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Vol.22 保存食の季節 ②

保存食の季節 ②La stagione della conserva 2

オイル漬けの野菜たちVari Verdure  Sott’olio

イタリアは地味が豊かで、気候や地形がバラエティーに富んでいるから、野菜などの農作物も、各地それぞれに個性的でおいしいものがある。そのおいしさを旬が過ぎた後にも味わいたい、農作物のバラエティーが寂しくなる冬の間も食卓を豊かにしたい、そんな思いから生まれるのが野菜の保存食だ。
ほとんどの野菜は茹でて、焼いて、または生のまま、オイルや酢に浸けて保存するというスタイルが基本。そんな中で今回ご紹介するのは、他とはちょっと毛色の違う品々。味の方も飛びぬけておいしい、と私の独断と偏見で選んだ「イタリア一おいしい」野菜の保存食たちだ。
その一番バッターは、なんといっても「プチピーマンのアンチョビとケッパー詰め オイル漬け」。一見プチトマトに見える小さな赤いピーマンが、8月後半から9月にかけて市場に出回る。そのピーマンのヘタを取り、種をくり抜いたら、酢を混ぜた水に数時間浸けておく。酢を混ぜた水で煮る、というレシピもあるようだが、私が教わった方法は浸けるだけのやりかたで、このほうがシャキシャキとした歯ごたえが残るから、日本人の好みにあうと思う。
漬かったピーマンを酢液から出したら水気をよく切り、中にアンチョビとケッパーを詰める。アンチョビはできれば塩漬けのアンチョビを洗って、手開きしたもの。油焼けしていない生のような食感と、発酵食品のうまみが塩辛みたいにおいしいアンチョビだ。そしてケッパーも酢漬けではなく、塩漬けをさっと洗ったものを使う。野菜をオイルに漬けるだけといったシンプルな調理だからこそ、材料の良しあしで、できあがりの味が大きく変わってくるのだ。
これを熱湯消毒した保存瓶に並び入れ、ピーマン全部にかぶるまでオリーヴオイルを注ぎ入れる。オリーヴオイルもできればエキストラヴァージンがいいのだけれど、かなりたっぷり必要だから、高くついてしまうのが欠点だ。
高くつくし、手間はかかるけど、これほどワインとパンが進むおつまみもなかなかないだろうと、私はいろいろな人に胸を張ってお勧めしている。酸味のある料理はワインとの組み合わせは難しいとソムリエの先生は言うけれど、あまり難しいことは考えず、おいしいのでよしとする。もともとは南イタリアから北イタリアへ、出稼ぎの人と共にやってきたというプチピーマンは、基本的に辛味はないのだけれど、時々辛いのに当たることがある。そんな時、辛いもの好きの日本人としては当たりくじを引いたようで、ちょっと嬉しくもあったりする楽しい一品だ。
私のお勧め野菜の保存食二番目は、ピエモンテ名物アンティパストのレギュラーでもある、その名も「アンティパスト」。ニンジン、たまねぎ、セロリ、カラーピーマン、インゲンなどをトマトでグツグツ煮込んで、酢と砂糖で味つけしたものを作る。ここまでだとラタトゥイユの庶民派バージョンみたいな感じなのだが、これを保存瓶に入れておき、食べる時にはここへツナを加えて食べるのだ。言ってみれば、山の保存食と海の保存食を持ち寄って、一緒にしてみたらおいしかったというような、そんな一品。ちなみに現代でこそツナ缶は大量生産品がどこにでも出回っているけれど、海のないトリノやミラノでは、かつて海辺の町と物々交換して得ていた貴重品であった。だから秋の豊穣と、遠くからやってきた海の珍味を混ぜてテーブルに並べれば、またとないクリスマスのご馳走になったに違いない。
イタリア人にとって、マツタケみたいな存在のフンギポルチーニのオイル漬けも、格別なご馳走だ。プリプリ、かつコリコリした歯触りと、独特なキノコの香りは生の時とは別物の味わいがある。それから冬のシーズンが終わって春先にだけ出回る小さなカルチョッフィ(アーティチョーク)も私の大のお気に入り。カルチョッフィを掃除してから半割りにし、塩酢水でさっと茹でたのち、オイルに漬け込む。朝掘りの筍のように柔らかく、風味も高く、もう食べても食べても食べ飽きないおいしさだ。
当然、といっては語弊があるかもしれないが、手作りしたものは断然おいしい。だからおいしい野菜の保存食を食べたいと思うなら、季節ごとに野菜を大量に買い込み、仕込み、保存するという仕事が待っている。それはそれは手間がかかって忙しくて、仕事をしている場合じゃなくなるのだが、仕事をしないと材料も買えなくなるというジレンマに陥る。くいしん坊を極めるのも、なかなか大変なのである。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.21 保存食の季節 ①

保存食の季節 ①La stagione della conserva1

トマト万歳!Viva! Pomodori

イタリアで一番おいしいものの一つに保存食があると私は思っている。フルーツが旬真っ盛りの時期に収穫して、シロップ漬けやドライフルーツを作るという話はVol.18 フルーツの季節がやってきた! ですでに書いたとおり。で、今回の主役は野菜の保存食。豊穣の秋である今、9月~10月にかけて保存食作りのピークを迎えるからだ。
イタリア野菜の保存食、その王様的存在はなんといってもトマトの水煮だ。
トマトの水煮というと、日本人には缶詰めの印象が強い。缶詰め=生に比べて質が劣るとか、手抜きとかというイメージを持つ人も多いのではないだろうか? 私がトリノの自宅で毎月開催している、在住日本人の奥様向け料理教室でも、料理に水煮の缶詰を使うと「え? 先生でもそんなものを使うんですか?」なんて質問されることがある。
でもそれは大きな勘違い。トマトソースを筆頭に、トマトが活躍する多くのイタリア料理に水煮は欠かせないのだ。生のトマトでは出てこないのは、水煮ならではの甘みや旨味があるからだ。もちろん生のトマトの味が最高潮に達する時期、8月の終わりから9月頃なら、生のトマトで料理するにこしたことはないのかもしれない。でもそれは一年のほんの短い期間だ。サン・マルツァーノなど、加熱料理に適した細長い品種のトマトが南イタリアの真夏の太陽をたっぷりと浴びて最高潮に熟し、たくさん出回るのは、ほんの一時期だけなのだ。
だからその最高潮に熟したトマトを水煮にして保存瓶に密閉し、保存する。そうすれば一年中おいしいトマト料理が作れるというわけだ。で、家庭で手作りできない人のために、水煮の缶詰がある。瓶詰めになったものもある。缶詰めや冷凍食品やインスタント食品という分野では日本に比べて10歩も100歩も遅れているイタリアだけど、ことトマトの水煮だけは別。なんたって一年間に一人平均50キロもトマトを消費する国の人たちだ。市販のものだっておいしくなければやっていけない。大型のスーパーマーケットなどでは、棚一列全部トマトの水煮製品がずらり、というのが当たり前だ。
けれど昔ながらの手作りを愛するイタリアマンマは、自作にこだわる。保存料や添加物の心配はもちろんだけど、代々その家に伝わるレシピで仕込んだトマトの水煮を、一年間家族に安定供給するためのお母さんたちの奮闘月間、それが9月なのである。
まずは市場へ毎日出かけて行っては、できるだけ質がよく、できるだけ安いトマトを探して歩く。市場でもそういう事情を知っているから、南イタリアのおいしいトマトをたっぷり仕入れて、この時期の需要に備える。山積みにされた木箱入りのトマトの間をお母さんたちが練り歩き、その背中をナポリとかプーリアなまりの声がおいかける。「ポモドーリ・ベッリー!」(おいしい、いいトマトだよ!)「ダーイ! チンクエレキーリ ウンエウロ!!」(さあさあ、5キロで1ユーロだ!) そんなトマトを何10キロ、人によっては家族だけでなく親戚一同にも配るため100キロ単位で買いこんで、水煮作業に挑むマンマたち。
スーパーマーケットやキッチン用品店では、水煮にしたトマトを詰める保存瓶や、トマトを潰して濾すための機械なんかがずらりと売られるのも、この時期ならではだ。
いろいろ購入して準備万端整った各家庭のキッチンでは、いよいよ作業開始。一つ一つ洗って水気を切ったトマトを丸ごと湯むきにする人、半割にして種も取り除く人、機械を通してピュレ状にする人など、家庭によって作り方が少しずつ違う。下ごしらえされたトマトは熱湯消毒した保存瓶につめ、蓋を軽く閉めたら湯せんで加熱する。そうすることでトマトにちょっとだけ火が入って水気が凝縮され、おいしさが増す。瓶の中は真空になるから、一年間保存しても品質が劣化しないという具合。
こんなふうに、一年中休みなくイタリア人の食卓を支えるのがトマトの水煮だ。パスタに、リゾットに、そして肉や魚の煮込み、様々なソースの隠し味に、トマトの水煮は活躍する。保存食の王様と最初に書いた所以だ。だけどイタリアには、トマトだけでなく、おいしい野菜の保存食、お総菜がたくさんある。プチピーマンの詰め物に、ピエモンテ風野菜の煮込み、ナスやズッキーニやアーティチョークのオイル漬け、酢漬けなどなどなど。というわけで、次回はトマト以外の野菜の保存食、お惣菜を紹介します。こうご期待。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.20 秋のお楽しみ、フンギ・ポルチーニ

秋のお楽しみ、フンギ・ポルチーニFunghi Porcini,la gioila del’autunno.

トリフォラーティにフライ、リゾット、そして…。Trifolati,fritti,risotti ecc…

イタリアの秋の味覚といえば、なんといってもフンギ・ポルチーニFunghi Porciniだ。フンギはイタリア語でキノコという意味だから、シイタケとかシメジといった種類を指す名前に当たるのがポルチーニ。毎年9月から10月頃、市場やレストランのメニューにこのポルチーニが並ぶ頃になると「今年のはいいわね」とか「今年は雨が少なかったからいつもより遅い」などなど、話題もポルチーニ一色に染まり、おいしい時期を逃してはならんと、みんな買って買って、食べまくるのだ。
ちなみに私の住むピエモンテ州は、同じキノコの仲間の白トリュフで世界的に有名だけれど、あれはフォアグラ、キャビアと並ぶ別格のご馳走。日常の食卓とはあまりにもかけ離れ過ぎている。1キロ4000ユーロ、一人前50ユーロなんていう値段だから、シーズンだからと言ってたっぷりと堪能しまくれるのはリッチな方々だけ。そういえば私がもうちょっと若くてかわいかった頃、白トリュフの取材に行ったら、80歳を超えた白トリュフ協会の会長というおじいさんが、帰りがけ、私の手に小さな白トリュフを握らせ「今度は白トリュフ採りに連れて行ってあげよう」とウィンクした。森のダイヤとも呼ばれる白トリュフを武器に使うとは、さすがイタリア元祖チョイ悪(その頃そんな言葉はなかったけれど)、と感心したものだ。
 一方ポルチーニは、お金持ちも庶民も、グルメも、それほどグルメじゃない人も、イタリア人の誰もが大好きだ。相場は1キロ10ユーロから20ユーロほどで、他の野菜、たとえばニンジンなんかは1キロ2-3ユーロ、に比べたらちょっとした贅沢品だけど、手が出ないと言うほどでもない。
一番人気の食べ方は、やっぱりリゾットか、タリアテッレか。どちらにせよ、ポルチーニを薄くスライスしてオリーヴオイル、またはバターで炒め、仕上げにパセリを散らしたものをベースにした味付け。ちなみに、このポルチーニ炒めだけだと「Trifolatiトリフォラーティ」と言って、これも人気メニューの一つ。肉料理の付け合わせか、前菜として活躍する。
でも私の個人的な好みとしては、フリットが一番おいしいなあ。イタリアの粒の細かいパン粉をつけてカリッと揚げ、レモンをジュッと絞ってハフハフ言いながら齧ると、ポルチーニの香りたっぷりの汁がじゅわ~と口の中に広がって、それはそれはおいしいのだ。書いているだけで涎が出そうになってきた。でもフリットが好きなのは私に限った話ではないらしく、最盛期のレストランやトラットリアのメニューには、セコンドとして「Porcini Frittiポルチーニ・フリッティ」を掲げている店は少なくない。セコンドとして、肉や魚を食べる代わりに山盛りのポルチーニのフライにむしゃぶりつく常連風男性一人客、なんてとても絵になるのである。
 イタリア人たちはポルチーニを食べるのも好きなら、採りに行くのも好きという人が多い。私の夫の親戚にもキノコ採りの名人がいて、季節になると彼は朝5時に起きて森へ入りポルチーニ狩りに勤しむ。そうして採れたてほやほやのポルチーニや、自家製オイル漬けのフンギ類が時々我が家にも届けられる。オイル漬けはフンギ専門店で買ったりするとなかなか高価で、クリスマスなどの贈答品に使われることも多い。それをクリスマスや新年のお祝いディナーに前菜として食べたりするのだが、生のものとは違うシコシコとした味わいはオイル漬けならではの別のおいしさがある。
こんなふうにおいしいポルチーニ料理を羅列して行ったら果てがないけれど、最後に一つだけ、どうしても言いたい一品がある。それは「トラットリア・イ・ボローニャ」で食べた「ポルチーニの笠と卵のオーブン焼き」だ。軸をはずした大きめのポルチーニの笠を軽くソテーしたら、軸をとったくぼみに卵黄をそっとのせ、オーブンで焼いたものだ。食べるときに半生の卵を崩し、流れ出した卵をポルチーニにからめながら食べる。あのおいしさは、本当に私の口の中の記憶中枢に焼きついてなくなることがない。この料理は「イ・ボローニャ」にほれ込んで15年働き続けている小林清一シェフが、ずいぶん前に作ってくれたものだ。ピエモンテ州はアスティ郊外のこの名店へ行こうと考えている人は、ポルチーニの季節を狙ってみてはいかが? 


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.19 イタリア人とピッツァ

イタリア人とピッツァGli italiani e loro pizze

イタリア式ピッツァの食べ方Come si mangia la pizza in Italia

7月中旬から8月のイタリアは、バカンス大本番中。長く(最低でも2週間ほど)留守にする前に一度みんなで会っておこうよ、と友人、親戚、職場の同僚たちがこぞって街に繰り出す。こんなご時世ということもあり、高くて肩のこるレストランよりも、お手軽な食事処が大人気。イタリアのお手軽食事の代表といえば、そう、ピッツァだ。
ピッツァはご存じの通り、南イタリアはナポリの発祥と言われているけれど、実は今日本で流行しているふちがモチモチと膨らんだナポリ風のピッツァばかりがイタリアのピッツァではないのだ。全国各地に、その土地風のピッツァがあって、たとえば10年ほど前まで日本で主流だった薄くてパリパリのピッツァはローマ風のピッツァ。もっと昔の日本にあったパンピザのようにフカフカのピッツァは、リグーリア地方のフォカッチャ・ロッサだ。どこかのコックさんが、そういった土地土地で修業をして、出会ったピッツァを「本場イタリアのピッツァだよ」と持ち帰り、再現し、日本中に広まったんだろう。ちなみにナポリから遠く離れたトリノでも、本物のナポリ風ピッツァが流行し始めたのはほんの15年前程度だそうだから、イタリアの情報伝達スピードがいかにのろいのか、はたまた日本のそれが恐ろしく早いのか。
そんなわけで、最近の日本では、イタリアと遜色のない美味しいピッツァが食べられる。イタリアで修業をした日本人のピザ職人たちが、本場に負けない仕事をしてくれる。しかし、日本とイタリアで、ピッツァを食べるときの決定的な違いがある。それはなにか?
イタリア人たちは、あの大きなピッツァを、各自が一人一枚注文し、一人で抱えて食べる。これが、何人かでいろいろな種類を取ってワケワケする日本人との、大きな違いである。
「そうね、ヨーロッパの人たちはテーブルマナーにうるさいから、シェアをするのは行儀の悪いことなのよねー」などとうなずいている、そこのあなた。チッチッチ、それは、ちょっと違うんだなあー。
私の見る限り、食事中にテーブルを立たないとか、くちゃくちゃ音をさせないなど、最低限のことを守ったら、あまりうるさいことは言わないのがイタリア人だ。しかもカジュアルなピッツェリアで、シェアをするのは行儀が悪いだなんて、気取る必要もあまりない。
じゃあ、なぜ彼らがシェアするのを嫌がるのかといえば「自分の食べたい味を思いっきり堪能したいから」なのだと思う。これはB型という血液を持ち、イタリアで16年も平気で暮らせている私が言うのだから、かなり信憑性があると思う。だってB型人間はあるものが気にいったら、ずっと同じものを食べ続ける凝り性なところがあるからだ。少なくとも私と、そして全員B型の私の家族はみんな同じ性癖を持っている。で、イタリア人の多くはB型。そう考えると、彼らが一年に330日ぐらいトマトソース味のパスタやリゾットを食べ続け、ティラミスがおいしいとなったら、何十年でもずっと人気ドルチェの王座に輝き続けられる、その説明がつくではないか。だからピッツァも、「今夜はマルゲリータが食べたい」と思ったら、他の味は受け付けず、マルゲリータだけを堪能したい、そう考えるのがイタリア人なのだ。
というわけで、イタリアファンとして、本当にイタリアっぽくふるまうのなら、「ボナセーラ」の発音を磨いた後は、胃を拡張させ、ピッツァ一枚を食べきる消化力を身につける必要がありそう、かな?


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.18 フルーツの季節がやってきた!

フルーツの季節がやってきた!Arriva il momento della frutta!

様々なフルーツの様々な食べ方Tanta frutta in tanti modi

初夏から秋にかけては、おいしい果物が満載のイタリア。イチゴにチェリー、桃、あんず、スモモにぶどう、イチジク、メロン、スイカ等など、あんまりおいしくて、ご飯なんか食べている場合じゃない! というほどだ。
中でも筆頭に私があげたいのは桃。特に日本ではあまりお目にかかることのない黄桃Pesca Giallaは、噛めばプリプリ、口の中に溢れるジューシーな味と甘い香りで、一度食べたら忘れられないおいしさ。
なにを隠そう、私はこの黄桃がまた食べたいばかりに、黄桃のシーズンが終わるとあともう一年、もう一年とイタリア暮らしを延ばしに延ばし、ついには16年も居ついてしまったほどなのである。黄桃のバリエーションで、歯ごたえのカリカリッとしたネクタリンや、アンズと黄桃をかけあわせたペルコーカもおすすめ。
次に私が好きなのは、と個人的な意見にばかり走って申し訳ないけれど、あまりのおいしさに思い出すだけでも興奮してしまい、冷静で客観的な文章が書けないのだ。で、二番目に私があげたい果物は、イチジク。まず6月後半ごろから、日本では見かけることの少ない黄緑色のイチジクが出回り始める。外側は薄い黄緑色で、中は白く、中心部(花の部分)がピンク色と言う、それはそれは美しいお姿。それから少し遅れて、今度は日本でもポピュラーな黒イチジクが登場する。
黄緑色のイチジクは、味に当たりはずれもけっこうあるが、当たりに出会った日には、その甘く、香り高く、そしてとろける様な味わいは、得も言われぬおいしさだ。もう一個、またもう一個と中毒状態におちいってしまう。一方黒い方ははずれも少なく、安定したおいしさ、といったところ。
他にもおいしい果物は山積みだが、さて、これらの果物をイタリア人は生で食べるのはもちろん、お菓子に多用する。筆頭に挙げた黄桃は、ピエモンテの代表的なデザートの一つ「ペスカ・リピエーナ」=詰め物入り桃のオーブン焼きに欠かせない。桃を半分に割り、種を取ったくぼみの部分に、アマレット(アーモンドビスケットの一種)を砕き、卵やチョコレートと混ぜ合わせた詰め物を入れて、オーブンで焼いたものだ。桃の香りと甘み、チョコレートの苦み、杏仁豆腐のような風味が混ざり合って、不思議なおいしさ。ひんやりと冷たく冷やしていただきます。桃はその他、前回のケーキの話で書いた「クロスタータ」と呼ばれるフルーツトルタやマチェドニアなどにも活躍する。
イチジクは、ナッツや黒砂糖と一緒にオーブンで焼いたり、クラフティやトルタと、どんなお菓子にしてもおいしい。そうそう、シェフをしている私の夫は、黒イチジクをバターとブランデーでソテーして、生ハムと一緒に食べる前菜を作ってくれる。甘く薫り高いイチジクと生ハムの塩味、とろけるような食感が生むハーモニーは、絶品。日本でもぜひお試しください。
さてお菓子の他に、フルーツの食べ方で忘れてならないのはドライフルーツ、そしてフルーツのシロップ漬けだ。どちらも夏の旬まっさかりのものを干したり、シロップに漬け込んだりして、冬、特にクリスマスのご馳走として食べる保存食の代表格。だからちょっと前までのイタリアマンマは、春先から秋まで、いつも忙しかった。それぞれの野菜や果物が、それぞれの旬を迎える度に、保存食に仕込まなければならなかったからだ。「かった」、と私が過去形で書いているのは、最近のマンマたちは、あまりそういうものを作らなくなっているからだ。とにかく私が「マンマ・ドゥエ」と呼んでいる、私のイタリアのお母さんは、シロップ漬けをこんな風に作る。無農薬で育てた果物をよく洗って水けをふきとったら、たとえば桃など大柄の果物なら半割に、チェリーやプルーンならまるごと、煮沸消毒した保存瓶に詰め込む。家族みんなで食べるから、大きな大きな保存瓶だ。果物をぎっしりと詰めたら、砂糖と水1対1の割合で作ったシロップを瓶の7分目程度まで満たす。これを熱湯で30分から1時間湯せんで加熱する。こうすると、果物の歯ごたえを残す程度に火が通り、しかも瓶の中は真空状態になるので、長期保存が可能になるという具合。
クリスマスディナーの時にこれを開けていただく感動は、イタリア暮らしが16年になった今もちっとも薄れない。フレッシュな果物とはまた一味違うおいしさが、クリスマスの楽しさを盛り上げてくれる。
一方、多くの家庭ではクリスマスにはドライフルーツをいただく。今年の豊穣を感謝し、冬に備えて濃縮されたビタミンやミネラルをタップリ取ろうという意味があるという。ただしリンゴだけはクリスマスの日はタブー。アダムとイブの罪を思い起こさせるからだそうだ。









文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.17 イタリア ケーキ事情

イタリア ケーキ事情Circostanza Torta

自家製ケーキが一番!La torta fatta in casa e’ la piu’ buona!

イタリアのクリスマスは、パネットーネやパンドーロといった発酵生地のケーキで祝うことは、もはや日本のイタリア菓子ファンなら誰でも知っている常識。でも、誕生日や結婚式、様々なお祝いは、どんなケーキで祝うのかは意外と知られていない。今回はそんな疑問にお答えする、イタリアのケーキ事情にまつわるお話。 
イタリア人が大好きで、晴れの日に食べるケーキのナンバー1は、フルーツがたっぷりのった「トルタ・ディ・フルッタ」とか「クロスタータ・ディ・フルッタ」と呼ばれるケーキだと思う。イタリアで「パスタ・フロッラ」と呼ばれるトルタ生地を型に敷きつめて焼いた中に、カスタードクリームをたっぷり詰め、様々なフルーツを上にのせたものだ。クロスタータと呼ばれる場合は、生のフルーツではなくて、フルーツジャムをトルタ生地に詰めただけの場合も多い。とにかく、何の変哲もないフルーツタルトなのだが、新しいもの、珍しいものを次々と追いかける日本人と違い、イタリア人は昔から知っている馴染みの味が大好き。知らない味に挑戦するぐらいなら、毎日同じものを食べているほうがいい、と思うイタリア人はことのほか多い、はずだ。その証拠に、彼らは毎日毎日、一年に300日ぐらいはトマトソースのパスタを食べている。だからトルタ生地も、カスタードクリームも、そしてフルーツも、素朴でおいしくて、しかも「いつもの味」というところがポイントなのである。しかも見た目にはカラフルで美しいから、フェスタ(パーティー、お祭り)のあるところ、トルタ・ディ・フルッタあり、という感じで目にすることがとても多い。誕生日に限らず、結婚式も、開店祝いのパーティーでも、本当に頻繁に登場する。
もちろん、スポンジケーキを重ねて生クリームでデコレーションしたケーキが登場するパーティーもあるにはあるのだが、飾り付けも味も、今一つ洗練されていないものが多い。スポンジはパサパサで、それを補うためにリキュールをたっぷり過ぎるほどきかせたシロップがびしゃびしゃに浸してあり、そこに甘すぎる生クリームがどっかりとのっている。そんな感じだから、当のイタリア人たちもその手のケーキを「あんまり好きじゃない」という人が多い。フランス語でスポンジケーキのことを「パン・ディ・ジェノワーズ」、つまりジェノヴァのパンと呼ぶのにもかかわらず、スポンジケーキはイタリアではお菓子界のメイン街道を歩いていない、だからスポンジを作る技術もレシピも、今一つ研究されていないんだなあ、という印象を受けるのは、私だけではないはずだ。
だから日本人が大好きなイチゴのショートケーキはイタリアでは見かけないし、VIPやセレブの結婚式でもない限り、タワーのようなウエディングケーキや、かわいいクロッカンブッシュなどもない。
一方、普段のおやつに食べるなら、卵と粉、砂糖とバターの生地に、たっぷりのリンゴを混ぜ込んで焼いた「トルタ・ディ・メーラ」。ふわふわと軽くて、リンゴから出た汁気がしっとりして、地味だけれどあとひくおいしさ。軽いので朝ご飯にも食べたり。それからピエモンテの人が大好きなのは、ヘーゼルナッツの粉で作る「トルタ・ディ・ノッチョーラ」。みかけはただ茶色いだけのケーキなのだが、ノッチョーラ=ヘーゼルナッツの香りが口の中に充満し、手作りっぽいもそもそした感じが、ほのぼとする。チョコレートが大好きなトリノの人たちは、ここでもチョコレートを取りだす。ドロドロに溶かしたブラックチョコレートをこのケーキにこれでもか! というほどかけて食べるのは、トリノの老舗カフェ「アル・ビチェリン」のおやつの名品だ。
イタリア料理の最大の特徴は、基本が家庭料理であり、素材を最大限に生かしてあまり手を加えないことだ。だからプロの仕事と家庭のマンマの料理を隔てる壁は、限りなく低い。プロのお菓子屋さんが作るお菓子も、フランス菓子や日本のケーキに比べて技術的にはとてもシンプルなのは、そういう理由なんじゃないだろうか(もちろん有名パティシェや高級店では、話は別)。だからといって、イタリアのお菓子がおいしさでも劣るかというとまったくそんなことはなく、逆に毎日何度でも食べたくなる魅力があるということは、このページの読者であれば、皆さんご存じのはずですね。









文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.15 日曜日の過ごし方

日曜日の過ごし方Come trascorrere una domenica

お菓子を持って行くわ!Ti porto io i pasticcini!

冬は雪山、夏は海、とヴァカンスするために生きているといっても過言ではないイタリア人ではあるけれど、それでも彼らが一番好きな週末の過ごし方といえば、「友人」または「親戚」同士誰かの家に集まって食事をすること、ではないかと思う。ちょっと前までは家でするのが常識だったクリスマスディナーなんかも外食にする人が増えているとはいえ、気のおけない人たちだけで食べて騒いでくつろげる「おうちごはんが一番」と考えるのは日本人だけではないというわけだ。そうそう、イタリア人という人達はたいてい自分の家の中を驚くほどきれいにしているので、いつお客さんが来たってだいじょーぶ。公共の場所ではあまり気を使わないのだけれど。その点、日本人と正反対なのである。
では、食事に招待された時、イタリア人たちはどうするか。ただ飯はいくら友人同士、親戚同士といってもNG。親しき仲にも礼儀ありと考えるのはイタリア人も同様で、何か手土産を持って行くのが常識。で、イタリアでよく使われる手といえば、
  1. 準備されている食べ物やワインの邪魔をしない、何にでもあいそうな無難なワイン、もしくは文句のつけようのないすごいワインをお土産にする。料理に合わせて主人がワインもそろえている可能性がある場合は、シャンパンやデザートワイン、または食後のリキュールなど、そこまではなかなか手が回りそうもない一本を。
  2. 前菜やおつまみなど、もう一品増えても構わないようなもので、○○のおみやげ、とか××の自家製など話題を提供してくれるような食べ物。
  3. 食後のデザートも終わった後で、だらだらとつまみながら楽しめるお菓子類。お腹には軽く、目に魅惑的なものが喜ばれる。イタリアのレストランでデザートの後、コーヒーと一緒にサービスされる「ピッコラ・パスティッチェリア」Piccola Pasticceria(フランス語でいうプチガトー)に相当するもの。
以上3つの作戦だ。
トリノは、スイーツの都ともいわれるほど、おいしいお菓子屋さんがたくさんある。イタリアを統一したサヴォイア家がトリノを居城としており、王政が廃止されたときに王様のお菓子職人が街に出たことで発達したという。その辺は、ルイ王朝とパリの食の発達と事情が似ていなくもない。
この数あるお菓子屋さんだが、イタリアで唯一といっていいぐらい、日曜日に店を開けている職種である。なぜかというと、そう、日曜日のお昼に食事におよばれした人たちが、お土産用のお菓子を買いにくるからだ。というわけで、イタリアのお菓子屋さんは月曜が休みなことが多い。旅行した時のご参考まで。
 圧倒的に人気なのは「パスティッチーニ」Pasticcini(小さなお菓子たち)といって、プチシューやプチタルトの類、ビスケットやチョコレートボンボンだ。最初に食べる人数を言うと、店の人が「これぐらい?」なんていって、金色にコーティングされた紙のお盆をみせてくれる。あ、そうね、それぐらいで、とか、いえ、もうちょっと小さめで、などと言ってサイズを決めたら、ショーケースの中に並んでいるお菓子たちを指さして注文する。このスタイルはイタリア全国的に同じだと思うけれど、トリノではこのプチシューやプチタルトがことのほか小さく、おいしいので有名だ。
トリノ方言で「ビニョーレ」と呼ばれるこのお菓子たちは、王家のお后やお姫様たちが、お口をお汚しにならないようにと、一口サイズが考案されたのだという。それにしても、サヴォイア家の女性たちはずいぶんお口が小さかったのかな、王宮広場にある老舗『バラッティ・エ・ミラノ』なんかでは一つが親指の先ほども小さい。このサイズで、アルプスでとれるおいしい生クリームが詰まったもの、ピンクや黄色に色づけられたフォンダンでコーティングしてあるもの、フンギポルチーニの形をしてチョコレートクリームが詰めてあるものなど様々なプチシューがあって、目にも舌にも楽しいのである。トリノの老舗お菓子屋さんの多くがカフェも兼ねているから、コーヒーを飲みに入って、思わず「ビニョーレ」も2つ3つ食べてしまった、そんなトリネーゼはとても多い。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住