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Vol.36 クリスマスのもう一つの楽しみ

クリスマスのもう一つの楽しみ

Un altro gioia di Natale

パンドーロが大好き!

Adoro i pandori!

通りという通りのイルミネーションはキラキラ輝き、店という店のショーウィンドウにはサンタやトナカイが陽気に並んで、クリスマスまでカウントダウン状態のイタリアはもう、わくわく、わくわく。

というふうに、楽しいだけなら幸せなのだが、そうとばかりも言っていられないのが大人の本音。

プレゼントを買いに繰り出す人が中心街に集中するから交通渋滞はいつもの5倍増しぐらいになり、駐車するのも至難の技、店にたどり着いたら着いたでレジは大行列、包装担当の店員は鈍くて下手クソときた日にはイライラ、ストレスは増すばかり。

クリスマスプレゼントは恋人や家族にだけ買えばいい日本とは訳が違い、イタリアでは(そしてたぶん全ヨーロッパ的に)友人知人親戚家族郎党はもちろん、会社の同僚&上司から、かかりつけのお医者さんに習い事の先生にまで、プレゼントを用意しなければならない。日本のお歳暮にも近い感覚といったらわかりやすいだろうか。とにかく大変なのである。


そんなときには買い物なんかさっさと諦めて(そして後でもっと慌てることになるかもしれないけど)、 家に帰っておいしいケーキとお茶のおやつタイムに限る。

この時期のおいしいおやつといえば、私的にはやはりパンドーロだ。

パンドーロはご存知イタリアを代表する2大クリスマスケーキの一つ。

粉と卵、砂糖とバターの生地をたっぷり発酵させただけのシンプル過ぎるほどのケーキなのだが、スポンジケーキでもなく、 カステラでもシフォンでもない不思議なおいしさはクセになる味。フルーツの砂糖煮やレーズンのたっぷり入ったパネットーネの方が 華やかで有名だけれど、実は「私はパンドーロの方が好き」という人が私の知る限りとても多い。

シンプル・イズ・ベストということか。

パンドーロはロメオとジュリエットで有名なヴェローナの発祥。

1200年代から存在する地元のクリスマス菓子「ナダリン」がオリジナルだとか、 海運国としてブイブイ言わせていたヴェネツィア共和国の、金箔を貼り付けた成金お菓子「Pan de oro」(パン・デ・オーロ=金のパン)が パンドーロと変化したものだとか、様々な説がある。

でも現在のパンドーロを完成したのは、ドメニコ・メレガッティというヴェローナの お菓子屋さん。もともと地元の女性達がイブの夜に集まり、25日のクリスマスの正餐(昼食)にそなえて牛乳と粉とイーストで デザートの生地を作るという伝統があった。

これに卵やバターを加えておいしく、リッチに改良したのがドメニコさんというわけだ。 十時間以上発酵させたり、行程も複雑になったレシピは、もはやマンマ達が手作りするものではなく、プロに任せて買うのを楽しみにするものとなった。

こうして1894年10月14日に特許を受けて以来、「メレガッティ」といえばパンドーロの代名詞のようにイタリア中で愛されている。

もちろん現在では、たくさんの製菓会社や街のパスティッチェリアがクリスマスシーズンになればそれぞれのパンドーロを売って、味を競っている。

トリノの老舗パスティッチェリア「G」のスペシャリテ「ヌーヴォラ」は、 自家製パンドーロの表面全体にバタークリームを塗り、その上から粉糖を ふりかけたもの。

「雲」という意味のその名にふさわしく、 ふわふわと軽い食感、そして舌の上ですっと溶ける甘いクリームは、 シンプルなパンドーロのご馳走バージョンだ。

もちろん今のシーズンだけの限定商品。

季節の野菜や果物が生き生きして美味しいように、 季節のお菓子がそれぞれにあって楽しい、おいしい。 これもまた、イタリアの魅力なのである。





文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.35 スポンジケーキ、誕生秘話

スポンジケーキ、誕生秘話

Storia nascosta della pan di spagna
いちごのショートケーキ
ジェノヴァか、スペインか!?
Genova o Spagna!?
イタリアでは12月8日の祝日(カソリックの無原罪の御宿りの日)が クリスマスの飾り付けをする日ということになっているが、 最近はどんどん早まってきて、11月中旬には 街はすでにクリスマス気分一色の今日この頃。
クリスマス1 クリスマス2
日本に住んでいない私は、クリスマスというとイチゴのショートケーキがとても食べたくなる。 イタリアのクリスマスには(クリスマスじゃなくても)イチゴショートがないから、よけいに食べたくなるのだ。 ショートケーキがないかわりに、イタリア人がクリスマスに何を食べるかという話は、以前に書いた通り。
時は1700年代の中頃。当時海運国として栄えていた ジェノバ共和国(まだイタリアという国になっていない)の大使がスペインへ赴く際、 お付きの料理人や腕のいい菓子職人を従えて赴任した。 ある時非常に大切な晩餐会があったので、 大使は菓子職人、ジェノバ出身のジョヴァンニ・バッティスタ・カボーナを呼んで 「いつもと違う、すっごいお菓子を作って世界をうならせちゃおう」と 言ったかどうかは知らないが、とにかく新しいお菓子をオーダーした。 カボーナはいろいろ考えたあげく、サヴォイ・ビスケットを改良し ふわふわと大きく膨らんだケーキを作りあげた。 晩餐会で大層な評判を得たこのケーキを、 カボーナはケーキの誕生した場所を記念し 「パン・ディ・スパーニャ=スペインのパン」と呼ぶことにした。
一方スペイン宮廷では、あまりにおいしいお菓子に感動した フェルディナンドⅣ世とお付きの人々が、 こんなに素晴らしいケーキを作った菓子職人が生まれた土地、 ということで、ジェノバの名前をケーキに与えることに決めた。 以後、このケーキは世界中で「ジェノバの生地=パータ・ジェノワーズ」 として親しまれるようになったというわけだ。
時を経て、21世紀のイタリアではパン・ディ・スパーニャを どうやって食べているかというと、 代表的なのは「ズコット」といって、 スポンジとクリームをドーム型に入れて固めたケーキや 「イギリス風スープ」という意味の、トライフルのような デザート「ズッパ・イングレーゼ」だ。
その他、様々なクリームを添えたり挟んだり、 そのまま食べたり、使い方はいろいろだが、 スポンジ生地の繊細さ、おいしさを そのまま味わうというよりは、 何かのお菓子の下地、脇役的な使われ方をしてきている。
イタリアのケーキ
それが最近のイタリアでは、 フレンチテイストのおしゃれで華やかな ケーキの人気が高まってきている。 ケーキ屋さんにその手のケーキが増えてきているのはもちろん、 美しい写真を多用したレシピ本や雑誌も急増中だ。
だからふわふわのイチゴショートをイタリアで堪能できる日も近いかな、 トリノのパンナはおいしいからなあ❤と 楽しみに頬が緩む今日この頃なのです。
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.34 マルメッラータな日々

マルメッラータな日々

Le giornate delle marmellate
マルメッラータ
パンに,ケーキに、ブリオッシュに。
Con il pane, con la crostata e nelle brioche
マルメッラータとは、イタリア語でいうジャムのこと。語感的には英語のマーマレードにあたるものかな、と調べてみると、 イタリア語のmarmellataは英語のjam、marmaladeのどちらにもあたる。じゃ、ジャムとマーマレードの違いは?  と食品大辞典を開いてみると、柑橘系の果物の、特に皮も一緒に煮込んだものがマーマレード、他の果物で作ったものがジャム、 というようなことらしい。たしかに、言われてみるとそんな感じだ。 というわけで、イタリアではジャム類全般をさしてマルメッラータという。
新しい家の敷地にはイチジクの木がたくさんあって、食べても食べても終わらないほど、今年は(って今年が初めてなんだけど)豊作であった。 おやつに、食後のデザートに、これでもかというほどイチジクを食べ、イチジクでお菓子を作り、それから生ハムを買ってきて イチジクと一緒に食べた。これは実においしいので、日本のみなさんもぜひ試してみてください。生ハムのしょっぱさ、 ねっとりした脂の味とイチジクの組み合わせは、個人的にはメロンとのそれよりもずっと合うと思っている。
それでもまだまだあるので、じゃあ、ご近所さんにおすそわけしようかと思ったら、イチジクの木はこの辺りではポピュラーなようで、 みなさんお持ちなのであった。うーむ残念。
仕方がないので,最後の手段。そう、ジャムにするのである。私のジャムはとてもおいしいと(家族から)評判なのでよく作るのだけれど、 今までは都会暮らしで、果物をわざわざ買って作っていたから、そんなに大量じゃなかった。ところが今度は捨てたくなるほどのイチジク。 とにかく、剥いて、剥いて、また剥いて。イチジクの汁のせいでアレルギー性主婦湿疹(手湿疹)の気がある私の手は痒くてしかたがなかったが,とにかく剥きまくって,鍋に入れ、砂糖も入れて、ジャムをいっぱい作った。 そのジャムをつけた、自家製天然酵母パンの朝ご飯は、とてもいい気分である。
天然酵母パンイタリアの人は、朝ご飯にビスケットとカフェという人が圧倒的に多いようだが、pane e marmellata パンとジャムという人もいる。 パン&ジャム派の人も、イタリア人なのでバターはつけない。だからといってオリーブオイルもつけないから、イタリアの朝ご飯は 油脂がない分カロリーが低いかもしれない。 しかしイタリア人はマルメッラータが大好きで、朝ご飯だけでなく、パイの具としてもジャムを多用する。これはクロスタータ・アラ・マルメッラータなどと呼ばれて、アプリコット味、ベリー味など、様々な味がある。

パイ1 パイ2
それからバールで食べるおやつの定番「ブリオッシュ」もマルメッラータ入りが人気である。ブリオッシュといっても、おフランスの、 あのアントワネット様が物議を醸したというあれではなくて、見た目はクロワッサン風なパン菓子のようなものである。
これがvuoto(中身なし)、crema(クリーム入り)、そして marmellata(ジャム入り)の3種類ぐらいあることになっている。
イタリアに暮らして最初にお目にかかったときは、ぐえー、ジャム入りクロワッサン? と思ったものだが、かじった一口が焼きたてで、
中から温かいジャムがとろ?りと出てきたりすると、なかなかしあわせなおいしさに浸れるのです。
日本で増えているというイタリア風バールでも、おしゃれなものばかりじゃなくて、ちょっとダサいけどおいしい、こんな味も再現してほしいなあ。       
ブリオッシュ
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.33 デザートワインの甘くて苦い思い出

デザートワインの甘くて苦い思い出

Un ricordo dolce e amaro del vino Moscato
デザートワイン
秋だ、収穫に行こう!!
E' autunno. Andiamo a vendemiare!!
夏の厳しい暑さもようやく陰りを見せ始めた今日この頃、みなさまいかがお過ごしですか。 それにしても今年の夏は暑かった。イタリアでは今年の記録的な暑さのおかげで、 ワイン用のブドウが例年になくぐんぐん育ち、収穫のタイミングがずいぶん早まったそうだ。
生産量、消費量ともに常にフランスと抜きつ抜かれつして世界一の座を争っているイタリアでは、 人々の暮らし、食生活のいたるところにワインが深く関わっている。だからブドウの収穫が早まったとか、ブドウのできが良いとか悪いとか、量が多いの少ないの、といった話題が頻繁にテレビや新聞に、そして人々の口に上る。
ピエモンテの丘陵地帯では、今年は早いところでは8月中旬から、遅いところでも今、まさにブドウの収穫真っ盛りだ。大きなワイン会社も小さなブドウ農家も、それぞれの畑のブドウが熟すと家族総出はもちろん、臨時の労働者にご近所さんまでかり出して、一斉に収穫に取りかかる。そんな様子を見ていたら、私がイタリアに来たばかりの頃(な、なんと17年前!)の懐かしい笑い話を思い出した。
ブドウ畑収穫したブドウ
それは料理の修業にきていた日本人のシェフばかりで、あるワイン農家の収穫を手伝いに行った(行かされた?)ときのことだ。
ピエモンテのワイン畑は、コッリーナといってけっこう急勾配の丘陵地帯にある。それが水はけや陽当たり具合を良くするのでワイン畑に最適と言われる所以なのだが、収穫するのはとても辛い。急な坂道を上がったり下がったりしながらチョッキン、チョッキンとブドウを一房づつハサミで切っていくのだから、いくら17年前の若かりし私でも、足はガクガク、腰はボロボロになるのであった。おまけに暑いし。疲れた私たちはだんだん投げやりになり、仕事も雑になっていったのは言うまでもない。それでもどんどん進んで行くと、なんだか腐ったような房ばかりがぶら下がっている畝に到着した。「なんだ、これ、腐ってるんじゃん?」「ゲー、カビが生えてるみたい、気持ちわりー」えーい、こんなのこうしてやる、えーい、えーいと取ったブドウの房を地面に落とし、足で踏みつけたりしていた(ごめんなさいー。でも、腐った房は収穫のカゴに入れないこと、という説明も受けていたのだ)。そのとき仲間の一人が走ってやってきた。「みなさーん、それは腐ってるんじゃなくて、貴腐菌がついているんです。ほらほら、ソーテルヌとかと同じように、甘くておいしいデザートワインのためのブドウなんです!」
そう、それはピエモンテで、そして全イタリアで愛されているデザートワイン「モスカート・ダスティ」のためのモスカートという品種のブドウだったのだ。貴腐菌という菌をぶどうにつけて、いわゆる「腐った」状態にして水分を抜き、糖度を上げるという仕組みなのだが、そんなこととはつゆ知らない間抜けな私たちを手伝いに使ったばっかりに、あの年の、あの農家の収穫量はほんの少し下がってしまったかもしれない。ごめんなさい。   こんなことを思い出しながら、秋の日差しのテラスにて、冷えたモスカート・ダスティをおやつに飲んだ。デザートワインとして有名だけれど、甘く、香り高く、そしてアルコール度数は低いので、午後の飲み物としても最適。そうそう、私はこのモスカートにゼラチンを加えてゼリーを作る。緩めに固め、スプーンでくずしたら、赤いフルーツやミントの葉も添えてフルートグラスに盛りつける。おしゃれなデザート&ワインの一杯はいかが?
インサラータ・ディ・パスタ
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.32 イタリアの夏ごはん

イタリアの夏ごはん

La pappa estiva alla italiana
朝ごはん
暑い夏をイタリア人はどう乗り切るか?
Come fanno a sopravvivere la calda estate gli italiani?
イタリアの夏はけっこう暑い。ただし暑いといっても湿気が少ないので、日陰や家の中に入ればスッと涼しく過ごしやすいし、熱帯夜なんてものもほとんどない。あ~日本に比べてなんて過ごしやすいの?と思うのは東京の殺人的な暑さの中で一ヶ月ほど里帰りしてきた私だけ。当のイタリア人たちは、それなりに暑がっていて、それなりの暑さ対策をとっている。
暑さ対策の一番目は、「暑い時間はお昼寝。働いたり遊んだりするのは早朝と夕方以降の涼しい時間にいたしましょう」というもの。意外なことに早起きで働き者が多いイタリアでは、朝は7時や8時頃から仕事をするし、海のバカンスでも早朝からビーチに繰り出す人は少なくない。そのかわり、昼の12時から4時ごろの日差しが強烈な時間帯には、家に帰ってランチ&お昼寝。ちなみにミラノやトリノあたりの北部イタリアの一般家庭にはクーラーなどほとんどないけれど、厚い石の壁に包まれた建物は冷んやり涼しくて、お昼寝に支障がない。クーラーなしでは昼寝なんて絶対無理の日本の暑さでは、この技はあまり参考になりませんね。
というわけで、暑さ対策その2は「お料理はできるだけ火を使わず、もしくはスピーディーに加熱して、家の中が熱くなるのを防ぎましょう」だ。火を使わない夏の料理の代表選手と言えば、モッツァレッラチーズとトマトをスライスし、バジルを添えただけの「カプレーゼ」。タンパク質に乳脂肪たっぷりのジューシーなモッツァレッラと、真っ赤に熟した甘くて酸っぱくて香り高いトマトをするりと喉に流し込めば、暑さなんてなんのその。ここにおいしいパンとオリーブオイル、上等の塩、そして好きな飲み物があれば、どうです、火を使わずして素敵なランチが完成するというわけです。
カプレーゼ
ミラノ名物のブレザオラ(牛肉で作ったハムのようなもの)を大きなお皿いっぱいに並べ広げ、その上に刻んだ山盛りのルッコラをのせ、レモンとオリーブオイルであえたものも、すっきりした酸味と肉の旨味、ルッコラの苦みのハーモニーが食欲をそそる一皿。
そしてピエモンテ名物「カルネ・クルーダ」は、最上等の牛肉を包丁でミンチ状に叩く、または薄くスライスして、レモンとオリーブオイル、塩で調味したという、究極の加熱ゼロクッキング。ここにセロリと、大きく削ったパルミジャーノチーズを合わせるのが伝統的なレシピ。脂肪の少ない上等な肉の甘みにチーズとセロリの風味がぴったりとマッチして、それは食欲をかき立てるおいしさだ。日本では生肉が禁止になったそうなのでお薦めするのもどうかと思うが、湿気が少なくて食中毒が起きにくいイタリアではお刺身よりも生肉のほうがポピュラーというわけだ。
一方、火は使うけど、ほんのちょっとだけよ、の究極メニューは「インサラータ・ディ・パスタ」(パスタのサラダ)。パスタを茹でるのと一緒に刻んだインゲン豆やズッキーニを茹でる。加熱時間約10分のみ。茹であがったパスタとインゲン豆の水気を切ったらボウルなどに入れ、ツナ、サイコロ状に切ったモッツァレッラチーズやモルタデッラハム、プチトマト、コーン、オリーブ、刻んだピクルス類などを好みで加え、あればちぎったバジリコの葉っぱなども加え、これまたオリーブオイル、塩、コショウ、レモンなどであえるだけ。栄養のバランスもよく、カラフルで見た目もおいしそう。冷めてもおいしいのでお弁当にも最適、と歴代のイタリア主婦たちから絶大な支持を得続けている。同じようにして「インサラータ・ディ・リーゾ」(お米のサラダ)を作ることもできるが、お米の加熱時間はパスタの約2倍になるので、悪しからず。
インサラータ・ディ・パスタ
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.31 イタリア菓子マカロン?

イタリア菓子マカロン?

Il maccarone,dolce italiano?

マカロン
フレンチスイーツブーム in Italy
Il boom dei dolci francesi in Italia
日本でも大人気が続いているマカロン。今やフレンチスイーツの代表選手のような存在になったこの焼き菓子は、昨年あたりからイタリアでも大ブーム。私の住むトリノの街のド真ん中にはパリのマカロン専門店が去年オープンしたし、先日はスーパーの製菓材料コーナーに、イタリア製のマカロンミックスがあって驚いた。おいしいけれどちょっと地味なイタリア菓子に比べると、カラフルで、一口サイズで、いろいろな味が楽しめる、そんなマカロンの魅力に取りつかれたイタリア人が増えているのかもしれない。
イタリアは今まで、なぜかお隣の国フランスのものを拒絶し続けてきた。料理の基本も、アートの基礎も、もとはと言えばみんなオレタチが教えてやったのに、自分たちだけで偉くなったような顔をして気に食わん! とでもいうように、とにかくフランスが嫌いだった。だからイタリアにはフレンチレストランがほとんどないし、フレンチワインを売る酒屋も少ない。フランスから遠い日本で当たり前のように食べているダコワーズやマドレーヌだが、お隣のイタリアではほとんど知られていないと思う。
なのにこのマカロンブーム。そういえばマカロンだけでなく、ミニグラスに入ったフレンチ風おしゃれデザートやクレーム・ブリュレ、カヌレなんかも見かけるようになってきた。時代は変わったんだなあ、と感慨にふけりながらちょっと調べてみると、なんと! マカロンはイタリア生まれのお菓子だったという説があるのだ。
クレーム・ブリュレカヌレ
1533年にフランスにお嫁入りしたメディチ家のお姫様、カテリーナ・デ・メディチは「あんな田舎に一人ぼっちでお嫁に行かせるんなら、お抱えのコックやお菓子職人も一緒に連れて行かせてくれなくちゃいやですわ」とお父さんに駄々をこねたかどうかは知らないが、とにかく大勢の家来と一緒に御輿入りした。その時一緒にフランスに行ったデザート担当が、シャーベットやフロランタンなどの焼き菓子をフランスに広めたというのは有名な話だ。マカロンもその一つだということで、当時は今のようなサンドイッチ状ではなく、一枚のビスケットタイプだったという話。
そういえばピエモンテの伝統デザート「ボネ」に欠かせない材料でもある「アマレット」は、卵白と砂糖、アーモンドの核を使ったマカロンに限りなく近いお菓子だ。だからマカロンが実はイタリア生まれで、フランス風な洗練を受けて里帰りしたという説はあながち嘘じゃなさそうだ。そして今度はきっと、里帰りしたマカロンがイタリアンテイストを身にまとってフランスへ、そして日本へ渡って行く。とっても楽しみじゃない?
マカロン2
文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住

Vol.30 グラニータの冷たい夏

グラニータの冷たい夏L’Estate Fresca della Granita

暑い夏はこれに限る!Senza Granita non si puo sopravivere !!

イタリアの夏のデザートと言えばジェラート! を思い浮かべる人は多いと思うけれど、実はそうでもないと私は思っている。イタリア人は一年中、寒くたってジェラートをなめながら歩いているし、レストランのデザートメニューからジェラートが姿を消すことは一年中ないからだ。むしろあのリッチでクリーミーな味わいは(シャーベット系ジェラートは別)あまり暑くないときのほうがおいしい、と私は思うのだが、案外同じ思いのイタリア人も多いのかもしれない。もちろん暑い陽気になれば冷たいものが食べたくなるわけで、ジェラートの売り上げもさぞかし上がるだろうけれど…、いや、待てよ。イタリアが暑くなる頃にだけ、ジェラテリアやバールに登場する、冷たくておいしいものがある。そう、グラニータだ。もしかして夏のジェラートは、グラニータに主役の座(なんの?)を明け渡しているのではないだろうか?
グラニータとは、ご存じ、イタリア版かき氷、のようなもの。水、砂糖、フルーツ果汁、またはリキュール、コーヒーなどで作ったシロップをかき混ぜながら凍らせることで小さな氷の粒が残り、そのざらざらする舌触りが独特で、おいしい。グラニータという名前もまさに“粒々の”“顆粒状の”という意味のイタリア語Granulosoから。レストランで提供されることはあまりないけれど、夏のイタリアを歩けば、街のあちこちで、四角くて透明な箱状のものにはいったドロドロの液体が、どろーりどろーりとまわっているのを誰でも目にするはず。なんだかこんなふうに書いていると、ちっとも暑い夏に食べたい感じがしないか。
グラニータの発祥はシチリア。もともとシチリアのお金持ちたちには、エトナ山などに降り積もった雪をかき集め、山奥の洞窟などに作らせた石の容器に保存させておくという習慣があったそうだ。夏になるとその雪は少し溶け、氷の塊になっていたから、それを削ってフルーツ果汁やハチミツをかけて食べ、暑さを凌ぐという贅沢をしていたわけだ。あら、それって日本のかき氷そのものじゃない。イタリアではこれがグラニータやソルベット、そしてジェラートへと変化していくけれど、日本は原始的なかき氷の風情を今も楽しんでいるというわけですね。ちなみにイタリアでも19世紀初頭まで「グラッタケッカ・ロマーナ」としていわゆるかき氷が残っていたらしい。グラッタは削る、ケッカはまだ冷蔵庫の無かった時代に食品を冷やすために使われていた氷の塊のこと。
さてシチリア。9世紀頃上陸してきたサラセン人(イスラム帝国のアラブ人)たちは、アラブの伝統的な冷たい飲み物「シャルバート」を作るのに、エトナ山の雪に目をつけた。フルーツ果汁や花の香りをつけた水に甘みを加えた彼らの飲み物を冷やすために、エトナの雪に塩を加えて利用することを思いついたのだ。そう、皆さん覚えていますか、理科の実験でやったよね、氷に塩を加えると温度がさらに下がるって。こうしてエトナ山の雪は冷菓の材料から冷凍剤へとなっていったのだ。
1600年代になると、とあるシチリア人が現在の形に近いグラニータやジェラートを発明。で、その孫のフランチェスコ・プロコーペという人が、パリへ渡りジェラート屋を開業した。彼のグラニータは爆発的人気を博する。かのルイ14世も大変お気に召して、ヴェルサイユ宮殿までプロコーペさんを招待したとか。こうしてジェラートとグラニータがヨーロッパ全土に広まっていった。ちなみに1687年創業のプロコーペさんの店「Café Procope」は今でもパリ6区のrue de l’Ancienne Comedìeにあって、立派なカフェ&レストランとして営業している。
トリノやミラノあたりの北部の街中では、グラニータは赤とか緑の強烈な色が付けられ、バールの一角でぐるぐる回る機械に入れられて、ちょっとチープな印象なのに、実はジェラートの親としてこんなに壮大な歴史を持っていたのである。もちろん素材にこだわり、伝統レシピにこだわる昨今の傾向で、グラニータもシチリアオリジナルのレモンで作ったもの、アーモンドやピスタチオのもの、コーヒー味のものなどが北部でも食べられるようになってきた。紙やプラスティックでできたコップに入れてもらって、先がスプーン状になったストローでグラニータを食べながら歩くと、灼熱のイタリアの夏も、快適に過ごせるというわけだ。

灼熱といえば、トリノなんか比にならない、焦げるほどの暑さのシチリアでは、街のあちこちに、ビーチのそこここに、グラニータの屋台がある。シチリアレモンの皮を使ったもの、名物のアーモンドの粒粒が入ったもの、そして最近ではビール風味なんてのも登場しているとか。そうそう、朝っぱらからものすごく暑いシチリアでは、グラニータをブリオッシュと呼ばれるご当地独特のパン(いわゆるフランスのブリオッシュとはちょっと違う)にはさんで朝ご飯に食べるのが伝統スタイルだそう。パンにはさめるということは、わりと水分の少ないグラニータなわけで、なるほど調べてみるとシチリアでは場所によってグラニータの凍らせ加減、水分加減がいろいろと違うのだそうだ。残念ながら私は何度シチリアへ行ってもグラニータパンを食べ損ねているので、これから行く人がいたら、ぜひ挑戦して感想をお聞かせください。


文・宮本さやか フード・ジャーナリスト/イタリア トリノ在住