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Vol.24 ポレンタ! ポレンタ!ポレンタ!!

ポレンタ! ポレンタ!!Polenta ! Polenta! Polenta!!

みんなこんなにポレンタが好き!Che polentone che siamo!

12月に入り、寒さも本格的になってくると、無性に食べたくなるものがある。それはパネットーネでもクリスマスのご馳走でもない。ポレンタだ。
ポレンタとは、ご存じのようにトウモロコシを粉に挽いたものを、水やだし汁などでドロドロに煮た食べ物。古代ローマ時代にあった「プルテス」なるものがオリジナルだという、由緒ある料理である。粥状にゆるく炊いたものに肉の煮込みやミートソース状の物をかけて、またはチーズを溶かしこんで食べる。固めに煮て固まったものを切り分けて、それをバターで表面カリカリ、中フワフワに焼いて、肉や魚料理の付け合わせにしたりもする。味もカロリーもヘビー級の食べ物であることから、一応冬の食べ物ということになっている。
しかし寒くなってポレンタが食べたくなるなんて、私も立派なポレントーネになってきたものだと感慨にふける今日この頃。ポレントーネとは、貧しかった北イタリア人たちがポレンタばかりを食べるのを見て、南イタリア人が馬鹿にして呼んでいた蔑称だとか。一方の北イタリア人たちは、パスタばかり食べる南イタリア人をマッケローニと呼んでいたそうだ。まあどちらも過去のお話で、今ではイタリア全国民がマッケローニになり、一方ポレンタは若干劣勢だ。煮込むのに最低でも40分はかかるという面倒くささとか(現代では3分でできるインスタントもあるにはあるけれど、やっぱり本格派の味にはかなわない)、でんぷん質とタンパク質ばかりが多くなりがちな、ちょっとヘルシーじゃないところなどが現代人に敬遠される理由だと思う。
でも、あのトローリふんわり口の中に広がるかすかに甘いトウモロコシの味に、しょっぱいサルシッチャのトマト煮込みとかゴルゴンゾーラのコクのある塩味とかイノシシ肉のジューシーなシチューなんかが絡まりあう時には、ええーい、ヘルシーなんかクソくらえ! と開き直っても余りある魅力がある。もちろんこんなふうに思っているのは私だけではない。普段は常にダイエットを心がけるイタリア某大企業の幹部A氏は「ポレンタパーティー、やる? やる?」と彼の妻である私の親友に毎晩のように迫っているらしいし、ピエモンテ人であることを誇りにしているインテリ家族のE家の人々は、毎年のように「ポレンタな日曜日」に私を招待してくれる。ポレンタな日曜日とは、ポレンタしか食べない日曜日のこと。一杯目はチーズをかけて、2杯目は煮込みで、3杯目は素ポレンタで、という具合にずっとポレンタを食べ続けるのだから、並大抵の胃袋伸縮力では太刀打ちできない。
古臭いとかヘルシーじゃないとか言いながら、実はこんなにポレンタは愛されているので、ポレンタのお菓子というのもイタリアには存在する。有名なのが「ポレンタ・エ・オゼイ」というベルガモの郷土菓子。ポレンタに「オゼイ」=野生の小鳥料理を添えたものがあるのだが、それに見立ててポレンタをスポンジで、小鳥をチョコレートで作ったかわいらしいお菓子だ。
一方家庭菓子で私が好きなのは、ポレンタを砂糖とレモンの皮を入れた牛乳で煮て、冷えて固まったところを一口大に切り分けてから揚げたもの。その名もポレンタ・フリッタ。ベネト出身の我が家のおばあちゃんがよく作ってくれる冬のおやつだ。外はカリッと揚がって、中はふわふわとクリームのように口の中でとける。強烈な個性とか際立ったおいしさ、美しさはないけれど、一つ、また一つ、そして今日も明日も食べたくなるような、イタリア菓子そのものの魅力がいっぱいなのだ。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.23 白トリュフのお話

白トリュフのお話Racconto dei tartufo biancho

森のダイヤモンドDiamante del bosco

北イタリアでは毎年、9月の中盤から10月にかけて雨がシトシト降り続いて気温がぐっと下がり、夏のバカンス気分は一気に吹き飛ばされる。ったく雨ばっかり降ってうっとうしい! とロマンを解さない私などは思ってしまうのだが、あるイタリア人のソムリエ氏などは「雨に濡れそぼった枯葉の香り」と、ワインの表現に使っていたっけ。さすが、ロマンの国、イタリアである。
ところが今年は、そんなロマンチックな(?)秋の雨がほとんど降らず、暑い夏のような気候が10月初旬まで続いた。寒いのが嫌いな私はラッキー❤と楽しく過ごしていたのだが、ところがどっこい、実はアンラッキーの始まりであった。
そう、食いしん坊にとってアンラッキーなお天気、つまり雨が降るべき時に降らなかったせいで、秋のめぐみのキノコ類が全く不作だったのだ。イタリアのキノコといえば、まずポルチーニだけれど、例年ならもう、リゾットにフライに炒めもの、そして生でサラダにと飽きるほど食べているところを、今年は数え切れるほどしか食べられなかった。市場に買いに行ってもなかなか見かけないし、レストランへ行ってもメニューにのっていないのだ。
一方キノコの王様、トリュフにいたっては、たったの2回しか食べていない。出回っている量が圧倒的に少ないから、あっても質がよくないかとても高い。だから食べる機会がぐっと少なくなってしまったというわけだ。
ちなみにトリュフのことをキノコ、キノコとさっきから言っているが、実は形状も生え方もキノコとは全然違う。トリュフは丸い芋状のものが、木の根元などの地下に生える。それをイタリアでは犬に発見させて「ここ掘れワンワン」と言わせるのだが、種ではなくて菌糸から発生するから、学問的にはキノコの一種である、ということになっているらしい。
さて、そのトリュフ、スイーツ界でもお馴染のチョコレートの一種でもある。形がキノコのトリュフに似ているところから、こう呼ばれるようになったというのはご存じの通り。では本家キノコのトリュフはというと、大まかに言って白と黒の2種類がある。黒はフランスのぺリゴールなどが産地として有名で、高級フランス料理のソースに、風味づけにといろいろなところで活躍している。
いっぽう白トリュフはというと、世界でもとれるところがとても限られていて、その限られた産地の中でも我がピエモンテ州アルバ産のものが最高品質である、ということになっている。しかも白トリュフは生で食べることが真情で保存も利かない、人工栽培もできないということで、特に希少なものとして値段も恐ろしく高い。だいたい相場が1キロ3000ユーロ~4000ユーロ。一人前10g食べるとしたって、一人前4000円前後? 溶かしバターを絡めた細打ち卵麺「タリオリーニ」や「カルネ・クルーダ」と呼ばれるピエモンテ風牛肉のタルタル、それから卵のココットなどに薄く削って、その独特の香りを楽しむ。好きな人にとってはこの香りがたまらなくて、料理もぐっとおいしくなるというわけだ。
こんなに高価なので、森のダイヤモンドなんて呼ばれて宝物のように扱われる。レストランでも、お客の前へトリュフとともにやってきて、目の前で削ってくれるのはほとんどオーナーだけ。バイトのウエイター君に触らせて、トリュフを一かけポケットに入れられてはかなわん、ということらしい。
森のダイヤモンドだから、女性を口説くときにも大変活躍するらしい。媚薬効果があるという話もあるが、それは化学的に証明されたわけではなく、「私のために(森の)ダイヤを(食事として)プレゼントしてくれたのね❤」と女性がうっとりすることから、媚薬と言われるようになった、という説もある。
ある時、京都の超一流料亭の料理長を、アルバの街へご案内したことがある。トリノで晩さん会をするためにいらしたのだが、大仕事が終わったので、ちょっとだけピエモンテ観光、ということだった。その料理長が、老舗の白トリュフ専門店で大きな大きな白トリュフの塊を購入された。なんでも、京都へ持ち帰られ、口の中でとろけるようにおいしいことで知られる茶碗蒸しに削って、お出ししたのだとか。
うーん、食べてみたい。白トリュフのシーズン真っ最中のアルバから京都へ飛んでいきたいと思ったのを今も覚えている。卵やクリーム状のものと白トリュフがことのほか相性がいいのはわかっていたが、まさか茶碗蒸しとは。さすが、天才料理人である。媚薬効果抜群に違いないあんな料理を作る人は、やっぱりモテモテなんだろうか。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.22 保存食の季節 ②

保存食の季節 ②La stagione della conserva 2

オイル漬けの野菜たちVari Verdure  Sott’olio

イタリアは地味が豊かで、気候や地形がバラエティーに富んでいるから、野菜などの農作物も、各地それぞれに個性的でおいしいものがある。そのおいしさを旬が過ぎた後にも味わいたい、農作物のバラエティーが寂しくなる冬の間も食卓を豊かにしたい、そんな思いから生まれるのが野菜の保存食だ。
ほとんどの野菜は茹でて、焼いて、または生のまま、オイルや酢に浸けて保存するというスタイルが基本。そんな中で今回ご紹介するのは、他とはちょっと毛色の違う品々。味の方も飛びぬけておいしい、と私の独断と偏見で選んだ「イタリア一おいしい」野菜の保存食たちだ。
その一番バッターは、なんといっても「プチピーマンのアンチョビとケッパー詰め オイル漬け」。一見プチトマトに見える小さな赤いピーマンが、8月後半から9月にかけて市場に出回る。そのピーマンのヘタを取り、種をくり抜いたら、酢を混ぜた水に数時間浸けておく。酢を混ぜた水で煮る、というレシピもあるようだが、私が教わった方法は浸けるだけのやりかたで、このほうがシャキシャキとした歯ごたえが残るから、日本人の好みにあうと思う。
漬かったピーマンを酢液から出したら水気をよく切り、中にアンチョビとケッパーを詰める。アンチョビはできれば塩漬けのアンチョビを洗って、手開きしたもの。油焼けしていない生のような食感と、発酵食品のうまみが塩辛みたいにおいしいアンチョビだ。そしてケッパーも酢漬けではなく、塩漬けをさっと洗ったものを使う。野菜をオイルに漬けるだけといったシンプルな調理だからこそ、材料の良しあしで、できあがりの味が大きく変わってくるのだ。
これを熱湯消毒した保存瓶に並び入れ、ピーマン全部にかぶるまでオリーヴオイルを注ぎ入れる。オリーヴオイルもできればエキストラヴァージンがいいのだけれど、かなりたっぷり必要だから、高くついてしまうのが欠点だ。
高くつくし、手間はかかるけど、これほどワインとパンが進むおつまみもなかなかないだろうと、私はいろいろな人に胸を張ってお勧めしている。酸味のある料理はワインとの組み合わせは難しいとソムリエの先生は言うけれど、あまり難しいことは考えず、おいしいのでよしとする。もともとは南イタリアから北イタリアへ、出稼ぎの人と共にやってきたというプチピーマンは、基本的に辛味はないのだけれど、時々辛いのに当たることがある。そんな時、辛いもの好きの日本人としては当たりくじを引いたようで、ちょっと嬉しくもあったりする楽しい一品だ。
私のお勧め野菜の保存食二番目は、ピエモンテ名物アンティパストのレギュラーでもある、その名も「アンティパスト」。ニンジン、たまねぎ、セロリ、カラーピーマン、インゲンなどをトマトでグツグツ煮込んで、酢と砂糖で味つけしたものを作る。ここまでだとラタトゥイユの庶民派バージョンみたいな感じなのだが、これを保存瓶に入れておき、食べる時にはここへツナを加えて食べるのだ。言ってみれば、山の保存食と海の保存食を持ち寄って、一緒にしてみたらおいしかったというような、そんな一品。ちなみに現代でこそツナ缶は大量生産品がどこにでも出回っているけれど、海のないトリノやミラノでは、かつて海辺の町と物々交換して得ていた貴重品であった。だから秋の豊穣と、遠くからやってきた海の珍味を混ぜてテーブルに並べれば、またとないクリスマスのご馳走になったに違いない。
イタリア人にとって、マツタケみたいな存在のフンギポルチーニのオイル漬けも、格別なご馳走だ。プリプリ、かつコリコリした歯触りと、独特なキノコの香りは生の時とは別物の味わいがある。それから冬のシーズンが終わって春先にだけ出回る小さなカルチョッフィ(アーティチョーク)も私の大のお気に入り。カルチョッフィを掃除してから半割りにし、塩酢水でさっと茹でたのち、オイルに漬け込む。朝掘りの筍のように柔らかく、風味も高く、もう食べても食べても食べ飽きないおいしさだ。
当然、といっては語弊があるかもしれないが、手作りしたものは断然おいしい。だからおいしい野菜の保存食を食べたいと思うなら、季節ごとに野菜を大量に買い込み、仕込み、保存するという仕事が待っている。それはそれは手間がかかって忙しくて、仕事をしている場合じゃなくなるのだが、仕事をしないと材料も買えなくなるというジレンマに陥る。くいしん坊を極めるのも、なかなか大変なのである。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.21 保存食の季節 ①

保存食の季節 ①La stagione della conserva1

トマト万歳!Viva! Pomodori

イタリアで一番おいしいものの一つに保存食があると私は思っている。フルーツが旬真っ盛りの時期に収穫して、シロップ漬けやドライフルーツを作るという話はVol.18 フルーツの季節がやってきた! ですでに書いたとおり。で、今回の主役は野菜の保存食。豊穣の秋である今、9月~10月にかけて保存食作りのピークを迎えるからだ。
イタリア野菜の保存食、その王様的存在はなんといってもトマトの水煮だ。
トマトの水煮というと、日本人には缶詰めの印象が強い。缶詰め=生に比べて質が劣るとか、手抜きとかというイメージを持つ人も多いのではないだろうか? 私がトリノの自宅で毎月開催している、在住日本人の奥様向け料理教室でも、料理に水煮の缶詰を使うと「え? 先生でもそんなものを使うんですか?」なんて質問されることがある。
でもそれは大きな勘違い。トマトソースを筆頭に、トマトが活躍する多くのイタリア料理に水煮は欠かせないのだ。生のトマトでは出てこないのは、水煮ならではの甘みや旨味があるからだ。もちろん生のトマトの味が最高潮に達する時期、8月の終わりから9月頃なら、生のトマトで料理するにこしたことはないのかもしれない。でもそれは一年のほんの短い期間だ。サン・マルツァーノなど、加熱料理に適した細長い品種のトマトが南イタリアの真夏の太陽をたっぷりと浴びて最高潮に熟し、たくさん出回るのは、ほんの一時期だけなのだ。
だからその最高潮に熟したトマトを水煮にして保存瓶に密閉し、保存する。そうすれば一年中おいしいトマト料理が作れるというわけだ。で、家庭で手作りできない人のために、水煮の缶詰がある。瓶詰めになったものもある。缶詰めや冷凍食品やインスタント食品という分野では日本に比べて10歩も100歩も遅れているイタリアだけど、ことトマトの水煮だけは別。なんたって一年間に一人平均50キロもトマトを消費する国の人たちだ。市販のものだっておいしくなければやっていけない。大型のスーパーマーケットなどでは、棚一列全部トマトの水煮製品がずらり、というのが当たり前だ。
けれど昔ながらの手作りを愛するイタリアマンマは、自作にこだわる。保存料や添加物の心配はもちろんだけど、代々その家に伝わるレシピで仕込んだトマトの水煮を、一年間家族に安定供給するためのお母さんたちの奮闘月間、それが9月なのである。
まずは市場へ毎日出かけて行っては、できるだけ質がよく、できるだけ安いトマトを探して歩く。市場でもそういう事情を知っているから、南イタリアのおいしいトマトをたっぷり仕入れて、この時期の需要に備える。山積みにされた木箱入りのトマトの間をお母さんたちが練り歩き、その背中をナポリとかプーリアなまりの声がおいかける。「ポモドーリ・ベッリー!」(おいしい、いいトマトだよ!)「ダーイ! チンクエレキーリ ウンエウロ!!」(さあさあ、5キロで1ユーロだ!) そんなトマトを何10キロ、人によっては家族だけでなく親戚一同にも配るため100キロ単位で買いこんで、水煮作業に挑むマンマたち。
スーパーマーケットやキッチン用品店では、水煮にしたトマトを詰める保存瓶や、トマトを潰して濾すための機械なんかがずらりと売られるのも、この時期ならではだ。
いろいろ購入して準備万端整った各家庭のキッチンでは、いよいよ作業開始。一つ一つ洗って水気を切ったトマトを丸ごと湯むきにする人、半割にして種も取り除く人、機械を通してピュレ状にする人など、家庭によって作り方が少しずつ違う。下ごしらえされたトマトは熱湯消毒した保存瓶につめ、蓋を軽く閉めたら湯せんで加熱する。そうすることでトマトにちょっとだけ火が入って水気が凝縮され、おいしさが増す。瓶の中は真空になるから、一年間保存しても品質が劣化しないという具合。
こんなふうに、一年中休みなくイタリア人の食卓を支えるのがトマトの水煮だ。パスタに、リゾットに、そして肉や魚の煮込み、様々なソースの隠し味に、トマトの水煮は活躍する。保存食の王様と最初に書いた所以だ。だけどイタリアには、トマトだけでなく、おいしい野菜の保存食、お総菜がたくさんある。プチピーマンの詰め物に、ピエモンテ風野菜の煮込み、ナスやズッキーニやアーティチョークのオイル漬け、酢漬けなどなどなど。というわけで、次回はトマト以外の野菜の保存食、お惣菜を紹介します。こうご期待。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.20 秋のお楽しみ、フンギ・ポルチーニ

秋のお楽しみ、フンギ・ポルチーニFunghi Porcini,la gioila del’autunno.

トリフォラーティにフライ、リゾット、そして…。Trifolati,fritti,risotti ecc…

イタリアの秋の味覚といえば、なんといってもフンギ・ポルチーニFunghi Porciniだ。フンギはイタリア語でキノコという意味だから、シイタケとかシメジといった種類を指す名前に当たるのがポルチーニ。毎年9月から10月頃、市場やレストランのメニューにこのポルチーニが並ぶ頃になると「今年のはいいわね」とか「今年は雨が少なかったからいつもより遅い」などなど、話題もポルチーニ一色に染まり、おいしい時期を逃してはならんと、みんな買って買って、食べまくるのだ。
ちなみに私の住むピエモンテ州は、同じキノコの仲間の白トリュフで世界的に有名だけれど、あれはフォアグラ、キャビアと並ぶ別格のご馳走。日常の食卓とはあまりにもかけ離れ過ぎている。1キロ4000ユーロ、一人前50ユーロなんていう値段だから、シーズンだからと言ってたっぷりと堪能しまくれるのはリッチな方々だけ。そういえば私がもうちょっと若くてかわいかった頃、白トリュフの取材に行ったら、80歳を超えた白トリュフ協会の会長というおじいさんが、帰りがけ、私の手に小さな白トリュフを握らせ「今度は白トリュフ採りに連れて行ってあげよう」とウィンクした。森のダイヤとも呼ばれる白トリュフを武器に使うとは、さすがイタリア元祖チョイ悪(その頃そんな言葉はなかったけれど)、と感心したものだ。
 一方ポルチーニは、お金持ちも庶民も、グルメも、それほどグルメじゃない人も、イタリア人の誰もが大好きだ。相場は1キロ10ユーロから20ユーロほどで、他の野菜、たとえばニンジンなんかは1キロ2-3ユーロ、に比べたらちょっとした贅沢品だけど、手が出ないと言うほどでもない。
一番人気の食べ方は、やっぱりリゾットか、タリアテッレか。どちらにせよ、ポルチーニを薄くスライスしてオリーヴオイル、またはバターで炒め、仕上げにパセリを散らしたものをベースにした味付け。ちなみに、このポルチーニ炒めだけだと「Trifolatiトリフォラーティ」と言って、これも人気メニューの一つ。肉料理の付け合わせか、前菜として活躍する。
でも私の個人的な好みとしては、フリットが一番おいしいなあ。イタリアの粒の細かいパン粉をつけてカリッと揚げ、レモンをジュッと絞ってハフハフ言いながら齧ると、ポルチーニの香りたっぷりの汁がじゅわ~と口の中に広がって、それはそれはおいしいのだ。書いているだけで涎が出そうになってきた。でもフリットが好きなのは私に限った話ではないらしく、最盛期のレストランやトラットリアのメニューには、セコンドとして「Porcini Frittiポルチーニ・フリッティ」を掲げている店は少なくない。セコンドとして、肉や魚を食べる代わりに山盛りのポルチーニのフライにむしゃぶりつく常連風男性一人客、なんてとても絵になるのである。
 イタリア人たちはポルチーニを食べるのも好きなら、採りに行くのも好きという人が多い。私の夫の親戚にもキノコ採りの名人がいて、季節になると彼は朝5時に起きて森へ入りポルチーニ狩りに勤しむ。そうして採れたてほやほやのポルチーニや、自家製オイル漬けのフンギ類が時々我が家にも届けられる。オイル漬けはフンギ専門店で買ったりするとなかなか高価で、クリスマスなどの贈答品に使われることも多い。それをクリスマスや新年のお祝いディナーに前菜として食べたりするのだが、生のものとは違うシコシコとした味わいはオイル漬けならではの別のおいしさがある。
こんなふうにおいしいポルチーニ料理を羅列して行ったら果てがないけれど、最後に一つだけ、どうしても言いたい一品がある。それは「トラットリア・イ・ボローニャ」で食べた「ポルチーニの笠と卵のオーブン焼き」だ。軸をはずした大きめのポルチーニの笠を軽くソテーしたら、軸をとったくぼみに卵黄をそっとのせ、オーブンで焼いたものだ。食べるときに半生の卵を崩し、流れ出した卵をポルチーニにからめながら食べる。あのおいしさは、本当に私の口の中の記憶中枢に焼きついてなくなることがない。この料理は「イ・ボローニャ」にほれ込んで15年働き続けている小林清一シェフが、ずいぶん前に作ってくれたものだ。ピエモンテ州はアスティ郊外のこの名店へ行こうと考えている人は、ポルチーニの季節を狙ってみてはいかが? 


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.19 イタリア人とピッツァ

イタリア人とピッツァGli italiani e loro pizze

イタリア式ピッツァの食べ方Come si mangia la pizza in Italia

7月中旬から8月のイタリアは、バカンス大本番中。長く(最低でも2週間ほど)留守にする前に一度みんなで会っておこうよ、と友人、親戚、職場の同僚たちがこぞって街に繰り出す。こんなご時世ということもあり、高くて肩のこるレストランよりも、お手軽な食事処が大人気。イタリアのお手軽食事の代表といえば、そう、ピッツァだ。
ピッツァはご存じの通り、南イタリアはナポリの発祥と言われているけれど、実は今日本で流行しているふちがモチモチと膨らんだナポリ風のピッツァばかりがイタリアのピッツァではないのだ。全国各地に、その土地風のピッツァがあって、たとえば10年ほど前まで日本で主流だった薄くてパリパリのピッツァはローマ風のピッツァ。もっと昔の日本にあったパンピザのようにフカフカのピッツァは、リグーリア地方のフォカッチャ・ロッサだ。どこかのコックさんが、そういった土地土地で修業をして、出会ったピッツァを「本場イタリアのピッツァだよ」と持ち帰り、再現し、日本中に広まったんだろう。ちなみにナポリから遠く離れたトリノでも、本物のナポリ風ピッツァが流行し始めたのはほんの15年前程度だそうだから、イタリアの情報伝達スピードがいかにのろいのか、はたまた日本のそれが恐ろしく早いのか。
そんなわけで、最近の日本では、イタリアと遜色のない美味しいピッツァが食べられる。イタリアで修業をした日本人のピザ職人たちが、本場に負けない仕事をしてくれる。しかし、日本とイタリアで、ピッツァを食べるときの決定的な違いがある。それはなにか?
イタリア人たちは、あの大きなピッツァを、各自が一人一枚注文し、一人で抱えて食べる。これが、何人かでいろいろな種類を取ってワケワケする日本人との、大きな違いである。
「そうね、ヨーロッパの人たちはテーブルマナーにうるさいから、シェアをするのは行儀の悪いことなのよねー」などとうなずいている、そこのあなた。チッチッチ、それは、ちょっと違うんだなあー。
私の見る限り、食事中にテーブルを立たないとか、くちゃくちゃ音をさせないなど、最低限のことを守ったら、あまりうるさいことは言わないのがイタリア人だ。しかもカジュアルなピッツェリアで、シェアをするのは行儀が悪いだなんて、気取る必要もあまりない。
じゃあ、なぜ彼らがシェアするのを嫌がるのかといえば「自分の食べたい味を思いっきり堪能したいから」なのだと思う。これはB型という血液を持ち、イタリアで16年も平気で暮らせている私が言うのだから、かなり信憑性があると思う。だってB型人間はあるものが気にいったら、ずっと同じものを食べ続ける凝り性なところがあるからだ。少なくとも私と、そして全員B型の私の家族はみんな同じ性癖を持っている。で、イタリア人の多くはB型。そう考えると、彼らが一年に330日ぐらいトマトソース味のパスタやリゾットを食べ続け、ティラミスがおいしいとなったら、何十年でもずっと人気ドルチェの王座に輝き続けられる、その説明がつくではないか。だからピッツァも、「今夜はマルゲリータが食べたい」と思ったら、他の味は受け付けず、マルゲリータだけを堪能したい、そう考えるのがイタリア人なのだ。
というわけで、イタリアファンとして、本当にイタリアっぽくふるまうのなら、「ボナセーラ」の発音を磨いた後は、胃を拡張させ、ピッツァ一枚を食べきる消化力を身につける必要がありそう、かな?


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.18 フルーツの季節がやってきた!

フルーツの季節がやってきた!Arriva il momento della frutta!

様々なフルーツの様々な食べ方Tanta frutta in tanti modi

初夏から秋にかけては、おいしい果物が満載のイタリア。イチゴにチェリー、桃、あんず、スモモにぶどう、イチジク、メロン、スイカ等など、あんまりおいしくて、ご飯なんか食べている場合じゃない! というほどだ。
中でも筆頭に私があげたいのは桃。特に日本ではあまりお目にかかることのない黄桃Pesca Giallaは、噛めばプリプリ、口の中に溢れるジューシーな味と甘い香りで、一度食べたら忘れられないおいしさ。
なにを隠そう、私はこの黄桃がまた食べたいばかりに、黄桃のシーズンが終わるとあともう一年、もう一年とイタリア暮らしを延ばしに延ばし、ついには16年も居ついてしまったほどなのである。黄桃のバリエーションで、歯ごたえのカリカリッとしたネクタリンや、アンズと黄桃をかけあわせたペルコーカもおすすめ。
次に私が好きなのは、と個人的な意見にばかり走って申し訳ないけれど、あまりのおいしさに思い出すだけでも興奮してしまい、冷静で客観的な文章が書けないのだ。で、二番目に私があげたい果物は、イチジク。まず6月後半ごろから、日本では見かけることの少ない黄緑色のイチジクが出回り始める。外側は薄い黄緑色で、中は白く、中心部(花の部分)がピンク色と言う、それはそれは美しいお姿。それから少し遅れて、今度は日本でもポピュラーな黒イチジクが登場する。
黄緑色のイチジクは、味に当たりはずれもけっこうあるが、当たりに出会った日には、その甘く、香り高く、そしてとろける様な味わいは、得も言われぬおいしさだ。もう一個、またもう一個と中毒状態におちいってしまう。一方黒い方ははずれも少なく、安定したおいしさ、といったところ。
他にもおいしい果物は山積みだが、さて、これらの果物をイタリア人は生で食べるのはもちろん、お菓子に多用する。筆頭に挙げた黄桃は、ピエモンテの代表的なデザートの一つ「ペスカ・リピエーナ」=詰め物入り桃のオーブン焼きに欠かせない。桃を半分に割り、種を取ったくぼみの部分に、アマレット(アーモンドビスケットの一種)を砕き、卵やチョコレートと混ぜ合わせた詰め物を入れて、オーブンで焼いたものだ。桃の香りと甘み、チョコレートの苦み、杏仁豆腐のような風味が混ざり合って、不思議なおいしさ。ひんやりと冷たく冷やしていただきます。桃はその他、前回のケーキの話で書いた「クロスタータ」と呼ばれるフルーツトルタやマチェドニアなどにも活躍する。
イチジクは、ナッツや黒砂糖と一緒にオーブンで焼いたり、クラフティやトルタと、どんなお菓子にしてもおいしい。そうそう、シェフをしている私の夫は、黒イチジクをバターとブランデーでソテーして、生ハムと一緒に食べる前菜を作ってくれる。甘く薫り高いイチジクと生ハムの塩味、とろけるような食感が生むハーモニーは、絶品。日本でもぜひお試しください。
さてお菓子の他に、フルーツの食べ方で忘れてならないのはドライフルーツ、そしてフルーツのシロップ漬けだ。どちらも夏の旬まっさかりのものを干したり、シロップに漬け込んだりして、冬、特にクリスマスのご馳走として食べる保存食の代表格。だからちょっと前までのイタリアマンマは、春先から秋まで、いつも忙しかった。それぞれの野菜や果物が、それぞれの旬を迎える度に、保存食に仕込まなければならなかったからだ。「かった」、と私が過去形で書いているのは、最近のマンマたちは、あまりそういうものを作らなくなっているからだ。とにかく私が「マンマ・ドゥエ」と呼んでいる、私のイタリアのお母さんは、シロップ漬けをこんな風に作る。無農薬で育てた果物をよく洗って水けをふきとったら、たとえば桃など大柄の果物なら半割に、チェリーやプルーンならまるごと、煮沸消毒した保存瓶に詰め込む。家族みんなで食べるから、大きな大きな保存瓶だ。果物をぎっしりと詰めたら、砂糖と水1対1の割合で作ったシロップを瓶の7分目程度まで満たす。これを熱湯で30分から1時間湯せんで加熱する。こうすると、果物の歯ごたえを残す程度に火が通り、しかも瓶の中は真空状態になるので、長期保存が可能になるという具合。
クリスマスディナーの時にこれを開けていただく感動は、イタリア暮らしが16年になった今もちっとも薄れない。フレッシュな果物とはまた一味違うおいしさが、クリスマスの楽しさを盛り上げてくれる。
一方、多くの家庭ではクリスマスにはドライフルーツをいただく。今年の豊穣を感謝し、冬に備えて濃縮されたビタミンやミネラルをタップリ取ろうという意味があるという。ただしリンゴだけはクリスマスの日はタブー。アダムとイブの罪を思い起こさせるからだそうだ。









文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住