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Vol.42 南イタリアの夏のご馳走

南イタリアの夏のご馳走

Sfizi del Sud d'Italia

コラトゥーラ・ディ・アリーチのスパゲッティ

Spaghetti alla colatura di alici
今頃のイタリアは一年で一番気持ちよくて楽しい季節。

強烈な夏の太陽がありながら、でもまだ空気には春のフレッシュさが残っていてすっきりさわやか。

一年で一番日が長くなって夜の9時過ぎまで明るいから、テラスで冷えたワインを飲みながらゆっくりとアペリティーヴォを楽しんだり、夜遊びを兼ねて夕食に出かけたり。

ところが今年は異常気象なのか、この原稿を書いている6月某日現在も、雨が続いて肌寒い日が多い。なんでも50年ぶりの寒さ、というか暑くならなさ加減だそうだ。 

やって来ない夏を恋偲ぶせいか、ここのところ毎日のように南イタリアご飯ばかりを食べている。

極上のモッツァレラに熟れ熟れのナポリ産プチトマトとか(真夏の熱い太陽がないとトマトはよく熟れないけれど、プチトマトは比較的一年中おいしい)。

ジャガイモとタコとカッペリのサラダとか。カッペリとはイタリア語のケッパーのことで、シチリアの離島パンテレリアあたりが名産。同名の植物のつぼみを塩漬けにしたものだ。
だから、南イタリア料理と言うとついあちこちにケッパーを入れたくなってしまう私。

そうそう、よく熟れたトマトをたっぷり刻み、ケッパーも刻み、ニンニクと塩とオリーブオイルで調味したら、茹でたて熱々のスパゲッティにあえると、極ウマ夏のパスタ「スパゲッティ・アル・ペスト・パンテスコ」(パンテレリア風ペーストのスパゲッティ)のでき上がりだ。

ちなみにこのパンテレリアという島は、もともとはアフリカだったのだけれど、地殻変動によって陸から離れ、現在はイタリアの領地となっている。

っていうぐらいアフリカに近いので、太陽の強さは半端じゃない。

その太陽が育ててくれるケッパーは極上に美味しくて、イタリアでは塩漬けにして料理に使う。大粒のケッパーはピクルスになってワインのおつまみとしても活躍したり。

さてケッパーがちょっとクセのあるシチリアの旨味だとしたら、日本人にはとても馴染みやすい、だけどこれぞ南イタリア! な味が「コラトゥーラ・ディ・アリーチェ」。

地中海名産の脂肪分の少ないアンチョビ(片口イワシ)を塩漬けにし、そこから上がってくる液体から不純物をとりのぞいたもので、日本の「しょっつる」やタイの「ナムプラー」ベトナムの「ニョクマム」にとてもよく似た調味料の一種だ。

ナポリの東南約40キロ、アマルフィ海岸にある、小さいけれどマグロ漁で有名な漁村チェターラで昔から作られている。


ボウルに刻んだ生のニンニク、パセリ、オリーブオイル、そしてこのコラトゥーラを入れて混ぜておき、そこに茹でたてのスパゲッティをドバッと入れ、ワシワシッとかき混ぜて食べるというのが、伝統的かつ代表的なコラトゥーラの使い方だそうだ。

さすが漁師の町の伝統食材。海の男の料理だ。    

取材でアマルフィ海岸に行き、かの地の超高級ホテル「ホテル・カルーゾ」に泊まるという豪華体験をしたことがあった。

その時、ホテル・カルーゾのレストランで、「なにか地元の、普通じゃない、美味しいものが食べたい」とお願いしたところ、シェフが作ってくれたのがやっぱりコラトゥーラのスパゲッティであった。
ただしこちらはニンニクを低温に温めたオリーブオイルで香りを出しておき、そこへ茹でたてのスパゲッティとコラトゥーラをさっとあわせ、皿に盛ったらチーズの代わりにレモンの皮を目の前ですり下ろしてくれるという、似て非なるものだった。

ニンニクとコラトゥーラの味があわさったソースをしっとりと吸ったスパゲッティはことのほか美味しくて、鮮やかなレモンの色と香りも忘れられない記憶となった。

アマルフィの美しい景色も海の色、そしてコラトゥーラのスパゲッティとレモンの香りを、夏が来るたびに大切に思い出している。

文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.41 イタリアのランチタイム

イタリアのランチタイム

Ora di pranzo alla italiana


お昼寝付きだったら最高!

Pranzo con sonnellino sarebbe massimo!
イタリアのランチタイムの話をしようとすると、驚くほどたくさんの人から 「ああ、2時間も3時間ものんびり、 たっぷり食べるんでしょ? シエスタなんかしてね」と言われることがとても多い。 おいおい、シエスタはスペインの習慣だぜセニョール(セニョールもスペイン語。イタリア語はシニョーレ→男性を指す言葉)と 心の中でちょっと毒づきながら、ただ黙ってにっこり笑う私は、優しい仮面をかぶった嫌な奴。

シエスタとは言わないけれど、イタリアでも確かに昔は(もしかしたら今でも、一部ののんびりした地方あたりでは)、 お昼ご飯を食べたらのんびりお昼寝をしてから午後の仕事にとりかかる(もしくは、これにて本日の営業終了ということも!!) なんてこともあったようだけど、現代のイタリアでは平日にのんびりたっぷり昼ご飯を食べる人なんてほとんどいなくて、 社会人なら1時間前後のお昼休みに、ささっと食べるのが普通。

何をどこで食べるかと言うと、近所のバールでお手軽に済ますというのが圧倒的。

ご存知パニーノからトラメッズィーニ (パニーノは丸い小型や長型のパンを切って何かを挟んだもの。

トラメッズィーニは日本で言うところのサンドイッチ)、 またはトーストとイタリア人たちが呼ぶハムとチーズを挟んだホットサンドをさっと食べるか、インサラトーネ(大きなサラダ。 野菜だけでなくモッツァレラチーズ、ツナ、ゆで卵、オリーブ等が盛りだくさんに入って結構なボリューム)やピアット・カルド (温かい皿。ちゃんと食器に盛られたパスタとか肉、野菜料理をチンしてもらって食べる)などをその日の気分で。 

パニーノと水、コーヒーなら5ユーロ前後、ピアット・カルドを選んでも10ユーロ以内で収まってエコノミーなのだが、 最近は不景気の影響で、「前菜とパスタ、コーヒー付きで7ユーロ!」「一皿料理に飲み物付きで5ユーロ!」なんていう看板もよく見かける。 

競争の激化で値段は下がり、質が向上するのは消費者にとっては嬉しい限りだ。

そうそう、お手軽ランチの代表選手に「切り売りピッツァ」もある。 ピッツェリアでちゃんと食べるピッツァと違い、フォカッチャに近い柔らかい生地にいろいろな具をのせて焼いたものだ。 

切り売りピッツァの専門スタンドがイタリア各地の町のあちこちにあって 、油の染みない紙に包んだピッツァをパクツキながら歩く人をよく見かける。

安くておいしいランチといえば、最近は「ガストロノミア」も大流行中。 

ガストロノミアとはもともとお総菜店という意味で、 お金持ちの奥様のキッチン代わりのような存在。 

ゴージャスでパーティー料理みたいなお惣菜や高級チーズ、ハム類がすごい値段で売られている。 先日も、原稿が立て込んでいて、 夕食作るのめんどくさいなあ、時間ないなあ、と思いながら歩いていたら、美味しそうなお総菜店の前を通りかかった。 

お腹もすいていたので、ついふら~りと足を踏み入れてしまった。

娘と私、二人前ならたかが知れているよねと、 うっかり値段も見ないで買ってしまったらなんと!  50ユーロもかかってしまったのだ。

買ったのはラザニア一人前、 パエリア一人前、人参のサラダ2人前、ケーキ一切れだけ! こんな値段払うんならレストランに行けたよね、 と娘と二人ため息をついたのも後の祭り。

一方、最近流行のガストロノミアはヘルシーな野菜たっぷりの各種サラダやおかず類、玄米や全粒粉を使ったプリモ類、 砂糖や卵を使わないデザート等を売りにしているようなところも多く、しかもその場で食べることができて安い!トリノの中心街にある私のお気に入りの一軒は、一皿に好きなだけ、好きな種類を盛ってもらって6ユーロ!水をつけても7ユーロだ。

「セロリと牛肉とオレンジのサラダ 松の実入り」とか「春の葉野菜入り玄米のリゾット」なんていう具合に、 メニューもヘルシー&おしゃれ(ただし持ち帰りにすると、少し割高になるので要注意!)。

ヘルシー&おしゃれなエコノミー系もお金持ちのキッチン代わり系も、どちらも「ガストロノミア」なので、 まずは外から様子をうかがってみることが大切だ。

ヘルシー&エコノミー系は、大抵イートインスペースがあるのが目印。 

イタリア旅行中の野菜不足解消にもおすすめです。

さて、冒頭で、現代のイタリアではランチの後にのんびりお昼寝なんかする人はいません、と書いたけれど、 それは普通時のことで、これがバカンスとなると事情は全く違ってくる。

休み中でもセカセカと移動したり、 何かアクティビティをしていないと気が済まない日本人と違い、一カ所に長期(一ヶ月とか!)滞在型のバカンスを好むイタリア人たちは、 朝ビーチで泳ぎ、昼に家に戻ってランチ、午睡をたっぷりとってリフレッシュしたら、夕方からまだビーチで遊ぶ、 というような一日の過ごし方をする人が多い。

そんなバカンスをするために一年間頑張って働くというのがイタリア人の人生観。 

だから食べた後はお昼寝したいんだ、というのが本音なんだと思う。

文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.40 イタリアのビスケットたち

イタリアのビスケットたち

Biscotti italiani


見かけは悪いけどおいしいよ

Brutti ma buoni
ピエモンテの名物焼き菓子の一つに「ブルッテイ・マ・ブォーニ」というのがある。

イタリア語で「Brutti ma buoni 見かけは悪いけど、めちゃめちゃおいしいよ」という意味のビスコッティ(ビスケット)だ。

メレンゲ生地にアーモンド、またはヘーゼルナッツを混ぜ込んで鍋で沸騰させたら、スプーンでさっとすくって天板にドカッ、ドカッとのせて焼いたというような風貌。

確かに美しくはないけれど、口に入れるとナッツの香ばしさとメレンゲの甘さが口の中で混ざりあって、ああ、おいしい。

メレンゲ生地を沸騰させちゃうの? と一瞬思うのだが、これがオリジナルな作り方で、2回火を入れることから「ビスコッティ」→ビス=2回、コッティ=加熱した という名前になったというわけだ。 

ちなみにトスカーナにもトスカーナ地元菓子「ブルッテイ・ブォーニ」というのがある。

これはサヴォイア家がイタリアを統一した後、トリノからフィレンツェに遷都した時にサヴォイア家のお菓子職人たちがトスカーナに広めたものだそう。

トスカーナヴァージョンには小麦粉に刻みアーモンド、干しぶどう等が入っているのが特徴で、メレンゲっぽいピエモンテヴァージョンとはずいぶん口当たりが違うけれど、これもまた、とてもおいしい。

考えてみるとイタリアのお菓子は、大なり小なり「ブルッティ・マ・ブォーニ」なものがほとんど。 見かけは無骨でシンプルすぎるぐらいシンプルだけど、もう一個食べたい、またもう一個、と後を引くおいしさと言うか、毎日食べたいおいしさと言うか。

フレンチの、宝石のように美しいお菓子たちに比べると見た目が劣るせいか、日本ではなかなか広まらないようだけど、どうぞ日本のみなさん、イタリアの焼き菓子のおいしさをもっと知ってほしいなあ。

最近私がはまっている「トルチェッティ」は、細長くした生地をクルリとねじって馬蹄型にしたようなビスケットの一種。

イタリアの焼き菓子にしては珍しくバターがたっぷり入っているので、かじるとパリパリと砕けて、ちょっとパイ生地にも似た口当たりがやめられないおいしいさ。

イタリアなのにバターを使うのは、やっぱり発祥がフランスに近いピエモンテだからかな。



昔々、ピエモンテあたりの山間の村では各家庭にはオーブンがなくて、 村に一つ共同のパン焼き窯があったそうな。

パンを焼く順番を待つ間に、誰かが余ったパン生地に砂糖かハチミツをまぶして オーブンの入り口付近にちょこっと入れてみたのが最初という。それがいつ頃からかバターが入るようになった。

そしてサヴォイア家のお妃で、ピッツァに名前を冠されて有名になったマルゲリータ女王の大のお気に入りにまでなったとか。

山間の村のパン焼き窯から生まれたと言えば、「パスタ・ディ・メリガ」も私の大のお気に入りだ。

ピエモンテの農村は昔貧しくて、寒さも厳しかったので小麦粉が穫れず、お菓子はもっぱらそば粉やライ麦、からす麦など、 現代ならヘルシー?と褒められるところだけど、当時としては貧しい限りの材料で作られていた 。

時代が移ってポレンタの時代になり、トウモロコシの粉がたくさん生産されるようになると、 お菓子もトウモロコシの粉で作られるようになった。

その一つがトウモロコシ粉のビスケット「パスタ・ディ・メリガ」だ。 食べるたびに、プツプツとトウモロコシ粉の粒が舌に触ってとても楽しい、おいしいお菓子だ。

最近のイタリアでは、ケーキデザインだなんて言って、カップケーキやマフィン等にやたらと派手な色使いでデコレーションしたり、カラフルなケーキなどが遅ればせながら流行し始めている。

でもそんな見かけにだまされないで、昔ながらの本当においしいお菓子をいつまでも大事にしていくのがイタリア、と私はいつも思っている。

文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.39 トローネってどんなお菓子?

トローネってどんなお菓子?

Il torrone ,che dolce e' ?


トローネのオリジナルとは?

Quale e' l'origine di torrone?

今回はトローネというお菓子について。

高温に煮詰めたハチミツと泡立てた卵白、ナッツ類を混ぜ合わせて固めたお菓子が「トローネ」だ。

日本の人には「ヌガー」と言ったほうがわかりやすいかも。

かなり強烈に甘いものも多いけれど、いろいろなナッツの風味が香ばしくて、カリッと齧れるハードタイプも、食べやすいソフトタイプも、どちらもとてもおいしいお菓子だ。

たとえば古代ローマ時代の歴史家プリニウスという人は、当時のトリノにハチミツとヘーゼルナッツで作られたお菓子が存在したと書いている、とか。

なるほど、ピエモンテのトローネは、今でもヘーゼルナッツ入りが定番。上質なヘーゼルナッツがピエモンテの名産だからだ。

ちなみにヌガーの定義は厳密には卵白は必須ではないそうで、だからローマ時代のトリノのお菓子も、ナッツをハチミツで固めた雷オコシ状のお菓子も、ヌガーの一種ということになる。

ラテン詩人のマルコ・ヴァレリオ・マルツィアーレという人は、紀元前600年から紀元前200年頃まで勢力を誇っていたサムニウム人たちがすでにトローネと同じお菓子を作っており、それを売り歩く専門の商人までいたと書いている、とか。

それをアラブの商人達が地中海沿岸地域、特にスペインとイタリアへ持ち込み、普及させた、とか。

そして「トローネ」という名前のお菓子として正式に誕生したのは、1441年10月25日のこと、ということになっているという説もある。

場所はイタリアのクレモナ。

バイオリンのストラディバリウスが作られた場所として有名な、ミラノ近郊の町だ。

フランチェスコ・スフォルツァ(後のミラノ公)とヴィスコンティ家のお嬢様ビアンカ・マリアの婚礼の儀に、トラッツォと呼ばれていた町の鐘塔を象ったお菓子が作られた。

これが後にトローネと呼ばれるようになったというわけだ。

それで今でもクレモナでは、毎年12月にトローネ祭りというのが行われて、去年の開催時には世界一長いトローネが作られたそうだ。

こんなふうに発生説がいろいろあること自体、イタリア人がトローネ大好きな証拠だと思う。いろんな人が、いろんなふうにトローネのことを考えているんだもんね。

だからイタリア全国各地にそれぞれお国自慢のトローネがある。

イタリア食材辞典には「トローネの名産地はクレモナ(ロンバルディア州)、アルバ(ピエモンテ州)、シエナ(トスカーナ州)、ベネベント(カンパーニャ州)、アブルッツォ、カラブリアである」と書かれているが、これ以外の場所でもトローネは作られている。

そういえばイタリアに来たばかりの頃、あちこちでトローネを見かけたので、「どこのお菓子ですか?」と聞いてみると、ピエモンテの名物で、ピエモンテ生まれだと言われた。

それからある時、シチリアに行ったらトローネがまたあったので「これはどこのお菓子ですか?」と聞いてみると、シチリア名物で、シチリア生まれだと言われたのを思い出す。

私の暮らすピエモンテ州アルバのトローネは名産のヘーゼルナッツがふんだんに入っているし、シチリアのそれにはアーモンドやピスタチオが使われている。


そして金槌がないと割れないような固いトローネが伝統かと思えば柔らかいトローネ、チョコレートコーティングされたトローネ、卵白の生地の中にチョコレートを入れた黒っぽいトローネ、卵白なしの茶色いトローネなどなど、様々なバリエーションがある。

そしてイタリアはついに、トローネ好きが高じてトローネ味のジェラートまで作ってしまった。

イタリア人がそのお菓子をどれぐらい好きか、どれぐらいポピュラーかを計るには、そのお菓子味のジェラートがあるかどうかをみればわかると思うのだが、ティラミス味やカッサータ(シチリアの氷菓の一種)味のジェラートに並んで、トローネ味のジェラートも大抵のジェラート屋さんにある。

イタリア人って、ほんとうにトローネが好きなのである。

文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.38 チーズの話・再び

チーズの話・再び

Ancora il racconto del formaggio


リコッタチーズ、おすすめです。

Raccomandatissima la ricotta

最近、私と娘はリコッタチーズにはまっている。

リコッタはほんのりとミルクの味がして、ふんわりと柔らかい。

口の中がやさしくなるその食感は、できたてのお豆腐を食べている感じにも近い。

でも最近はそのまま食べるよりも、朝パンに塗って食べるのが一番のお気に入りだ。

娘はジャンドゥイオット味のスプレッドチョコレートとリコッタを、私は森のハチミツとリコッタを、パンに塗って食べる。

クリーミーなのにしつこくなく、一緒に塗るチョコやハチミツの味を引きたてつつ柔らかくしてくれて、それはそれはおいしい。

私はオレンジのジャムとの組み合わせも大好きで、特にオレンジの皮がゴロゴロ入ったマーマーレードとは最高の組み合わせだと思う。

クリーミーなのにしつこくないというその秘密は、リコッタの作られ方にある。

チーズを作る際、乳にレンネットというチーズ界のニガリのようなものを入れると、チーズになる部分と乳清と呼ばれる水分に分かれる。

この乳清を再度加熱して固めたものがリコッタだ。名前も Ri=再び cotta=加熱した、だからリコッタと言う。

そんなわけでイタリアでは、リコッタは厳密にはチーズのカテゴリーには分類されない。チーズの副産物というわけだ。

チーズを作った残りから生まれるだけに、リコッタには乳脂肪分やカロリーがとても少ない。

牛かヤギか羊かなど、原材料がどんなお乳かによって多少差があるが、牛乳のリコッタなら100gのカロリーが136kcal程度、総脂肪分は8g。みんなが大好きなモッツァレッラチーズはカロリー243kcal、総脂肪分16.1g、マスカルポーネチーズに至ってはエネルギー453kcalに総脂肪分は47g。

うっかり食べ過ぎると大変だが、リコッタなら安心。しかもタンパク質は100g中12gとなかなか優秀。

低カロリー高タンパクの、ダイエットにも最適なチーズとも言えそうだ。

リコッタ協会の回し者でもなんでもないが、愛してやまないリコッタを日本の人にももっと食べてほしいと思う私は、周りを見回してみた。

すると、イタリアの料理界、お菓子界にはリコッタが至る所で活躍していることに、今更ながら驚いた。

たとえばラビオリやトルテッリーニといった詰め物入りのパスタの中身は、リコッタ入りが王道。ほうれん草とリコッタ、エルベッタ(葉野菜の一種)とリコッタといった組み合わせはとてもポピュラーだ。

それからトルタ・サラータといって野菜やお米等をベースにした甘くないケーキは、前菜やセコンド料理によく使われるが、ここにもリコッタがたっぷり入っている。

たとえばズッキーニやにんじん、ペペローニを塩味で炒めたものとリコッタ、卵を混ぜて、パイ生地を敷いた型に流し込んで焼けば、おいしい野菜ケーキのできあがり。

キッシュにちょっと似た作り方だけど、生クリームでなくてリコッタなのでとてもヘルシーというわけだ。

お菓子に使われるリコッタで有名なものと言えば、何をおいてもまずはカンノーリ。

カリッと揚げた筒状の皮の中に、リコッタで作ったクリームをたっぷり詰めていただくシチリアを代表するお菓子だ。

映画『ゴッドファーザー』の中で、怖いマフィアたちもカンノーリには弱い、というようなシーンがあったっけ。それからナポリの伝統ケーキ・パスティエーラもある。

こちらはビスケット生地にリコッタベースのクリームを詰めて焼いたケーキだ。

他にもリコッタを使っているお菓子はたくさんあるが、中でも私の大のお気に入りが「リコッタ・アル・フォルノ」だ。

これは、実はお菓子のカテゴリーには入らないかもしれなくて、売っているのもお菓子屋さんではなくてチーズ屋さんなのだが、甘みとレモンの風味をつけてオーブンで焼いた(アル・フォルノ)その味は、まぎれもなくチーズケーキの味。

レモンの風味が効いていて美味しい上に、カロリーを気にすること無く食べれるリコッタであるというのが嬉しい限り。

イタリアの人たちが、デザートとしてちょっぴり食後に食べるのに対して、私はどかっと大きく切って、午後のお茶と一緒にケーキとして楽しむことにしている。

文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.37 リンゴのフリッテッレ

リンゴのフリッテッレ

Frittelle di mele



冬のスペシャルおやつ

Dolce speciale d' inverno

ヨーロッパの人はリンゴが大好きで、本当によく食べる。

映画なんかでも学生がお弁当代わりに食べているとか、恋人同士が一つのリンゴをかじっているとか、そんなシーンをよく見るような気がする。

イタリアもそんなリンゴ好きは同じで、子供のおやつや食後のデザート、お菓子、そして時には料理の材料として、リンゴが大活躍する。

穿った見方をすれば、日本ほど流通システムが発達していなくて、たとえば冬の今の時期なら、必ず手に入るフルーツと言ったらリンゴとオレンジぐらいしかないからだ、という言い方もできるかもしれない。

でも、そんなひねくれた考えをしたりして私が悪うございました、と反省したのが先日スーパーマーケットへ行ってリンゴ売り場をじっくり眺めてみた時だ。

5メートルほどの長さの一つの棚全部がリンゴで埋まっているのだ。

そしてそこには日本でも御馴染みのゴールデン・デリシャスから、ジョナゴールドとかガーラといった国際品種、それからピエモンテ名産のレネッタ、そして世界中で大人気という日本のフジが並んでいる。

イタリアでリンゴと言えば、北東部にある特別自治州のトレンティーノ・アルト・アディジェ州が有名。

特に北部のアルト・アディジェでは、イタリア国内産リンゴの50%、95万トンを年間で生産するそうで、当然のことながらリンゴを使った名物もたくさんある。

リンゴジュース、リンゴジャム、リンゴワインetc….中でもリンゴのストゥルーデルはとても有名だし、寒い季節のホットリンゴジュースなんかも郷土の人気者だ。

おや、ちょっと待って。ストゥルーデルはオーストリアのお菓子ですよ、とスイーツ通の読者の皆様はお思いになられたんじゃありませんか? 

はい、それも正解です。

でも、第一次世界大戦までアルト・アディジェはオーストリアの領土だったため、現在でも公用語はイタリア語とドイツ語で、人々もイタリア人というよりドイツ人に似た体型、顔かたちの人が多い。

だからアルト・アディジェがイタリアになった今も、オーストリア時代から食べ続けているリンゴのストゥルーデルが健在なのである。

ところでストゥルーデルの陰に隠れてとても地味ではあるけれど、一般の家庭のマンマ、もしくはノンナ手作りのおやつとして俄然人気があるのが「フリッテッレ・ディ・メーレ=リンゴのフリッテッレ」だ。

リンゴに甘い衣をつけて揚げたこのフリッテッレは、カーニバルシーズンの家庭のおやつとして、全イタリア的に人気がある。

衣がフニャフニャと甘く、その中に甘酸っぱいリンゴが隠れているドーナツみたいなもの。各家庭で、それぞれ秘蔵のレシピがあるのだが、私は皮をむいて芯をくり抜き、小麦粉160g、卵2個、牛乳200cc、砂糖30g、塩ひとつまみで作った衣をつけて揚げてみた。

卵は卵白だけ後で泡立てろと、伝統的なレシピ集に書いてあったのでその通りにしたら、ベーキングパウダーを入れずともふんわりとドーナツ状に揚がった。

熱々のところにグラニュー糖をまぶして食べると、甘くて酸っぱい温かい味がお腹の中にすいすい入っていく。

本場アルト・アディジェではゴールデン・デリシャスを使うのが一般的みたいだが、ピエモンテのおばあさんたちは、地元名産のレネッタという、一見梨のような外見をしたリンゴを使う。

試しに両方使ってみたのだが、レネッタのほうが甘味と強烈な酸味があって、揚げたときにそれが引き立つような感じがしたのは、私の身体が半分ピエモンテ人になりかけているせいだろうか? 

文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在

Vol.36 クリスマスのもう一つの楽しみ

クリスマスのもう一つの楽しみ

Un altro gioia di Natale

パンドーロが大好き!

Adoro i pandori!

通りという通りのイルミネーションはキラキラ輝き、店という店のショーウィンドウにはサンタやトナカイが陽気に並んで、クリスマスまでカウントダウン状態のイタリアはもう、わくわく、わくわく。

というふうに、楽しいだけなら幸せなのだが、そうとばかりも言っていられないのが大人の本音。

プレゼントを買いに繰り出す人が中心街に集中するから交通渋滞はいつもの5倍増しぐらいになり、駐車するのも至難の技、店にたどり着いたら着いたでレジは大行列、包装担当の店員は鈍くて下手クソときた日にはイライラ、ストレスは増すばかり。

クリスマスプレゼントは恋人や家族にだけ買えばいい日本とは訳が違い、イタリアでは(そしてたぶん全ヨーロッパ的に)友人知人親戚家族郎党はもちろん、会社の同僚&上司から、かかりつけのお医者さんに習い事の先生にまで、プレゼントを用意しなければならない。日本のお歳暮にも近い感覚といったらわかりやすいだろうか。とにかく大変なのである。


そんなときには買い物なんかさっさと諦めて(そして後でもっと慌てることになるかもしれないけど)、 家に帰っておいしいケーキとお茶のおやつタイムに限る。

この時期のおいしいおやつといえば、私的にはやはりパンドーロだ。

パンドーロはご存知イタリアを代表する2大クリスマスケーキの一つ。

粉と卵、砂糖とバターの生地をたっぷり発酵させただけのシンプル過ぎるほどのケーキなのだが、スポンジケーキでもなく、 カステラでもシフォンでもない不思議なおいしさはクセになる味。フルーツの砂糖煮やレーズンのたっぷり入ったパネットーネの方が 華やかで有名だけれど、実は「私はパンドーロの方が好き」という人が私の知る限りとても多い。

シンプル・イズ・ベストということか。

パンドーロはロメオとジュリエットで有名なヴェローナの発祥。

1200年代から存在する地元のクリスマス菓子「ナダリン」がオリジナルだとか、 海運国としてブイブイ言わせていたヴェネツィア共和国の、金箔を貼り付けた成金お菓子「Pan de oro」(パン・デ・オーロ=金のパン)が パンドーロと変化したものだとか、様々な説がある。

でも現在のパンドーロを完成したのは、ドメニコ・メレガッティというヴェローナの お菓子屋さん。もともと地元の女性達がイブの夜に集まり、25日のクリスマスの正餐(昼食)にそなえて牛乳と粉とイーストで デザートの生地を作るという伝統があった。

これに卵やバターを加えておいしく、リッチに改良したのがドメニコさんというわけだ。 十時間以上発酵させたり、行程も複雑になったレシピは、もはやマンマ達が手作りするものではなく、プロに任せて買うのを楽しみにするものとなった。

こうして1894年10月14日に特許を受けて以来、「メレガッティ」といえばパンドーロの代名詞のようにイタリア中で愛されている。

もちろん現在では、たくさんの製菓会社や街のパスティッチェリアがクリスマスシーズンになればそれぞれのパンドーロを売って、味を競っている。

トリノの老舗パスティッチェリア「G」のスペシャリテ「ヌーヴォラ」は、 自家製パンドーロの表面全体にバタークリームを塗り、その上から粉糖を ふりかけたもの。

「雲」という意味のその名にふさわしく、 ふわふわと軽い食感、そして舌の上ですっと溶ける甘いクリームは、 シンプルなパンドーロのご馳走バージョンだ。

もちろん今のシーズンだけの限定商品。

季節の野菜や果物が生き生きして美味しいように、 季節のお菓子がそれぞれにあって楽しい、おいしい。 これもまた、イタリアの魅力なのである。





文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住