珍味を混ぜてテーブルに並べれば、またとないクリスマスのご馳走になったに違いない。
イタリア人にとって、マツタケみたいな存在のフンギポルチーニのオイル漬けも、格別なご馳走だ。プリプリ、かつコリコリした歯触りと、独特なキノコの香りは生の時とは別物の味わいがある。それから冬のシーズンが終わって春先にだけ出回る小さなカルチョッフィ(アーティチョーク)も私の大のお気に入り。カルチョッフィを掃除してから半割りにし、塩酢水でさっと茹でたのち、オイルに漬け込む。朝掘りの筍のように柔らかく、風味も高く、もう食べても食べても食べ飽きないおいしさだ。
当然、といっては語弊があるかもしれないが、手作りしたものは断然おいしい。だからおいしい野菜の保存食を食べたいと思うなら、季節ごとに野菜を大量に買い込み、仕込み、保存するという仕事が待っている。それはそれは手間がかかって忙しくて、仕事をしている場合じゃなくなるのだが、仕事をしないと材料も買えなくなるというジレンマに陥る。くいしん坊を極めるのも、なかなか大変なのである。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.21 保存食の季節 ①

保存食の季節 ①La stagione della conserva1

トマト万歳!Viva! Pomodori

イタリアで一番おいしいものの一つに保存食があると私は思っている。フルーツが旬真っ盛りの時期に収穫して、シロップ漬けやドライフルーツを作るという話はVol.18 フルーツの季節がやってきた! ですでに書いたとおり。で、今回の主役は野菜の保存食。豊穣の秋である今、9月~10月にかけて保存食作りのピークを迎えるからだ。
イタリア野菜の保存食、その王様的存在はなんといってもトマトの水煮だ。
トマトの水煮というと、日本人には缶詰めの印象が強い。缶詰め=生に比べて質が劣るとか、手抜きとかというイメージを持つ人も多いのではないだろうか? 私がトリノの自宅で毎月開催している、在住日本人の奥様向け料理教室でも、料理に水煮の缶詰を使うと「え? 先生でもそんなものを使うんですか?」なんて質問されることがある。
でもそれは大きな勘違い。トマトソースを筆頭に、トマトが活躍する多くのイタリア料理に水煮は欠かせないのだ。生のトマトでは出てこないのは、水煮ならではの甘みや旨味があるからだ。もちろん生のトマトの味が最高潮に達する時期、8月の終わりから9月頃なら、生のトマトで料理するにこしたことはないのかもしれない。でもそれは一年のほんの短い期間だ。サン・マルツァーノなど、加熱料理に適した細長い品種のトマトが南イタリアの真夏の太陽をたっぷりと浴びて最高潮に熟し、たくさん出回るのは、ほんの一時期だけなのだ。
だからその最高潮に熟したトマトを水煮にして保存瓶に密閉し、保存する。そうすれば一年中おいしいトマト料理が作れるというわけだ。で、家庭で手作りできない人のために、水煮の缶詰がある。瓶詰めになったものもある。缶詰めや冷凍食品やインスタント食品という分野では日本に比べて10歩も100歩も遅れているイタリアだけど、ことトマトの水煮だけは別。なんたって一年間に一人平均50キロもトマトを消費する国の人たちだ。市販のものだっておいしくなければやっていけない。大型のスーパーマーケットなどでは、棚一列全部トマトの水煮製品がずらり、というのが当たり前だ。
けれど昔ながらの手作りを愛するイタリアマンマは、自作にこだわる。保存料や添加物の心配はもちろんだけど、代々その家に伝わるレシピで仕込んだトマトの水煮を、一年間家族に安定供給するためのお母さんたちの奮闘月間、それが9月なのである。
まずは市場へ毎日出かけて行っては、できるだけ質がよく、できるだけ安いトマトを探して歩く。市場でもそういう事情を知っているから、南イタリアのおいしいトマトをたっぷり仕入れて、この時期の需要に備える。山積みにされた木箱入りのトマトの間をお母さんたちが練り歩き、その背中をナポリとかプーリアなまりの声がおいかける。「ポモドーリ・ベッリー!」(おいしい、いいトマトだよ!)「ダーイ! チンクエレキーリ ウンエウロ!!」(さあさあ、5キロで1ユーロだ!) そんなトマトを何10キロ、人によっては家族だけでなく親戚一同にも配るため100キロ単位で買いこんで、水煮作業に挑むマンマたち。
スーパーマーケットやキッチン用品店では、水煮にしたトマトを詰める保存瓶や、トマトを潰して濾すための機械なんかがずらりと売られるのも、この時期ならではだ。
いろいろ購入して準備万端整った各家庭のキッチンでは、いよいよ作業開始。一つ一つ洗って水気を切ったトマトを丸ごと湯むきにする人、半割にして種も取り除く人、機械を通してピュレ状にする人など、家庭によって作り方が少しずつ違う。下ごしらえされたトマトは熱湯消毒した保存瓶につめ、蓋を軽く閉めたら湯せんで加熱する。そうすることでトマトにちょっとだけ火が入って水気が凝縮され、おいしさが増す。瓶の中は真空になるから、一年間保存しても品質が劣化しないという具合。
こんなふうに、一年中休みなくイタリア人の食卓を支えるのがトマトの水煮だ。パスタに、リゾットに、そして肉や魚の煮込み、様々なソースの隠し味に、トマトの水煮は活躍する。保存食の王様と最初に書いた所以だ。だけどイタリアには、トマトだけでなく、おいしい野菜の保存食、お総菜がたくさんある。プチピーマンの詰め物に、ピエモンテ風野菜の煮込み、ナスやズッキーニやアーティチョークのオイル漬け、酢漬けなどなどなど。というわけで、次回はトマト以外の野菜の保存食、お惣菜を紹介します。こうご期待。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.20 秋のお楽しみ、フンギ・ポルチーニ

秋のお楽しみ、フンギ・ポルチーニFunghi Porcini,la gioila del’autunno.

トリフォラーティにフライ、リゾット、そして…。Trifolati,fritti,risotti ecc…

イタリアの秋の味覚といえば、なんといってもフンギ・ポルチーニFunghi Porciniだ。フンギはイタリア語でキノコという意味だから、シイタケとかシメジといった種類を指す名前に当たるのがポルチーニ。毎年9月から10月頃、市場やレストランのメニューにこのポルチーニが並ぶ頃になると「今年のはいいわね」とか「今年は雨が少なかったからいつもより遅い」などなど、話題もポルチーニ一色に染まり、おいしい時期を逃してはならんと、みんな買って買って、食べまくるのだ。
ちなみに私の住むピエモンテ州は、同じキノコの仲間の白トリュフで世界的に有名だけれど、あれはフォアグラ、キャビアと並ぶ別格のご馳走。日常の食卓とはあまりにもかけ離れ過ぎている。1キロ4000ユーロ、一人前50ユーロなんていう値段だから、シーズンだからと言ってたっぷりと堪能しまくれるのはリッチな方々だけ。そういえば私がもうちょっと若くてかわいかった頃、白トリュフの取材に行ったら、80歳を超えた白トリュフ協会の会長というおじいさんが、帰りがけ、私の手に小さな白トリュフを握らせ「今度は白トリュフ採りに連れて行ってあげよう」とウィンクした。森のダイヤとも呼ばれる白トリュフを武器に使うとは、さすがイタリア元祖チョイ悪(その頃そんな言葉はなかったけれど)、と感心したものだ。
 一方ポルチーニは、お金持ちも庶民も、グルメも、それほどグルメじゃない人も、イタリア人の誰もが大好きだ。相場は1キロ10ユーロから20ユーロほどで、他の野菜、たとえばニンジンなんかは1キロ2-3ユーロ、に比べたらちょっとした贅沢品だけど、手が出ないと言うほどでもない。
一番人気の食べ方は、やっぱりリゾットか、タリアテッレか。どちらにせよ、ポルチーニを薄くスライスしてオリーヴオイル、またはバターで炒め、仕上げにパセリを散らしたものをベースにした味付け。ちなみに、このポルチーニ炒めだけだと「Trifolatiトリフォラーティ」と言って、これも人気メニューの一つ。肉料理の付け合わせか、前菜として活躍する。
でも私の個人的な好みとしては、フリットが一番おいしいなあ。イタリアの粒の細かいパン粉をつけてカリッと揚げ、レモンをジュッと絞ってハフハフ言いながら齧ると、ポルチーニの香りたっぷりの汁がじゅわ~と口の中に広がって、それはそれはおいしいのだ。書いているだけで涎が出そうになってきた。でもフリットが好きなのは私に限った話ではないらしく、最盛期のレストランやトラットリアのメニューには、セコンドとして「Porcini Frittiポルチーニ・フリッティ」を掲げている店は少なくない。セコンドとして、肉や魚を食べる代わりに山盛りのポルチーニのフライにむしゃぶりつく常連風男性一人客、なんてとても絵になるのである。
 イタリア人たちはポルチーニを食べるのも好きなら、採りに行くのも好きという人が多い。私の夫の親戚にもキノコ採りの名人がいて、季節になると彼は朝5時に起きて森へ入りポルチーニ狩りに勤しむ。そうして採れたてほやほやのポルチーニや、自家製オイル漬けのフンギ類が時々我が家にも届けられる。オイル漬けはフンギ専門店で買ったりするとなかなか高価で、クリスマスなどの贈答品に使われることも多い。それをクリスマスや新年のお祝いディナーに前菜として食べたりするのだが、生のものとは違うシコシコとした味わいはオイル漬けならではの別のおいしさがある。
こんなふうにおいしいポルチーニ料理を羅列して行ったら果てがないけれど、最後に一つだけ、どうしても言いたい一品がある。それは「トラットリア・イ・ボローニャ」で食べた「ポルチーニの笠と卵のオーブン焼き」だ。軸をはずした大きめのポルチーニの笠を軽くソテーしたら、軸をとったくぼみに卵黄をそっとのせ、オーブンで焼いたものだ。食べるときに半生の卵を崩し、流れ出した卵をポルチーニにからめながら食べる。あのおいしさは、本当に私の口の中の記憶中枢に焼きついてなくなることがない。この料理は「イ・ボローニャ」にほれ込んで15年働き続けている小林清一シェフが、ずいぶん前に作ってくれたものだ。ピエモンテ州はアスティ郊外のこの名店へ行こうと考えている人は、ポルチーニの季節を狙ってみてはいかが? 


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住