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Vol.40 イタリアのビスケットたち

イタリアのビスケットたち

Biscotti italiani


見かけは悪いけどおいしいよ

Brutti ma buoni
ピエモンテの名物焼き菓子の一つに「ブルッテイ・マ・ブォーニ」というのがある。

イタリア語で「Brutti ma buoni 見かけは悪いけど、めちゃめちゃおいしいよ」という意味のビスコッティ(ビスケット)だ。

メレンゲ生地にアーモンド、またはヘーゼルナッツを混ぜ込んで鍋で沸騰させたら、スプーンでさっとすくって天板にドカッ、ドカッとのせて焼いたというような風貌。

確かに美しくはないけれど、口に入れるとナッツの香ばしさとメレンゲの甘さが口の中で混ざりあって、ああ、おいしい。

メレンゲ生地を沸騰させちゃうの? と一瞬思うのだが、これがオリジナルな作り方で、2回火を入れることから「ビスコッティ」→ビス=2回、コッティ=加熱した という名前になったというわけだ。 

ちなみにトスカーナにもトスカーナ地元菓子「ブルッテイ・ブォーニ」というのがある。

これはサヴォイア家がイタリアを統一した後、トリノからフィレンツェに遷都した時にサヴォイア家のお菓子職人たちがトスカーナに広めたものだそう。

トスカーナヴァージョンには小麦粉に刻みアーモンド、干しぶどう等が入っているのが特徴で、メレンゲっぽいピエモンテヴァージョンとはずいぶん口当たりが違うけれど、これもまた、とてもおいしい。

考えてみるとイタリアのお菓子は、大なり小なり「ブルッティ・マ・ブォーニ」なものがほとんど。 見かけは無骨でシンプルすぎるぐらいシンプルだけど、もう一個食べたい、またもう一個、と後を引くおいしさと言うか、毎日食べたいおいしさと言うか。

フレンチの、宝石のように美しいお菓子たちに比べると見た目が劣るせいか、日本ではなかなか広まらないようだけど、どうぞ日本のみなさん、イタリアの焼き菓子のおいしさをもっと知ってほしいなあ。

最近私がはまっている「トルチェッティ」は、細長くした生地をクルリとねじって馬蹄型にしたようなビスケットの一種。

イタリアの焼き菓子にしては珍しくバターがたっぷり入っているので、かじるとパリパリと砕けて、ちょっとパイ生地にも似た口当たりがやめられないおいしいさ。

イタリアなのにバターを使うのは、やっぱり発祥がフランスに近いピエモンテだからかな。



昔々、ピエモンテあたりの山間の村では各家庭にはオーブンがなくて、 村に一つ共同のパン焼き窯があったそうな。

パンを焼く順番を待つ間に、誰かが余ったパン生地に砂糖かハチミツをまぶして オーブンの入り口付近にちょこっと入れてみたのが最初という。それがいつ頃からかバターが入るようになった。

そしてサヴォイア家のお妃で、ピッツァに名前を冠されて有名になったマルゲリータ女王の大のお気に入りにまでなったとか。

山間の村のパン焼き窯から生まれたと言えば、「パスタ・ディ・メリガ」も私の大のお気に入りだ。

ピエモンテの農村は昔貧しくて、寒さも厳しかったので小麦粉が穫れず、お菓子はもっぱらそば粉やライ麦、からす麦など、 現代ならヘルシー?と褒められるところだけど、当時としては貧しい限りの材料で作られていた 。

時代が移ってポレンタの時代になり、トウモロコシの粉がたくさん生産されるようになると、 お菓子もトウモロコシの粉で作られるようになった。

その一つがトウモロコシ粉のビスケット「パスタ・ディ・メリガ」だ。 食べるたびに、プツプツとトウモロコシ粉の粒が舌に触ってとても楽しい、おいしいお菓子だ。

最近のイタリアでは、ケーキデザインだなんて言って、カップケーキやマフィン等にやたらと派手な色使いでデコレーションしたり、カラフルなケーキなどが遅ればせながら流行し始めている。

でもそんな見かけにだまされないで、昔ながらの本当においしいお菓子をいつまでも大事にしていくのがイタリア、と私はいつも思っている。

文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.39 トローネってどんなお菓子?

トローネってどんなお菓子?

Il torrone ,che dolce e' ?


トローネのオリジナルとは?

Quale e' l'origine di torrone?

今回はトローネというお菓子について。

高温に煮詰めたハチミツと泡立てた卵白、ナッツ類を混ぜ合わせて固めたお菓子が「トローネ」だ。

日本の人には「ヌガー」と言ったほうがわかりやすいかも。

かなり強烈に甘いものも多いけれど、いろいろなナッツの風味が香ばしくて、カリッと齧れるハードタイプも、食べやすいソフトタイプも、どちらもとてもおいしいお菓子だ。

たとえば古代ローマ時代の歴史家プリニウスという人は、当時のトリノにハチミツとヘーゼルナッツで作られたお菓子が存在したと書いている、とか。

なるほど、ピエモンテのトローネは、今でもヘーゼルナッツ入りが定番。上質なヘーゼルナッツがピエモンテの名産だからだ。

ちなみにヌガーの定義は厳密には卵白は必須ではないそうで、だからローマ時代のトリノのお菓子も、ナッツをハチミツで固めた雷オコシ状のお菓子も、ヌガーの一種ということになる。

ラテン詩人のマルコ・ヴァレリオ・マルツィアーレという人は、紀元前600年から紀元前200年頃まで勢力を誇っていたサムニウム人たちがすでにトローネと同じお菓子を作っており、それを売り歩く専門の商人までいたと書いている、とか。

それをアラブの商人達が地中海沿岸地域、特にスペインとイタリアへ持ち込み、普及させた、とか。

そして「トローネ」という名前のお菓子として正式に誕生したのは、1441年10月25日のこと、ということになっているという説もある。

場所はイタリアのクレモナ。

バイオリンのストラディバリウスが作られた場所として有名な、ミラノ近郊の町だ。

フランチェスコ・スフォルツァ(後のミラノ公)とヴィスコンティ家のお嬢様ビアンカ・マリアの婚礼の儀に、トラッツォと呼ばれていた町の鐘塔を象ったお菓子が作られた。

これが後にトローネと呼ばれるようになったというわけだ。

それで今でもクレモナでは、毎年12月にトローネ祭りというのが行われて、去年の開催時には世界一長いトローネが作られたそうだ。

こんなふうに発生説がいろいろあること自体、イタリア人がトローネ大好きな証拠だと思う。いろんな人が、いろんなふうにトローネのことを考えているんだもんね。

だからイタリア全国各地にそれぞれお国自慢のトローネがある。

イタリア食材辞典には「トローネの名産地はクレモナ(ロンバルディア州)、アルバ(ピエモンテ州)、シエナ(トスカーナ州)、ベネベント(カンパーニャ州)、アブルッツォ、カラブリアである」と書かれているが、これ以外の場所でもトローネは作られている。

そういえばイタリアに来たばかりの頃、あちこちでトローネを見かけたので、「どこのお菓子ですか?」と聞いてみると、ピエモンテの名物で、ピエモンテ生まれだと言われた。

それからある時、シチリアに行ったらトローネがまたあったので「これはどこのお菓子ですか?」と聞いてみると、シチリア名物で、シチリア生まれだと言われたのを思い出す。

私の暮らすピエモンテ州アルバのトローネは名産のヘーゼルナッツがふんだんに入っているし、シチリアのそれにはアーモンドやピスタチオが使われている。


そして金槌がないと割れないような固いトローネが伝統かと思えば柔らかいトローネ、チョコレートコーティングされたトローネ、卵白の生地の中にチョコレートを入れた黒っぽいトローネ、卵白なしの茶色いトローネなどなど、様々なバリエーションがある。

そしてイタリアはついに、トローネ好きが高じてトローネ味のジェラートまで作ってしまった。

イタリア人がそのお菓子をどれぐらい好きか、どれぐらいポピュラーかを計るには、そのお菓子味のジェラートがあるかどうかをみればわかると思うのだが、ティラミス味やカッサータ(シチリアの氷菓の一種)味のジェラートに並んで、トローネ味のジェラートも大抵のジェラート屋さんにある。

イタリア人って、ほんとうにトローネが好きなのである。

文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.38 チーズの話・再び

チーズの話・再び

Ancora il racconto del formaggio


リコッタチーズ、おすすめです。

Raccomandatissima la ricotta

最近、私と娘はリコッタチーズにはまっている。

リコッタはほんのりとミルクの味がして、ふんわりと柔らかい。

口の中がやさしくなるその食感は、できたてのお豆腐を食べている感じにも近い。

でも最近はそのまま食べるよりも、朝パンに塗って食べるのが一番のお気に入りだ。

娘はジャンドゥイオット味のスプレッドチョコレートとリコッタを、私は森のハチミツとリコッタを、パンに塗って食べる。

クリーミーなのにしつこくなく、一緒に塗るチョコやハチミツの味を引きたてつつ柔らかくしてくれて、それはそれはおいしい。

私はオレンジのジャムとの組み合わせも大好きで、特にオレンジの皮がゴロゴロ入ったマーマーレードとは最高の組み合わせだと思う。

クリーミーなのにしつこくないというその秘密は、リコッタの作られ方にある。

チーズを作る際、乳にレンネットというチーズ界のニガリのようなものを入れると、チーズになる部分と乳清と呼ばれる水分に分かれる。

この乳清を再度加熱して固めたものがリコッタだ。名前も Ri=再び cotta=加熱した、だからリコッタと言う。

そんなわけでイタリアでは、リコッタは厳密にはチーズのカテゴリーには分類されない。チーズの副産物というわけだ。

チーズを作った残りから生まれるだけに、リコッタには乳脂肪分やカロリーがとても少ない。

牛かヤギか羊かなど、原材料がどんなお乳かによって多少差があるが、牛乳のリコッタなら100gのカロリーが136kcal程度、総脂肪分は8g。みんなが大好きなモッツァレッラチーズはカロリー243kcal、総脂肪分16.1g、マスカルポーネチーズに至ってはエネルギー453kcalに総脂肪分は47g。

うっかり食べ過ぎると大変だが、リコッタなら安心。しかもタンパク質は100g中12gとなかなか優秀。

低カロリー高タンパクの、ダイエットにも最適なチーズとも言えそうだ。

リコッタ協会の回し者でもなんでもないが、愛してやまないリコッタを日本の人にももっと食べてほしいと思う私は、周りを見回してみた。

すると、イタリアの料理界、お菓子界にはリコッタが至る所で活躍していることに、今更ながら驚いた。

たとえばラビオリやトルテッリーニといった詰め物入りのパスタの中身は、リコッタ入りが王道。ほうれん草とリコッタ、エルベッタ(葉野菜の一種)とリコッタといった組み合わせはとてもポピュラーだ。

それからトルタ・サラータといって野菜やお米等をベースにした甘くないケーキは、前菜やセコンド料理によく使われるが、ここにもリコッタがたっぷり入っている。

たとえばズッキーニやにんじん、ペペローニを塩味で炒めたものとリコッタ、卵を混ぜて、パイ生地を敷いた型に流し込んで焼けば、おいしい野菜ケーキのできあがり。

キッシュにちょっと似た作り方だけど、生クリームでなくてリコッタなのでとてもヘルシーというわけだ。

お菓子に使われるリコッタで有名なものと言えば、何をおいてもまずはカンノーリ。

カリッと揚げた筒状の皮の中に、リコッタで作ったクリームをたっぷり詰めていただくシチリアを代表するお菓子だ。

映画『ゴッドファーザー』の中で、怖いマフィアたちもカンノーリには弱い、というようなシーンがあったっけ。それからナポリの伝統ケーキ・パスティエーラもある。

こちらはビスケット生地にリコッタベースのクリームを詰めて焼いたケーキだ。

他にもリコッタを使っているお菓子はたくさんあるが、中でも私の大のお気に入りが「リコッタ・アル・フォルノ」だ。

これは、実はお菓子のカテゴリーには入らないかもしれなくて、売っているのもお菓子屋さんではなくてチーズ屋さんなのだが、甘みとレモンの風味をつけてオーブンで焼いた(アル・フォルノ)その味は、まぎれもなくチーズケーキの味。

レモンの風味が効いていて美味しい上に、カロリーを気にすること無く食べれるリコッタであるというのが嬉しい限り。

イタリアの人たちが、デザートとしてちょっぴり食後に食べるのに対して、私はどかっと大きく切って、午後のお茶と一緒にケーキとして楽しむことにしている。

文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.37 リンゴのフリッテッレ

リンゴのフリッテッレ

Frittelle di mele



冬のスペシャルおやつ

Dolce speciale d' inverno

ヨーロッパの人はリンゴが大好きで、本当によく食べる。

映画なんかでも学生がお弁当代わりに食べているとか、恋人同士が一つのリンゴをかじっているとか、そんなシーンをよく見るような気がする。

イタリアもそんなリンゴ好きは同じで、子供のおやつや食後のデザート、お菓子、そして時には料理の材料として、リンゴが大活躍する。

穿った見方をすれば、日本ほど流通システムが発達していなくて、たとえば冬の今の時期なら、必ず手に入るフルーツと言ったらリンゴとオレンジぐらいしかないからだ、という言い方もできるかもしれない。

でも、そんなひねくれた考えをしたりして私が悪うございました、と反省したのが先日スーパーマーケットへ行ってリンゴ売り場をじっくり眺めてみた時だ。

5メートルほどの長さの一つの棚全部がリンゴで埋まっているのだ。

そしてそこには日本でも御馴染みのゴールデン・デリシャスから、ジョナゴールドとかガーラといった国際品種、それからピエモンテ名産のレネッタ、そして世界中で大人気という日本のフジが並んでいる。

イタリアでリンゴと言えば、北東部にある特別自治州のトレンティーノ・アルト・アディジェ州が有名。

特に北部のアルト・アディジェでは、イタリア国内産リンゴの50%、95万トンを年間で生産するそうで、当然のことながらリンゴを使った名物もたくさんある。

リンゴジュース、リンゴジャム、リンゴワインetc….中でもリンゴのストゥルーデルはとても有名だし、寒い季節のホットリンゴジュースなんかも郷土の人気者だ。

おや、ちょっと待って。ストゥルーデルはオーストリアのお菓子ですよ、とスイーツ通の読者の皆様はお思いになられたんじゃありませんか? 

はい、それも正解です。

でも、第一次世界大戦までアルト・アディジェはオーストリアの領土だったため、現在でも公用語はイタリア語とドイツ語で、人々もイタリア人というよりドイツ人に似た体型、顔かたちの人が多い。

だからアルト・アディジェがイタリアになった今も、オーストリア時代から食べ続けているリンゴのストゥルーデルが健在なのである。

ところでストゥルーデルの陰に隠れてとても地味ではあるけれど、一般の家庭のマンマ、もしくはノンナ手作りのおやつとして俄然人気があるのが「フリッテッレ・ディ・メーレ=リンゴのフリッテッレ」だ。

リンゴに甘い衣をつけて揚げたこのフリッテッレは、カーニバルシーズンの家庭のおやつとして、全イタリア的に人気がある。

衣がフニャフニャと甘く、その中に甘酸っぱいリンゴが隠れているドーナツみたいなもの。各家庭で、それぞれ秘蔵のレシピがあるのだが、私は皮をむいて芯をくり抜き、小麦粉160g、卵2個、牛乳200cc、砂糖30g、塩ひとつまみで作った衣をつけて揚げてみた。

卵は卵白だけ後で泡立てろと、伝統的なレシピ集に書いてあったのでその通りにしたら、ベーキングパウダーを入れずともふんわりとドーナツ状に揚がった。

熱々のところにグラニュー糖をまぶして食べると、甘くて酸っぱい温かい味がお腹の中にすいすい入っていく。

本場アルト・アディジェではゴールデン・デリシャスを使うのが一般的みたいだが、ピエモンテのおばあさんたちは、地元名産のレネッタという、一見梨のような外見をしたリンゴを使う。

試しに両方使ってみたのだが、レネッタのほうが甘味と強烈な酸味があって、揚げたときにそれが引き立つような感じがしたのは、私の身体が半分ピエモンテ人になりかけているせいだろうか? 

文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在

Vol.36 クリスマスのもう一つの楽しみ

クリスマスのもう一つの楽しみ

Un altro gioia di Natale

パンドーロが大好き!

Adoro i pandori!

通りという通りのイルミネーションはキラキラ輝き、店という店のショーウィンドウにはサンタやトナカイが陽気に並んで、クリスマスまでカウントダウン状態のイタリアはもう、わくわく、わくわく。

というふうに、楽しいだけなら幸せなのだが、そうとばかりも言っていられないのが大人の本音。

プレゼントを買いに繰り出す人が中心街に集中するから交通渋滞はいつもの5倍増しぐらいになり、駐車するのも至難の技、店にたどり着いたら着いたでレジは大行列、包装担当の店員は鈍くて下手クソときた日にはイライラ、ストレスは増すばかり。

クリスマスプレゼントは恋人や家族にだけ買えばいい日本とは訳が違い、イタリアでは(そしてたぶん全ヨーロッパ的に)友人知人親戚家族郎党はもちろん、会社の同僚&上司から、かかりつけのお医者さんに習い事の先生にまで、プレゼントを用意しなければならない。日本のお歳暮にも近い感覚といったらわかりやすいだろうか。とにかく大変なのである。


そんなときには買い物なんかさっさと諦めて(そして後でもっと慌てることになるかもしれないけど)、 家に帰っておいしいケーキとお茶のおやつタイムに限る。

この時期のおいしいおやつといえば、私的にはやはりパンドーロだ。

パンドーロはご存知イタリアを代表する2大クリスマスケーキの一つ。

粉と卵、砂糖とバターの生地をたっぷり発酵させただけのシンプル過ぎるほどのケーキなのだが、スポンジケーキでもなく、 カステラでもシフォンでもない不思議なおいしさはクセになる味。フルーツの砂糖煮やレーズンのたっぷり入ったパネットーネの方が 華やかで有名だけれど、実は「私はパンドーロの方が好き」という人が私の知る限りとても多い。

シンプル・イズ・ベストということか。

パンドーロはロメオとジュリエットで有名なヴェローナの発祥。

1200年代から存在する地元のクリスマス菓子「ナダリン」がオリジナルだとか、 海運国としてブイブイ言わせていたヴェネツィア共和国の、金箔を貼り付けた成金お菓子「Pan de oro」(パン・デ・オーロ=金のパン)が パンドーロと変化したものだとか、様々な説がある。

でも現在のパンドーロを完成したのは、ドメニコ・メレガッティというヴェローナの お菓子屋さん。もともと地元の女性達がイブの夜に集まり、25日のクリスマスの正餐(昼食)にそなえて牛乳と粉とイーストで デザートの生地を作るという伝統があった。

これに卵やバターを加えておいしく、リッチに改良したのがドメニコさんというわけだ。 十時間以上発酵させたり、行程も複雑になったレシピは、もはやマンマ達が手作りするものではなく、プロに任せて買うのを楽しみにするものとなった。

こうして1894年10月14日に特許を受けて以来、「メレガッティ」といえばパンドーロの代名詞のようにイタリア中で愛されている。

もちろん現在では、たくさんの製菓会社や街のパスティッチェリアがクリスマスシーズンになればそれぞれのパンドーロを売って、味を競っている。

トリノの老舗パスティッチェリア「G」のスペシャリテ「ヌーヴォラ」は、 自家製パンドーロの表面全体にバタークリームを塗り、その上から粉糖を ふりかけたもの。

「雲」という意味のその名にふさわしく、 ふわふわと軽い食感、そして舌の上ですっと溶ける甘いクリームは、 シンプルなパンドーロのご馳走バージョンだ。

もちろん今のシーズンだけの限定商品。

季節の野菜や果物が生き生きして美味しいように、 季節のお菓子がそれぞれにあって楽しい、おいしい。 これもまた、イタリアの魅力なのである。





文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.35 スポンジケーキ、誕生秘話

スポンジケーキ、誕生秘話

Storia nascosta della pan di spagna
いちごのショートケーキ
ジェノヴァか、スペインか!?
Genova o Spagna!?
イタリアでは12月8日の祝日(カソリックの無原罪の御宿りの日)が クリスマスの飾り付けをする日ということになっているが、 最近はどんどん早まってきて、11月中旬には 街はすでにクリスマス気分一色の今日この頃。
クリスマス1 クリスマス2
日本に住んでいない私は、クリスマスというとイチゴのショートケーキがとても食べたくなる。 イタリアのクリスマスには(クリスマスじゃなくても)イチゴショートがないから、よけいに食べたくなるのだ。 ショートケーキがないかわりに、イタリア人がクリスマスに何を食べるかという話は、以前に書いた通り。
時は1700年代の中頃。当時海運国として栄えていた ジェノバ共和国(まだイタリアという国になっていない)の大使がスペインへ赴く際、 お付きの料理人や腕のいい菓子職人を従えて赴任した。 ある時非常に大切な晩餐会があったので、 大使は菓子職人、ジェノバ出身のジョヴァンニ・バッティスタ・カボーナを呼んで 「いつもと違う、すっごいお菓子を作って世界をうならせちゃおう」と 言ったかどうかは知らないが、とにかく新しいお菓子をオーダーした。 カボーナはいろいろ考えたあげく、サヴォイ・ビスケットを改良し ふわふわと大きく膨らんだケーキを作りあげた。 晩餐会で大層な評判を得たこのケーキを、 カボーナはケーキの誕生した場所を記念し 「パン・ディ・スパーニャ=スペインのパン」と呼ぶことにした。
一方スペイン宮廷では、あまりにおいしいお菓子に感動した フェルディナンドⅣ世とお付きの人々が、 こんなに素晴らしいケーキを作った菓子職人が生まれた土地、 ということで、ジェノバの名前をケーキに与えることに決めた。 以後、このケーキは世界中で「ジェノバの生地=パータ・ジェノワーズ」 として親しまれるようになったというわけだ。
時を経て、21世紀のイタリアではパン・ディ・スパーニャを どうやって食べているかというと、 代表的なのは「ズコット」といって、 スポンジとクリームをドーム型に入れて固めたケーキや 「イギリス風スープ」という意味の、トライフルのような デザート「ズッパ・イングレーゼ」だ。
その他、様々なクリームを添えたり挟んだり、 そのまま食べたり、使い方はいろいろだが、 スポンジ生地の繊細さ、おいしさを そのまま味わうというよりは、 何かのお菓子の下地、脇役的な使われ方をしてきている。
イタリアのケーキ
それが最近のイタリアでは、 フレンチテイストのおしゃれで華やかな ケーキの人気が高まってきている。 ケーキ屋さんにその手のケーキが増えてきているのはもちろん、 美しい写真を多用したレシピ本や雑誌も急増中だ。
だからふわふわのイチゴショートをイタリアで堪能できる日も近いかな、 トリノのパンナはおいしいからなあ❤と 楽しみに頬が緩む今日この頃なのです。
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.34 マルメッラータな日々

マルメッラータな日々

Le giornate delle marmellate
マルメッラータ
パンに,ケーキに、ブリオッシュに。
Con il pane, con la crostata e nelle brioche
マルメッラータとは、イタリア語でいうジャムのこと。語感的には英語のマーマレードにあたるものかな、と調べてみると、 イタリア語のmarmellataは英語のjam、marmaladeのどちらにもあたる。じゃ、ジャムとマーマレードの違いは?  と食品大辞典を開いてみると、柑橘系の果物の、特に皮も一緒に煮込んだものがマーマレード、他の果物で作ったものがジャム、 というようなことらしい。たしかに、言われてみるとそんな感じだ。 というわけで、イタリアではジャム類全般をさしてマルメッラータという。
新しい家の敷地にはイチジクの木がたくさんあって、食べても食べても終わらないほど、今年は(って今年が初めてなんだけど)豊作であった。 おやつに、食後のデザートに、これでもかというほどイチジクを食べ、イチジクでお菓子を作り、それから生ハムを買ってきて イチジクと一緒に食べた。これは実においしいので、日本のみなさんもぜひ試してみてください。生ハムのしょっぱさ、 ねっとりした脂の味とイチジクの組み合わせは、個人的にはメロンとのそれよりもずっと合うと思っている。
それでもまだまだあるので、じゃあ、ご近所さんにおすそわけしようかと思ったら、イチジクの木はこの辺りではポピュラーなようで、 みなさんお持ちなのであった。うーむ残念。
仕方がないので,最後の手段。そう、ジャムにするのである。私のジャムはとてもおいしいと(家族から)評判なのでよく作るのだけれど、 今までは都会暮らしで、果物をわざわざ買って作っていたから、そんなに大量じゃなかった。ところが今度は捨てたくなるほどのイチジク。 とにかく、剥いて、剥いて、また剥いて。イチジクの汁のせいでアレルギー性主婦湿疹(手湿疹)の気がある私の手は痒くてしかたがなかったが,とにかく剥きまくって,鍋に入れ、砂糖も入れて、ジャムをいっぱい作った。 そのジャムをつけた、自家製天然酵母パンの朝ご飯は、とてもいい気分である。
天然酵母パンイタリアの人は、朝ご飯にビスケットとカフェという人が圧倒的に多いようだが、pane e marmellata パンとジャムという人もいる。 パン&ジャム派の人も、イタリア人なのでバターはつけない。だからといってオリーブオイルもつけないから、イタリアの朝ご飯は 油脂がない分カロリーが低いかもしれない。 しかしイタリア人はマルメッラータが大好きで、朝ご飯だけでなく、パイの具としてもジャムを多用する。これはクロスタータ・アラ・マルメッラータなどと呼ばれて、アプリコット味、ベリー味など、様々な味がある。

パイ1 パイ2
それからバールで食べるおやつの定番「ブリオッシュ」もマルメッラータ入りが人気である。ブリオッシュといっても、おフランスの、 あのアントワネット様が物議を醸したというあれではなくて、見た目はクロワッサン風なパン菓子のようなものである。
これがvuoto(中身なし)、crema(クリーム入り)、そして marmellata(ジャム入り)の3種類ぐらいあることになっている。
イタリアに暮らして最初にお目にかかったときは、ぐえー、ジャム入りクロワッサン? と思ったものだが、かじった一口が焼きたてで、
中から温かいジャムがとろ?りと出てきたりすると、なかなかしあわせなおいしさに浸れるのです。
日本で増えているというイタリア風バールでも、おしゃれなものばかりじゃなくて、ちょっとダサいけどおいしい、こんな味も再現してほしいなあ。       
ブリオッシュ
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住