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Vol.38 チーズの話・再び

チーズの話・再び

Ancora il racconto del formaggio


リコッタチーズ、おすすめです。

Raccomandatissima la ricotta

最近、私と娘はリコッタチーズにはまっている。

リコッタはほんのりとミルクの味がして、ふんわりと柔らかい。

口の中がやさしくなるその食感は、できたてのお豆腐を食べている感じにも近い。

でも最近はそのまま食べるよりも、朝パンに塗って食べるのが一番のお気に入りだ。

娘はジャンドゥイオット味のスプレッドチョコレートとリコッタを、私は森のハチミツとリコッタを、パンに塗って食べる。

クリーミーなのにしつこくなく、一緒に塗るチョコやハチミツの味を引きたてつつ柔らかくしてくれて、それはそれはおいしい。

私はオレンジのジャムとの組み合わせも大好きで、特にオレンジの皮がゴロゴロ入ったマーマーレードとは最高の組み合わせだと思う。

クリーミーなのにしつこくないというその秘密は、リコッタの作られ方にある。

チーズを作る際、乳にレンネットというチーズ界のニガリのようなものを入れると、チーズになる部分と乳清と呼ばれる水分に分かれる。

この乳清を再度加熱して固めたものがリコッタだ。名前も Ri=再び cotta=加熱した、だからリコッタと言う。

そんなわけでイタリアでは、リコッタは厳密にはチーズのカテゴリーには分類されない。チーズの副産物というわけだ。

チーズを作った残りから生まれるだけに、リコッタには乳脂肪分やカロリーがとても少ない。

牛かヤギか羊かなど、原材料がどんなお乳かによって多少差があるが、牛乳のリコッタなら100gのカロリーが136kcal程度、総脂肪分は8g。みんなが大好きなモッツァレッラチーズはカロリー243kcal、総脂肪分16.1g、マスカルポーネチーズに至ってはエネルギー453kcalに総脂肪分は47g。

うっかり食べ過ぎると大変だが、リコッタなら安心。しかもタンパク質は100g中12gとなかなか優秀。

低カロリー高タンパクの、ダイエットにも最適なチーズとも言えそうだ。

リコッタ協会の回し者でもなんでもないが、愛してやまないリコッタを日本の人にももっと食べてほしいと思う私は、周りを見回してみた。

すると、イタリアの料理界、お菓子界にはリコッタが至る所で活躍していることに、今更ながら驚いた。

たとえばラビオリやトルテッリーニといった詰め物入りのパスタの中身は、リコッタ入りが王道。ほうれん草とリコッタ、エルベッタ(葉野菜の一種)とリコッタといった組み合わせはとてもポピュラーだ。

それからトルタ・サラータといって野菜やお米等をベースにした甘くないケーキは、前菜やセコンド料理によく使われるが、ここにもリコッタがたっぷり入っている。

たとえばズッキーニやにんじん、ペペローニを塩味で炒めたものとリコッタ、卵を混ぜて、パイ生地を敷いた型に流し込んで焼けば、おいしい野菜ケーキのできあがり。

キッシュにちょっと似た作り方だけど、生クリームでなくてリコッタなのでとてもヘルシーというわけだ。

お菓子に使われるリコッタで有名なものと言えば、何をおいてもまずはカンノーリ。

カリッと揚げた筒状の皮の中に、リコッタで作ったクリームをたっぷり詰めていただくシチリアを代表するお菓子だ。

映画『ゴッドファーザー』の中で、怖いマフィアたちもカンノーリには弱い、というようなシーンがあったっけ。それからナポリの伝統ケーキ・パスティエーラもある。

こちらはビスケット生地にリコッタベースのクリームを詰めて焼いたケーキだ。

他にもリコッタを使っているお菓子はたくさんあるが、中でも私の大のお気に入りが「リコッタ・アル・フォルノ」だ。

これは、実はお菓子のカテゴリーには入らないかもしれなくて、売っているのもお菓子屋さんではなくてチーズ屋さんなのだが、甘みとレモンの風味をつけてオーブンで焼いた(アル・フォルノ)その味は、まぎれもなくチーズケーキの味。

レモンの風味が効いていて美味しい上に、カロリーを気にすること無く食べれるリコッタであるというのが嬉しい限り。

イタリアの人たちが、デザートとしてちょっぴり食後に食べるのに対して、私はどかっと大きく切って、午後のお茶と一緒にケーキとして楽しむことにしている。

文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.37 リンゴのフリッテッレ

リンゴのフリッテッレ

Frittelle di mele



冬のスペシャルおやつ

Dolce speciale d' inverno

ヨーロッパの人はリンゴが大好きで、本当によく食べる。

映画なんかでも学生がお弁当代わりに食べているとか、恋人同士が一つのリンゴをかじっているとか、そんなシーンをよく見るような気がする。

イタリアもそんなリンゴ好きは同じで、子供のおやつや食後のデザート、お菓子、そして時には料理の材料として、リンゴが大活躍する。

穿った見方をすれば、日本ほど流通システムが発達していなくて、たとえば冬の今の時期なら、必ず手に入るフルーツと言ったらリンゴとオレンジぐらいしかないからだ、という言い方もできるかもしれない。

でも、そんなひねくれた考えをしたりして私が悪うございました、と反省したのが先日スーパーマーケットへ行ってリンゴ売り場をじっくり眺めてみた時だ。

5メートルほどの長さの一つの棚全部がリンゴで埋まっているのだ。

そしてそこには日本でも御馴染みのゴールデン・デリシャスから、ジョナゴールドとかガーラといった国際品種、それからピエモンテ名産のレネッタ、そして世界中で大人気という日本のフジが並んでいる。

イタリアでリンゴと言えば、北東部にある特別自治州のトレンティーノ・アルト・アディジェ州が有名。

特に北部のアルト・アディジェでは、イタリア国内産リンゴの50%、95万トンを年間で生産するそうで、当然のことながらリンゴを使った名物もたくさんある。

リンゴジュース、リンゴジャム、リンゴワインetc….中でもリンゴのストゥルーデルはとても有名だし、寒い季節のホットリンゴジュースなんかも郷土の人気者だ。

おや、ちょっと待って。ストゥルーデルはオーストリアのお菓子ですよ、とスイーツ通の読者の皆様はお思いになられたんじゃありませんか? 

はい、それも正解です。

でも、第一次世界大戦までアルト・アディジェはオーストリアの領土だったため、現在でも公用語はイタリア語とドイツ語で、人々もイタリア人というよりドイツ人に似た体型、顔かたちの人が多い。

だからアルト・アディジェがイタリアになった今も、オーストリア時代から食べ続けているリンゴのストゥルーデルが健在なのである。

ところでストゥルーデルの陰に隠れてとても地味ではあるけれど、一般の家庭のマンマ、もしくはノンナ手作りのおやつとして俄然人気があるのが「フリッテッレ・ディ・メーレ=リンゴのフリッテッレ」だ。

リンゴに甘い衣をつけて揚げたこのフリッテッレは、カーニバルシーズンの家庭のおやつとして、全イタリア的に人気がある。

衣がフニャフニャと甘く、その中に甘酸っぱいリンゴが隠れているドーナツみたいなもの。各家庭で、それぞれ秘蔵のレシピがあるのだが、私は皮をむいて芯をくり抜き、小麦粉160g、卵2個、牛乳200cc、砂糖30g、塩ひとつまみで作った衣をつけて揚げてみた。

卵は卵白だけ後で泡立てろと、伝統的なレシピ集に書いてあったのでその通りにしたら、ベーキングパウダーを入れずともふんわりとドーナツ状に揚がった。

熱々のところにグラニュー糖をまぶして食べると、甘くて酸っぱい温かい味がお腹の中にすいすい入っていく。

本場アルト・アディジェではゴールデン・デリシャスを使うのが一般的みたいだが、ピエモンテのおばあさんたちは、地元名産のレネッタという、一見梨のような外見をしたリンゴを使う。

試しに両方使ってみたのだが、レネッタのほうが甘味と強烈な酸味があって、揚げたときにそれが引き立つような感じがしたのは、私の身体が半分ピエモンテ人になりかけているせいだろうか? 

文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在

Vol.36 クリスマスのもう一つの楽しみ

クリスマスのもう一つの楽しみ

Un altro gioia di Natale

パンドーロが大好き!

Adoro i pandori!

通りという通りのイルミネーションはキラキラ輝き、店という店のショーウィンドウにはサンタやトナカイが陽気に並んで、クリスマスまでカウントダウン状態のイタリアはもう、わくわく、わくわく。

というふうに、楽しいだけなら幸せなのだが、そうとばかりも言っていられないのが大人の本音。

プレゼントを買いに繰り出す人が中心街に集中するから交通渋滞はいつもの5倍増しぐらいになり、駐車するのも至難の技、店にたどり着いたら着いたでレジは大行列、包装担当の店員は鈍くて下手クソときた日にはイライラ、ストレスは増すばかり。

クリスマスプレゼントは恋人や家族にだけ買えばいい日本とは訳が違い、イタリアでは(そしてたぶん全ヨーロッパ的に)友人知人親戚家族郎党はもちろん、会社の同僚&上司から、かかりつけのお医者さんに習い事の先生にまで、プレゼントを用意しなければならない。日本のお歳暮にも近い感覚といったらわかりやすいだろうか。とにかく大変なのである。


そんなときには買い物なんかさっさと諦めて(そして後でもっと慌てることになるかもしれないけど)、 家に帰っておいしいケーキとお茶のおやつタイムに限る。

この時期のおいしいおやつといえば、私的にはやはりパンドーロだ。

パンドーロはご存知イタリアを代表する2大クリスマスケーキの一つ。

粉と卵、砂糖とバターの生地をたっぷり発酵させただけのシンプル過ぎるほどのケーキなのだが、スポンジケーキでもなく、 カステラでもシフォンでもない不思議なおいしさはクセになる味。フルーツの砂糖煮やレーズンのたっぷり入ったパネットーネの方が 華やかで有名だけれど、実は「私はパンドーロの方が好き」という人が私の知る限りとても多い。

シンプル・イズ・ベストということか。

パンドーロはロメオとジュリエットで有名なヴェローナの発祥。

1200年代から存在する地元のクリスマス菓子「ナダリン」がオリジナルだとか、 海運国としてブイブイ言わせていたヴェネツィア共和国の、金箔を貼り付けた成金お菓子「Pan de oro」(パン・デ・オーロ=金のパン)が パンドーロと変化したものだとか、様々な説がある。

でも現在のパンドーロを完成したのは、ドメニコ・メレガッティというヴェローナの お菓子屋さん。もともと地元の女性達がイブの夜に集まり、25日のクリスマスの正餐(昼食)にそなえて牛乳と粉とイーストで デザートの生地を作るという伝統があった。

これに卵やバターを加えておいしく、リッチに改良したのがドメニコさんというわけだ。 十時間以上発酵させたり、行程も複雑になったレシピは、もはやマンマ達が手作りするものではなく、プロに任せて買うのを楽しみにするものとなった。

こうして1894年10月14日に特許を受けて以来、「メレガッティ」といえばパンドーロの代名詞のようにイタリア中で愛されている。

もちろん現在では、たくさんの製菓会社や街のパスティッチェリアがクリスマスシーズンになればそれぞれのパンドーロを売って、味を競っている。

トリノの老舗パスティッチェリア「G」のスペシャリテ「ヌーヴォラ」は、 自家製パンドーロの表面全体にバタークリームを塗り、その上から粉糖を ふりかけたもの。

「雲」という意味のその名にふさわしく、 ふわふわと軽い食感、そして舌の上ですっと溶ける甘いクリームは、 シンプルなパンドーロのご馳走バージョンだ。

もちろん今のシーズンだけの限定商品。

季節の野菜や果物が生き生きして美味しいように、 季節のお菓子がそれぞれにあって楽しい、おいしい。 これもまた、イタリアの魅力なのである。





文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.35 スポンジケーキ、誕生秘話

スポンジケーキ、誕生秘話

Storia nascosta della pan di spagna
いちごのショートケーキ
ジェノヴァか、スペインか!?
Genova o Spagna!?
イタリアでは12月8日の祝日(カソリックの無原罪の御宿りの日)が クリスマスの飾り付けをする日ということになっているが、 最近はどんどん早まってきて、11月中旬には 街はすでにクリスマス気分一色の今日この頃。
クリスマス1 クリスマス2
日本に住んでいない私は、クリスマスというとイチゴのショートケーキがとても食べたくなる。 イタリアのクリスマスには(クリスマスじゃなくても)イチゴショートがないから、よけいに食べたくなるのだ。 ショートケーキがないかわりに、イタリア人がクリスマスに何を食べるかという話は、以前に書いた通り。
時は1700年代の中頃。当時海運国として栄えていた ジェノバ共和国(まだイタリアという国になっていない)の大使がスペインへ赴く際、 お付きの料理人や腕のいい菓子職人を従えて赴任した。 ある時非常に大切な晩餐会があったので、 大使は菓子職人、ジェノバ出身のジョヴァンニ・バッティスタ・カボーナを呼んで 「いつもと違う、すっごいお菓子を作って世界をうならせちゃおう」と 言ったかどうかは知らないが、とにかく新しいお菓子をオーダーした。 カボーナはいろいろ考えたあげく、サヴォイ・ビスケットを改良し ふわふわと大きく膨らんだケーキを作りあげた。 晩餐会で大層な評判を得たこのケーキを、 カボーナはケーキの誕生した場所を記念し 「パン・ディ・スパーニャ=スペインのパン」と呼ぶことにした。
一方スペイン宮廷では、あまりにおいしいお菓子に感動した フェルディナンドⅣ世とお付きの人々が、 こんなに素晴らしいケーキを作った菓子職人が生まれた土地、 ということで、ジェノバの名前をケーキに与えることに決めた。 以後、このケーキは世界中で「ジェノバの生地=パータ・ジェノワーズ」 として親しまれるようになったというわけだ。
時を経て、21世紀のイタリアではパン・ディ・スパーニャを どうやって食べているかというと、 代表的なのは「ズコット」といって、 スポンジとクリームをドーム型に入れて固めたケーキや 「イギリス風スープ」という意味の、トライフルのような デザート「ズッパ・イングレーゼ」だ。
その他、様々なクリームを添えたり挟んだり、 そのまま食べたり、使い方はいろいろだが、 スポンジ生地の繊細さ、おいしさを そのまま味わうというよりは、 何かのお菓子の下地、脇役的な使われ方をしてきている。
イタリアのケーキ
それが最近のイタリアでは、 フレンチテイストのおしゃれで華やかな ケーキの人気が高まってきている。 ケーキ屋さんにその手のケーキが増えてきているのはもちろん、 美しい写真を多用したレシピ本や雑誌も急増中だ。
だからふわふわのイチゴショートをイタリアで堪能できる日も近いかな、 トリノのパンナはおいしいからなあ❤と 楽しみに頬が緩む今日この頃なのです。
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.34 マルメッラータな日々

マルメッラータな日々

Le giornate delle marmellate
マルメッラータ
パンに,ケーキに、ブリオッシュに。
Con il pane, con la crostata e nelle brioche
マルメッラータとは、イタリア語でいうジャムのこと。語感的には英語のマーマレードにあたるものかな、と調べてみると、 イタリア語のmarmellataは英語のjam、marmaladeのどちらにもあたる。じゃ、ジャムとマーマレードの違いは?  と食品大辞典を開いてみると、柑橘系の果物の、特に皮も一緒に煮込んだものがマーマレード、他の果物で作ったものがジャム、 というようなことらしい。たしかに、言われてみるとそんな感じだ。 というわけで、イタリアではジャム類全般をさしてマルメッラータという。
新しい家の敷地にはイチジクの木がたくさんあって、食べても食べても終わらないほど、今年は(って今年が初めてなんだけど)豊作であった。 おやつに、食後のデザートに、これでもかというほどイチジクを食べ、イチジクでお菓子を作り、それから生ハムを買ってきて イチジクと一緒に食べた。これは実においしいので、日本のみなさんもぜひ試してみてください。生ハムのしょっぱさ、 ねっとりした脂の味とイチジクの組み合わせは、個人的にはメロンとのそれよりもずっと合うと思っている。
それでもまだまだあるので、じゃあ、ご近所さんにおすそわけしようかと思ったら、イチジクの木はこの辺りではポピュラーなようで、 みなさんお持ちなのであった。うーむ残念。
仕方がないので,最後の手段。そう、ジャムにするのである。私のジャムはとてもおいしいと(家族から)評判なのでよく作るのだけれど、 今までは都会暮らしで、果物をわざわざ買って作っていたから、そんなに大量じゃなかった。ところが今度は捨てたくなるほどのイチジク。 とにかく、剥いて、剥いて、また剥いて。イチジクの汁のせいでアレルギー性主婦湿疹(手湿疹)の気がある私の手は痒くてしかたがなかったが,とにかく剥きまくって,鍋に入れ、砂糖も入れて、ジャムをいっぱい作った。 そのジャムをつけた、自家製天然酵母パンの朝ご飯は、とてもいい気分である。
天然酵母パンイタリアの人は、朝ご飯にビスケットとカフェという人が圧倒的に多いようだが、pane e marmellata パンとジャムという人もいる。 パン&ジャム派の人も、イタリア人なのでバターはつけない。だからといってオリーブオイルもつけないから、イタリアの朝ご飯は 油脂がない分カロリーが低いかもしれない。 しかしイタリア人はマルメッラータが大好きで、朝ご飯だけでなく、パイの具としてもジャムを多用する。これはクロスタータ・アラ・マルメッラータなどと呼ばれて、アプリコット味、ベリー味など、様々な味がある。

パイ1 パイ2
それからバールで食べるおやつの定番「ブリオッシュ」もマルメッラータ入りが人気である。ブリオッシュといっても、おフランスの、 あのアントワネット様が物議を醸したというあれではなくて、見た目はクロワッサン風なパン菓子のようなものである。
これがvuoto(中身なし)、crema(クリーム入り)、そして marmellata(ジャム入り)の3種類ぐらいあることになっている。
イタリアに暮らして最初にお目にかかったときは、ぐえー、ジャム入りクロワッサン? と思ったものだが、かじった一口が焼きたてで、
中から温かいジャムがとろ?りと出てきたりすると、なかなかしあわせなおいしさに浸れるのです。
日本で増えているというイタリア風バールでも、おしゃれなものばかりじゃなくて、ちょっとダサいけどおいしい、こんな味も再現してほしいなあ。       
ブリオッシュ
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.33 デザートワインの甘くて苦い思い出

デザートワインの甘くて苦い思い出

Un ricordo dolce e amaro del vino Moscato
デザートワイン
秋だ、収穫に行こう!!
E' autunno. Andiamo a vendemiare!!
夏の厳しい暑さもようやく陰りを見せ始めた今日この頃、みなさまいかがお過ごしですか。 それにしても今年の夏は暑かった。イタリアでは今年の記録的な暑さのおかげで、 ワイン用のブドウが例年になくぐんぐん育ち、収穫のタイミングがずいぶん早まったそうだ。
生産量、消費量ともに常にフランスと抜きつ抜かれつして世界一の座を争っているイタリアでは、 人々の暮らし、食生活のいたるところにワインが深く関わっている。だからブドウの収穫が早まったとか、ブドウのできが良いとか悪いとか、量が多いの少ないの、といった話題が頻繁にテレビや新聞に、そして人々の口に上る。
ピエモンテの丘陵地帯では、今年は早いところでは8月中旬から、遅いところでも今、まさにブドウの収穫真っ盛りだ。大きなワイン会社も小さなブドウ農家も、それぞれの畑のブドウが熟すと家族総出はもちろん、臨時の労働者にご近所さんまでかり出して、一斉に収穫に取りかかる。そんな様子を見ていたら、私がイタリアに来たばかりの頃(な、なんと17年前!)の懐かしい笑い話を思い出した。
ブドウ畑収穫したブドウ
それは料理の修業にきていた日本人のシェフばかりで、あるワイン農家の収穫を手伝いに行った(行かされた?)ときのことだ。
ピエモンテのワイン畑は、コッリーナといってけっこう急勾配の丘陵地帯にある。それが水はけや陽当たり具合を良くするのでワイン畑に最適と言われる所以なのだが、収穫するのはとても辛い。急な坂道を上がったり下がったりしながらチョッキン、チョッキンとブドウを一房づつハサミで切っていくのだから、いくら17年前の若かりし私でも、足はガクガク、腰はボロボロになるのであった。おまけに暑いし。疲れた私たちはだんだん投げやりになり、仕事も雑になっていったのは言うまでもない。それでもどんどん進んで行くと、なんだか腐ったような房ばかりがぶら下がっている畝に到着した。「なんだ、これ、腐ってるんじゃん?」「ゲー、カビが生えてるみたい、気持ちわりー」えーい、こんなのこうしてやる、えーい、えーいと取ったブドウの房を地面に落とし、足で踏みつけたりしていた(ごめんなさいー。でも、腐った房は収穫のカゴに入れないこと、という説明も受けていたのだ)。そのとき仲間の一人が走ってやってきた。「みなさーん、それは腐ってるんじゃなくて、貴腐菌がついているんです。ほらほら、ソーテルヌとかと同じように、甘くておいしいデザートワインのためのブドウなんです!」
そう、それはピエモンテで、そして全イタリアで愛されているデザートワイン「モスカート・ダスティ」のためのモスカートという品種のブドウだったのだ。貴腐菌という菌をぶどうにつけて、いわゆる「腐った」状態にして水分を抜き、糖度を上げるという仕組みなのだが、そんなこととはつゆ知らない間抜けな私たちを手伝いに使ったばっかりに、あの年の、あの農家の収穫量はほんの少し下がってしまったかもしれない。ごめんなさい。   こんなことを思い出しながら、秋の日差しのテラスにて、冷えたモスカート・ダスティをおやつに飲んだ。デザートワインとして有名だけれど、甘く、香り高く、そしてアルコール度数は低いので、午後の飲み物としても最適。そうそう、私はこのモスカートにゼラチンを加えてゼリーを作る。緩めに固め、スプーンでくずしたら、赤いフルーツやミントの葉も添えてフルートグラスに盛りつける。おしゃれなデザート&ワインの一杯はいかが?
インサラータ・ディ・パスタ
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.32 イタリアの夏ごはん

イタリアの夏ごはん

La pappa estiva alla italiana
朝ごはん
暑い夏をイタリア人はどう乗り切るか?
Come fanno a sopravvivere la calda estate gli italiani?
イタリアの夏はけっこう暑い。ただし暑いといっても湿気が少ないので、日陰や家の中に入ればスッと涼しく過ごしやすいし、熱帯夜なんてものもほとんどない。あ~日本に比べてなんて過ごしやすいの?と思うのは東京の殺人的な暑さの中で一ヶ月ほど里帰りしてきた私だけ。当のイタリア人たちは、それなりに暑がっていて、それなりの暑さ対策をとっている。
暑さ対策の一番目は、「暑い時間はお昼寝。働いたり遊んだりするのは早朝と夕方以降の涼しい時間にいたしましょう」というもの。意外なことに早起きで働き者が多いイタリアでは、朝は7時や8時頃から仕事をするし、海のバカンスでも早朝からビーチに繰り出す人は少なくない。そのかわり、昼の12時から4時ごろの日差しが強烈な時間帯には、家に帰ってランチ&お昼寝。ちなみにミラノやトリノあたりの北部イタリアの一般家庭にはクーラーなどほとんどないけれど、厚い石の壁に包まれた建物は冷んやり涼しくて、お昼寝に支障がない。クーラーなしでは昼寝なんて絶対無理の日本の暑さでは、この技はあまり参考になりませんね。
というわけで、暑さ対策その2は「お料理はできるだけ火を使わず、もしくはスピーディーに加熱して、家の中が熱くなるのを防ぎましょう」だ。火を使わない夏の料理の代表選手と言えば、モッツァレッラチーズとトマトをスライスし、バジルを添えただけの「カプレーゼ」。タンパク質に乳脂肪たっぷりのジューシーなモッツァレッラと、真っ赤に熟した甘くて酸っぱくて香り高いトマトをするりと喉に流し込めば、暑さなんてなんのその。ここにおいしいパンとオリーブオイル、上等の塩、そして好きな飲み物があれば、どうです、火を使わずして素敵なランチが完成するというわけです。
カプレーゼ
ミラノ名物のブレザオラ(牛肉で作ったハムのようなもの)を大きなお皿いっぱいに並べ広げ、その上に刻んだ山盛りのルッコラをのせ、レモンとオリーブオイルであえたものも、すっきりした酸味と肉の旨味、ルッコラの苦みのハーモニーが食欲をそそる一皿。
そしてピエモンテ名物「カルネ・クルーダ」は、最上等の牛肉を包丁でミンチ状に叩く、または薄くスライスして、レモンとオリーブオイル、塩で調味したという、究極の加熱ゼロクッキング。ここにセロリと、大きく削ったパルミジャーノチーズを合わせるのが伝統的なレシピ。脂肪の少ない上等な肉の甘みにチーズとセロリの風味がぴったりとマッチして、それは食欲をかき立てるおいしさだ。日本では生肉が禁止になったそうなのでお薦めするのもどうかと思うが、湿気が少なくて食中毒が起きにくいイタリアではお刺身よりも生肉のほうがポピュラーというわけだ。
一方、火は使うけど、ほんのちょっとだけよ、の究極メニューは「インサラータ・ディ・パスタ」(パスタのサラダ)。パスタを茹でるのと一緒に刻んだインゲン豆やズッキーニを茹でる。加熱時間約10分のみ。茹であがったパスタとインゲン豆の水気を切ったらボウルなどに入れ、ツナ、サイコロ状に切ったモッツァレッラチーズやモルタデッラハム、プチトマト、コーン、オリーブ、刻んだピクルス類などを好みで加え、あればちぎったバジリコの葉っぱなども加え、これまたオリーブオイル、塩、コショウ、レモンなどであえるだけ。栄養のバランスもよく、カラフルで見た目もおいしそう。冷めてもおいしいのでお弁当にも最適、と歴代のイタリア主婦たちから絶大な支持を得続けている。同じようにして「インサラータ・ディ・リーゾ」(お米のサラダ)を作ることもできるが、お米の加熱時間はパスタの約2倍になるので、悪しからず。
インサラータ・ディ・パスタ
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住